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【詩】巨木

一本の巨木を見た
樹齢一千年の御神木である
樹冠は大きく空をおおい
曲げて伸ばした枝々に
たわわに葉を茂らせている
節くれだった分厚い幹は
樹肌に苔の襞を重ね
地表を抱える太い根は
岩となり、土となり
朽ち惜しむ大地を掴んでいる

巨木は、ひとつの宇宙である
眼を凝らしても見ることのない
枝葉の繁み、樹皮の裏蔭、根の奥底
そのからだの隅々に、秩序ある
亜空の揺らぎを、湛えている
うずき、うごめき
そして、立ちつくし
深い息づかいに、しずんでいる

巨木に渦巻く空間の
あまりに小さな眼差したちが
途轍もなく、大きな樹木の姿を
想い描くことはない

瞳に映す光の反射は
虚ろな影を浮かべるだけ
届かぬ果てを、知りようもなく
目に見える限りのこの世界
手の届く限りの空間は
途方もなく大きな巨木の
危うく揺れる枝の先、かもしれず
想い馳せる限りの時間は
風にあおられ、枝を離れようとする
瓦解の瞬間、かもしれない

飽きもせず、巨木を眺めている
抱えようもないの雄々しさを
瞼のすき間に問い詰めて
ありようもない答えを求めて

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。