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【詩】巣立ち

軒先のツバメの巣に
一羽の雛が取り残されている
不意の孤独に戸惑うように
目を見張り、声をさがしている

昨日まで、犇めき合い
ひらいた口で、先を競った兄弟たちが
すばしこく、空を舞っている

五月の風は涼やかだ
覚えもなく、肩のしこりに落とされた
昨夜の夢を掴もうと
身を竦ませ、骨の疼きを待っている

飛ぶことは、風に抱かれて泳ぐこと
羽搏きは、衝動に過ぎない

明日、ツバメの子は
背なかの影を見るだろう
空に、風の吹くわけを問うだろう

©2024  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。