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2つのローカルを行き来して考えた“わざわざ行き、デザインする”価値

IDL [INFOBAHN DESING LAB.]のデザインストラテジストの山下です。
2021年夏から、京都府北部の海沿いのまち・京丹後市での「自然あふれるビジネスモデル事業に取り組んでいます。そのために京都市内と京丹後市を行き来するなかで、「場に行き、デザインする価値とは何なのか」を考えるようになりました。

行政や地域の方々と仕事をするうえで、そのまちを直接見て肌で感じ、人と出会い、個々の取り組みを知ることは必要かつとても重要です。そのために場に行くというのは全くもってムダではないのですが、リモートワークが浸透し、リサーチやコミュニケーション、アウトプットなど多くのことがデジタル上で完結できるようになったいま、必要性ではなく「価値」からその行為の意味を捉えたいと思うようになったのです。

そんな考えごとをしていたら、京丹後市だけでなく自分の地元に帰る必要にも駆られてしまい、物理的にも、頭の中もあっちへこっちへと行ったり来たりすることになってしまいました。そんな紆余曲折の形跡をご覧ください。

IDLの「地域に携わる事業」

そもそも地域×IDLの事業を遡ると、数年前から全国各地をフィールドにSocietal Lab. がさまざまなプロジェクトに取り組んでいて、京丹後市との「自然あふれる豊かなビジネスモデル事業」もそこで培われた縁がつながり、参画に至ったという経緯があったりします。

そんな経緯の途中に合流した私。車窓から雪を被った山を見ていると、同僚が「お砂糖まぶしたドーナツ」と漏らしていて、新たな一面を発見した気持ちになったことが印象深く残っています。

Societal Lab.については、発足メンバーであるIDLの木継と白井が以下のPodcastで取り組みの趣旨や発足の経緯などを語っています。簡単に紹介すると、社会と企業とを接続して価値を生み出すしくみづくり、つまりソシエタルデザインに取り組むチームです。

そして、2021年下期から本格始動した「自然あふれる豊かなビジネスモデル事業」。コミュニティツーリズムと持続可能な地域づくりに取り組む(一社)Tangonian、丹後の地域商社である(株)丹後王国ブルワリー、弊社の3社で共同グループをつくり推進しています。また、取り組みを面として広げ、ゆくゆくは地域で自走可能な状態をつくることを目指し、そのほかの地域事業者の方々にも参画いただくコンソーシアム「丹後リビングラボ」を立ち上げました。

丹後リビングラボで目指すのは、都市部企業やビジネスパーソンなどを対象としたビジネス文脈での交流人口・関係人口の増加です。そのために、

  • リモートワーク環境の整備(市内コワークスペースのネットワーク化)

  • 都市部企業が継続的な関わりを得るためのしくみの構築

  • 地域と関わり合う新たな働き方あるいは暮らし方などを体験できるプログラムの造成

など、複数の施策を走らせています。

文字通り地域を走り回りプログラムをつくる丹後リビングラボメンバー。手前ふたりがIDLのデザイナーです。体験で得た感覚をデザインに反映させられるのは、場に行くからこそできることの一つ。

「都市とローカルをつなげたい」という本心と「田舎を捨てた」自己矛盾

京丹後市は、美しい海やさまざまな旬の食材が採れる豊かな環境があるだけでなく、起業家精神に溢れる方が多く、企業人として、また働く個人としても多角的な学びを得られるフィールド。地域事業者の方から事業内容や込められた思い、課題を聞かせていただく時間は、プロジェクトを進めるなかでの一つの楽しみです。ユニークかつ強い信念を持ち、マルチステークホルダーに、あるいは環境や地域全体に中長期的に寄与する事業に取り組む方々を、サステナブルデザイン(Design for Sustainability)へのヒントを求める都市部企業にご紹介したりもしています。

もちろん難しさを感じる部分もあります。都市部企業、地域全体、コンソーシアム参加事業者、事務局内など、その時々で考えるべき対象が違ったり同時に考える必要があったりと、粒度も範囲も異なる課題が次々に湧いてきて、社会に寄り添い、地域とともに進めるデザインの対象の広さや複雑性を実感し続ける1年でもありました。

個人的にその対処に必要だったのが身体性の伴う観察や思考です。当たり前ですが、デザインで課題解決をするといっても私たちは機械的にコマンドを実行しているわけではありません。今優先すべきこと・対象、そして何をどのように行うことが最善と思えるか? 何かを決めて実行する際に、握る手に込める力加減を調整するような、さまざまな事柄を常に視界の端に置いておくような感覚を持ちながら進めました。

その感覚の拠り所となったのが、場に行ったり、相手と顔を合わせて得るノンバーバルな情報の蓄積だったように思います。

そもそもこんな場所に降り立ったら、五感をフル稼働せざるを得ません。むしろしないともったいない。

その一方、プロジェクトを進めるうちに自分のなかに生じはじめた違和感にも気がつきました。ローカルの面白さや価値を考えるたびに、「働くも暮らすも、ローカルでのライフスタイルや人間関係にマッチした人だからこそ享受できるものだよなぁ」というモヤモヤした思いが浮かんでくるようになったのです。

それはなぜか。

私の出身地は、京丹後市に負けず劣らず、あるいは目立った観光資源がない点や高齢化率・人口増減率などを比較するとそれ以上の「田舎」であり、かつての自分こそが「ローカルにいても何もできない」とまちを離れ、そして今も「何もないから戻らない」という選択肢を取り続けている人間だったからです。
完全に個人的なことなので横に置いてはいましたが、そんな人がデザインする、継続的にローカルにつながる/人を呼ぶしくみってなんだろうと、処理できない気持ち悪さがずっと張り付いていました。

地元に帰って得られたいくつかの発見

考えてみても答えがでない時は何かの要素をずらすのがいいと考えています。視点や時間、あるいは座標など論点以外のもの。
京都市内と京丹後市を行き来しながら過去の自分の選択を思い返してみても答えが出ない。そうして私は、時間と場所をずらすことが何かのヒントになることを期待して地元に帰ることにしました。

地元を走るローカル線。いうまでもなく赤字路線なので先々のことを心配してしまいますが、現状は学生さんたちの貴重な通学手段になっているようです

そこから2ヶ月ほど、月の3分の1は地元から、1週間は京丹後市に出張、残りを京都市内で仕事するような生活を送っていたところ、地元に対していくつかの新たな発見ができました。

  • 駅前にコワーキングスペースができていた。なぜこんな田舎に!?と思いつつも利用させていただいたら、普段の帰省では会えない人たちと知り合えた。

  • 過疎化、高齢化具合に反し、新たな宿泊施設やレストランができていた。しかも面白そう。
     - 宿場町の趣を残す町にあるNIPPONIA 平福宿場町KUMOTSUKI
     - 集落をまるごと再生したglaminka SAYO集落

  • Uターンしてきたコワーキングスペースオーナーや同級生など、会って話しを聞いてみると、新しいことにチャレンジしている若い世代もいる。全然知らなかった。

  • 村の約95%が森林という山間部にありながら、地域再生の成功モデルとして知られる西粟倉村まで車で30分の距離。たまに最近の状況などが耳に入ったりする。ぜひ訪れてみたい。

  • 移住者を積極的に受け入れている西粟倉村(人口約1,400人。そのうちの1割が移住者)とは真逆の方針を持っているらしい地元行政。では、まちの持続性に対しどんな考えを持っているのだろう?

  • 通常の移動範囲外のエリアを車で回ると、「人間社会が終わる時」とでも名付けられそうな光景に出くわす。自然が豊かな里山とはいうけれど、手入れする人がいてこそ美しい里山風景が保たれているのであって、いなくなるとすべて山に呑まれていくんだなと改めて実感。

お世話になっているコワーキングスペース・コバコWork&Camp。広くて清潔、仕事環境も申し分なく、超快適です。

「関わり方」と「地域社会」との関係性

一連の滞在で新たな一面を知ることができた要因は、「仕事をしている人」かつ「地域に携わっているデザイナー」として帰ったことにより、関わり方が変化したことにあると思います。まず自分の情報収集の姿勢が違ったし、相手の方からも「(他の地域だとしても)地域活性に携わっている人」だと思うからこそ話してくださる現状や課題などがありました。
わざわざ行って場に身を置くだけでなく、立場や関わり方を変えると、立ち現れてくる地域社会の姿も変わる。地元を離れてからずっと傍観していた地域社会との関わり方を今回改めて模索してみたことで、そんな洞察を得られたように思います。
きっかけとなったモヤモヤについては、その土地に定住しなかったとしても関わり方は変えられるし、新たに関係性を構築できる実感があったことで落とし所がつきました。時には同じ場所で、時には外から俯瞰し、縦横無尽に移動するからこそ持てる視点で機会、しくみづくりに取り組もうと前向きに捉え直しました。

モヤモヤしながら川を見つめていると、突然立派な鹿の角に出くわすのが田舎。頭の中が生きとし生けるもの全てに思いを馳せてみる崇高モードになりますが、瞬時に戻ってきてフリマアプリで値段を検索してしまうのが現代人の好奇心という感じがします。

いま、「わざわざ行く」ことの価値

さまざまな情報がネット上で収集できるようになったいま、デスクリサーチで俯瞰に必要なオープンデータ、個別具体を知るためのメディア記事やSNSでの発言などを収集するだけでも、特定の地域やテーマについてある程度立体的に把握することが可能です。そこで立てた仮説を起点に、戦略やアイデアをつくっていくことも多いのではないでしょうか。そうしてスプリントにプロジェクトを進めていくのは正しいアプローチだといえます。

だけどその時に見落としがちなのが、一つは対象と自分との関係性。自分の関わり方によって、触れられる情報の質。俯瞰するのと、場の当事者になるのでは、得る洞察は全く違うものになります。二つ目は、プロダクトのユーザーでも、コミュニティでも、地域社会であっても、デザイン対象となるステークホルダー、もしくはともにデザインする相手が人の集合体である限り、常に変化し続けるということ。場に身を置いてノンバーバル含めて情報を収集し、理解を感覚として自分の中に蓄積していく。そうすることでそのダイナミックな動きを捉えることができ、デザインに反映させていけるのではないかなというのが私が今持っている考えです。

冒頭の「場に行き、デザインする価値とは何なのか」という問いに対して、今言えることはこのくらい。地域を刻一刻と形を変える多面体として捉えることをスタート地点にして、引き続き模索したいと思います。

<アクティブワーキングin京丹後>のご案内

※諸般の事情により開催日程を変更しました

11月30日(水)〜12月2日(金)に9月28日(水)〜30日(金)に丹後リビングラボの取り組みの一つとして、都市部企業の方を対象に
着地型事業創造プログラム「アクティブワーキングin京丹後 地域とサステナブルな事業アイデアをデザインする2泊3日」
を開催することになりました。 テーマは「地域と都市のCo-Update」。地域の課題から自社を見つめ直すビジネス創出の機会としてご活用ください。
詳細は下記よりご覧いただけます。
https://activeworking-kyotango2022.peatix.com/

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