自分の頭で考えるヒント2 ~疑う~

先だって、わたしは、自分の頭で考えることは面白い、みんな自分の頭を使いましょう、あなたの首の上に乗っているものを帽子を被せる以上の役に立てましょう、と書いた。いや、そんなしゃれた言い回しだったかどうか覚えてないが、まあ、そんなようなことを書いた。

そのための方法論として、「自分が心から不思議だと思うことを見つけること」と、「そのものごとを自分一人で追求すること」を紹介した。それに加えて、いや、加えるというか、それら二つの方法の根底にあるものとして、今回は、自分の頭で考えるということに関して重要な、「疑う」ということについて書きたい。

疑うこと。これが、自分の頭で考えるときに重要である。「人の言葉を疑うのは最も恥ずべき悪徳だ」とメロスは言っていた(ような気がする)けれど、彼は愛すべき単純素朴な行動派で、現状を変えるのに短刀にものを言わせようとしたり、走ったり泳いだりしていればいいだけだったから、あんまりその言うことを真面目に聞くわけにはいかない。

そこで、疑うこと。疑うことによって、あら大変、自然と、「不思議だと思うことを見つけること」につながるし、しかも、「自分一人で追求すること」にもつながるのである。どういうことか。

自分がこれまで当然であると思っていることを「疑う」ことで、それが不思議だと思えるようになる。たとえば、まあ、何でもいいのだけれど、「明日が来る」ということを当然だと思っているとする。だいたい、みんなそう思っていることだろう。これを疑ってみよう。本当に明日は来るのか? と。そうすると、たちどころに、明日が来ることなど誰も保証してくれていないことに気がつくだろう。何となく明日が来ると思っているけれど、そんなことは誰も保証してくれていない。本当に明日は来るのだろうか? ほら、不思議に思えてきたでしょう? …………それほどでもない? ま、その他に、何でもいいので、自分が当然だと思っていることを疑ってみてください。

他人が言っていることを「疑う」ことで、自分一人で追求することにつながる。他人が何かもったいぶって言っていることがあるとする。たとえば、「幸せになるために今ここに集中しましょう」なんて言い方、よく聞くんじゃないかな。これは由緒正しい言葉らしく、古くはアリストテレスという、響きからして偉そうな人が言っていたことらしい。これを疑ってみる。本当に、幸せになるためには今ここに集中しなければいけないのか。過去のことを思い出してあれこれと過去のことを考えたり、未来のことを想ってその未来のために行動することを考えたりしていては、幸せになれないのか。そもそも、今ここに集中することが幸せとは一体どういうことか。あることに集中しているときは、現に集中しているそのことによって、幸せなんて感じないんじゃないか。こんな風に、他人が言っていることを疑うことで、他人の言葉を信じられないようになり、結果、自分一人で追求することになるわけである。

この「疑う」ということに関して言えば、むかし、デカルトという、極めつきの変人がいた。彼は、とにかくあらゆるものを疑った。真理を知るためには、自分が前提としている全てのものを疑わねばならない、と思ったわけだ。まず彼は感覚を疑った。見たり聞いたりすることなんて、見間違いや聞き間違いがあるから、全く信頼に値しない。次に、今が現実であることを疑った。これは本当に現実か? もしかしたら夢かもしれないと。しかし、まあ、夢の中でも、三角形の辺は三つだし、1+1=2ということは疑い得ないのではないか。うん、これを疑うのは無理だな! 彼は数学者でもあったから、それに気がついたとき、やはり数学はいいな、と思ったんじゃないかな。しかし、デカルトがすこぶるつきの変人ぶりを発揮するのはここからで、

「いや、待てよ、もしかしたら、三角形の辺は四つかもしれないし、1+1=3かもしれない。超強力な悪魔的なヤツがいて、わたしに、三角形の辺は三つで、1+1=2であると間違ったことを信じ込ませているんじゃないだろうか!」

とこう疑ったわけである。「明日が来る」とか、「幸せになるためには今ここに集中する」なんてことを疑うのとは、もはやスケールが違うでしょ? こうして、疑って疑って疑い尽くしたすえに、

「よし、いいだろう! 悪魔でも何でもかかってこいや! だが、わたしが自分を何者かだと思っているうちは、わたしに自分を何者かだと思わせないことはできないぞ! ワインのことを考えているうちは、ワインのことを考えさせないわけにはいかないぞ! たとえ、考えている自分がまやかしであるとしても、そのまやかしである自分だけは確かに存在する! 我思う、ゆえに我あり!」

という真理に到達したわけである。こうして彼は、中世という時代を切り捨てて、近代という時代を切り開いたのである。疑うことが時代を作ったわけだ。だとしたら、個人の人生を作ることなどたやすいことである。疑うことで、自分の頭で考えて、あなたの人生をどんどん切り開いていきましょう。

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