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富山県は本当に「『寿司』と言えば富山」になれるか? vol.10(新湊)

 前回までの連載(noteの過去記事をご参照ください)で私は、富山県の新田知事が2023年夏に「『寿司』と言えば富山になるぞ!」と宣言したことに私がいろいろ考えを巡らせ、2泊3日で富山市内の寿司屋を回ったことを記した。
 秋に富山県成長戦略カンファレンスのセッション『「寿司と言えば、富山」地方ブランドは本当に作れるのか?』に登壇したことから、「世界標準寿司を増やしてまずは富山にフーディーを呼び、そこでキトキトの魚を富山産のコメの酢飯に乗っける呑み寿司の魅力も知ってもらう流れを作ること」がいいのではと考え、2023年は結局、富山市、氷見市、魚津市を回った。2024年に入り、その考えは変わらず、富山出張の度に寿司屋を巡る機会は増えている。前回は、富山県内第2の都市、高岡市の老舗寿司屋を巡ったが、今回は少し小振りな町の寿司屋をたずねた。まずは新湊。

 富山県にはたくさん開拓すべき、素晴らしい観光地がいくつもあるが、なかでもいま売り出し中なのが、新湊の内川周辺。かつては新湊市だったが、2005年の市町村合併で射水市新湊地区と呼ばれている場所である。
 富山駅からは電車やバスを使わないと行けず、交通はけっして便利ではないのだが、そこに内川という港町があるのだ。中心に内川と呼ばれる運河があり、富山新港の東西にわたって3キロメートルほどを結ぶ、海から海へとつながる珍しい川である。

静かな町で、散歩するのが楽しい。

 かつては北前船(きたまえぶね)の中継地として栄えた町で、川には屋根付きの橋、モニュメントが飾られている橋など、10以上の個性豊かな橋がかかり、両岸には漁船が停泊、周囲には明治から昭和にかけて建設された家が数多く並ぶ。日本ではないような風景で、最近は「日本のベニス」と言われるほど。映画やドラマのロケにも使われているという。

のどかな場所に青い橋が突然現れるのが西洋っぽい。

 私は以前、「富山のベニス」かと思っていたのだが、富山どころか日本のベニスということは日本随一というわけで、たしかに訪れるだけの理由はある。私は伊奈町の舟屋に似ているなと思ったが、夜になると灯りが川面に反射し、ノスタルジックな雰囲気を感じることができるらしい。その夜景を楽しむために内川に宿泊されるのも楽しそうだ。
 その内川の魅力に憑りつかれ、川沿いにカフェやホテルを経営しているのが友人の明石博之さん。彼からさんざん内川の素晴らしさは聞いていたが、なかなか訪れる機会がなかった。ただ今回、郊外の寿司屋を訪ねようといろいろ情報の整理をしたところ、内川の近くに「清寿司(きよすし)」という名店があると聞き、せっかくなら予約の時間の少し前に内川を散歩をしようと思ったのだ。
 事前に明石さんから情報をいただき、明石さんが最初に作った「uchikawa六角堂」から歩くことにした。この日は残念ながらお休みだったが、目の前にはスペイン人の建築家、セザール・ポルテラさんが設計した赤い橋「東橋」があり、そこから眺める立山連峰が美しい。

六角堂のすぐ近くにある「東橋(あずまばし)」。

 ゆっくりと20分ほどかけて散策をすると、今回の目的地「清寿司」がある。ちょっと早めに着いたので周囲をぶらぶらして戻ってきたら、地元の客とおぼしき人が中に入っていったので、あとについて暖簾をくぐった。

外観はなんの変哲もない、町の寿司屋。

 予約をしている一見の客は私くらい。常連客が次々と入ってきて、驚くことに30分もするとほぼ満員。みなは何も言わずとおつまみが出るようだが、私はわからないので「握りの前に美味しいところを出してください」と頼んだ。

お通しのがめ海老とバイ貝。このバイ貝の旨さに驚いた。

 お通しはがめ海老とバイ貝だったが、まずこのバイ貝が旨いことに驚いた。鯵、カジキの昆布締め、真鯛の刺身のあとに出たのは、たっぷりと太ったホタルイカの沖漬け。そして「こんなの食べてて」と出てきたのが、桜鱒のアラ。これがまた素晴らしい。なんでもないアテが美味しいのだ。最後にカワハギの肝和えをいただいて、握りに移る。酒は勝駒だ。

「はいよ」と出された三種の刺身。勝駒にぴったり。
カワハギの肝和え。新鮮だから肝が旨い。奈良漬けと合わせて。

 握りは甘海老、ヒラメ、ヤリイカからスタート。米酢だが、甘みは感じず、醤油も甘くない。富山の寿司の特徴は甘い酢飯と醤油で、それに慣れると、あの味が恋しくなってしまうのだが、この酢飯なら、東京の寿司に慣れている人々でもストレスを感じない寿司になっている。

無造作に出てくる最初の3貫。これにまた驚いた。

 しかもネタがいい。しめ鯖、バイ貝、サクラマス、ゲソ、カマスなど、やはり地物の旨さをあらためて感じる。終盤ではこのわたの軍艦がよかったなあ。そしてかんぴょう巻で終えた。

ぴかぴかに輝くイカげその握り。
蟹みそとこのわたの軍艦握り。富山らしい寿司タネ。

 いやあ、素晴らしい。なるほどなるほど。こんな寿司屋が潜んているから「寿司といえば富山」なんだな。でここを知っただけでも今回の旅は価値があるというもの。しかも驚くほどのお勘定。もちろん、カジュアルという意味でね。内川を散策してここで締めるコースをもっとPRすべきだなあと心から思ったけど、そうすると入れなくなっちゃうから、痛しかゆしだね。「寿司といえば富山」、だんだん魅力に憑りつかれてきました。

ひょうひょうとした大将。

 大将、ごちそうさま。次は滑川という、こちらも小さな富山の都市の寿司屋を訪れることにするよ。
 まだまだ続く、富山寿司の旅。 

★清寿司



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