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【詩】川辺にて

山に向かう道のほとり
茶屋の離れ、個室の席で
君と、ひとときを過ごす
都会を外れた山のふもとに
しずかに佇む、くつろぎの宿
入り口に立つ大きな水車が
滴りをきざんで、廻っている
しずくを集めたせせらぎは
縁側のむこうの小さな池に
黒くかがやく鯉を泳がせて
河原にくだり、川に注ぎこむ

ふんわり、熱い炭火が
串の山女魚を、焦がしている
しずかに、たちどまり
暮らしの疲れを忘れている
テーブルのむこうの君は
いつになく、ことば少なく
出会った頃の瞳の光を
思い浮かべて、笑っている
料理を運ぶ足の音と
となりのかすかな声が
木のかおりにただよっている
閉じた部屋の、大きな空間が
山の空気をみつめている

小径は、足を河原にみちびく
君と手をつないで、坂をくだる
ほんのり、やわらかい手のひらに
踏みしめるたび、力をいれる
鳶が、高い空をとんでいる
風は、谷をかけ降りていく
流れ落ちる水が、絶え間なく
波立ち、岩を乗り越えていく

水際にしゃがんで
飽きもせず、眺めているのは
こどもの頃のまなざしだ
泡立つ水面が、浮き上がり
沈みこんで、そのまま
見たばかりの姿を、繰り返す
一瞬のほとばしりは、とどまることなく
過ぎていく水は、二度ともどらない
目の前の君を、あの頃のまま
移りゆく川のほとりに
あの日の目線で、眺めている
かけくだる川を追いかけて
水のゆくえを、みつめている
ふたりの絆は流れつづける
しあわせも、かなしみも
とどまることを知らず
川辺のひとときを
記憶に刻んで


©2022 Hiroshi Kasumi

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加澄ひろし|走る詩人
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。