【詩】稜線
遠い空のした
山なみが浮かんでいる
日に照らされて
いつになく 近くに見える
峰の連なりの向こうで
たなびく雲が手招きしている
山が近く見えるのは
空にかかえた広がりに
希望を眺めているのだろう
峠を越えた眼差しに
行く方をさがしているのだろう
山なみが 遠く見える日は
見慣れた地図に目を奪われて
夢を失くしているのだろう
靄のむこうの見晴らしに
まぶたを閉ざすせいだろう
地平の月が大きいのは
見上げる影が 小さすぎるから
虹が七色に見えるのは
見下ろす光が 眩しすぎるから
人は 幻惑に手をのばし
饒舌の群れに背中を押されて
妄想の坂をころげている
陽が山かげに沈むとき
落書きのような雲の呪文が
赤くかがやいて
風の行き先を指し示す
絶望は錯視の残骸だろうか
みな 幸せという名の虚像を追って
欲望のうねりに溺れている
過ぎた時間が 早すぎると思うのは
足が竦んでいるからだろう
波の行く方を知るもなく
その場かぎりに血道をあげて
罪の深さを忘れている
見も知らぬ明日の長さを待ちわびて
道が 果てなく映るのは
自分を信じすぎているせいだろう
風が急を告げて
山が跡かたもなく消えていく
奥行きのない霧に巻かれて
嵐を予感している
©2024 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。