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女の子とウサとの哲学的会話「大人は、考えないの? 2」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「前にウサと、正直だと損するっていう話、したでしょ?」
ウサ「うん、したね」
サヤカ「そのことを、お父さんに話してみたら、『確かに正直だと損するかもしれないけど、正直であることは良いことなんだから、たとえ損をしても、サヤカには胸を張って、正直なことをしてほしい』なんて言われちゃった。わたし、別にズルしたいなんて言ってないのに、なんだか、ズルしたいからそんなこと言っているんだってお父さんに思われちゃったみたい」
ウサ「大人は子どもの頃に疑問に思っていたことを忘れるって言ったけど、その忘れ方には、二通りあって、一つは他の問いに関心が移ってただ忘れちゃうだけなんだけどね、もう一つは仮の答えを作ることで忘れちゃうのね」
サヤカ「仮の答え?」
ウサ「うん。たとえば、宇宙の始まりの話だったら、『その前は何も無かった』とか、その、正直だと損するんじゃないかっていう話だと、『たとえ損しても、正直に生きることはいいことだから、そうしよう』とかね。答えが出ないから、とりあえずそう考えておこうと思うのね」
サヤカ「そんなの……なんか嫌だな。ごまかしているみたい」
ウサ「初めは仮の答えだったのが、『仮』だっていうことを忘れて、本物の答えだと信じ込んじゃって、そのままになっちゃうの。そうして、大人になるのよ」
サヤカ「じゃあ、いつもウサと話しているようなことを、お父さんやお母さんと話すことはできないの?」
ウサ「かなり難しいと思うよ。お父さんやお母さんだって、そのまたお父さんやお母さん、つまり、サヤカちゃんのお祖父ちゃんやお祖母ちゃんと、こういうことについて話したことは無かったんじゃないかな」
サヤカ「それって、ちょっとつまんないな。お父さんとかお母さんとも話せたらいいのに……」

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