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【詩】海辺のトンボ

浜辺を、トンボが飛んでいる
ガラスの翅を、震わせて
右へ、左へ、餌食を追って
トンボの群れが、飛んでいる

岸辺に寄せる波の音
時に烈しく、時にやさしく
飽くことなく、叩きつづける
やるせなく、ひびきわたる咆哮に
深い暗い水底で、空に焦がれていた頃の
陸を目指して、息を切らしていた頃の
潮の匂いが、懐かしい

トンボの空を、燕が通りすぎていく
羽ばたいて、風を追いかけている

飛ぶことは、叶わなかった
海と分かつことも、許されなかった
言葉をおぼえ、涙を知った
怒りに目ざめて、罪を犯すようになった
息することの危うさを、知らされた
命の限りを、知っている
そのくせ、支配者を気どっている

遥かな地平を、眺めているのに
空の広さを、信じていない
月の満ち欠けを、知っているのに
空は青いと、信じている

雲間から、日が射してきた
きらめきが、海原をわたってくる
変わらず今日も、潮は満ち干を繰り返す
やがて、西に陽が落ちるまで
トンボは、夢を追いかける
燕は、風を追いかける


©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。