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【詩】秋の気配

昨日まで、高く青かった空に
深く、雲が立ちこめている
灰色の、光と影の波
そのむこうに
確かに感じる、熱いまなざし
執拗な真夏の吐息が、まぶしい
風が、素肌を涼しくする
もはや、思い出そうとはしない
蒸せかえる、汗のにおいを

風向きが変わったせいだ
樹の幹は、たわわに繁る頭を支えて
まだ遠い彼岸を待っている

夏は終わりを告げはじめた
ひき止めるすべはない
なぜ、失われていくのだろう

ノウゼンカズラのオレンジ色
咲いては散り、萎びて干からびる
陽を浴びた、鮮やかな記憶は
くたびれ果てて、息絶える
鳴り響く、声をかぎりの蝉しぐれも
どこかしら、力なく
近づく終わりを、予感する

きっと、すべては繰り返し
間違いなく、めぐってくると
なぜ、約束できるのだろう

ユリノキが、空にひろげた腕は
いつの間にか、色あせてしまった
黄色く乾いた手のひらを
あきらめて、落としはじめた
イチョウの枝の、実りに震える指先に
注ぎ込まれた、熱いほとばしりが
膨れて、色づきはじめた

©2022  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。