【詩】水かがみ
田はいちめん、若葉に染まり
水面に、空を映している
伸びはじめた、みどりの葉を
風が、涼やかに撫でてゆく
山からおろす、萌芽のにおい
照りつける、陽の炎熱を
畦に注ぐ、せせらぎが
軽い喉の音で、宥めていく
光り耀く、水の鏡に
山の逆さが、浮かんでいる
水底で、白い雲が見上げている
波打つ葉先が、日を浴びて
繰り返し、風の行く方を追っている
押されて頷く、苗の揺らぎは
水辺をただよう、藻に同じ
青い、巨大な丸屋根の下
平たい地面にしがみついて
頼りなく、手さぐりするだけ
横たえられた、逆さまに
まなざしは、届かない
光と影の、無邪気な仕業を
とりとめもなく、追いかけるだけ
日に当たれば、歌いはなやぎ
日が翳れば、想いにしずむ
頭をよぎる、怖れも不安も
水面にただよう、雲の影
まとわりつく、怯えも憂いも
底に沈んだ、まぼろしだ
うつむく目線を、逆立ちすれば
空の眩しさを、知るだろう
鳥が、高みを飛んでゆく
飛びながら、空を見上げることはない
地べたを見下ろしているだけだ
雲の景色を眺めはしない
行く手の虚空をみつめるだけだ
©2023 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。