誠実でズルくて応援したくなる大人、馬宮菊さん:『姉の親友、私の恋人。』1巻感想

あけましておめでとうございます。輿水畏子(こしみず かしこ)です。

今年も一年いろんな作品を、特に百合作品を見てその感想を語っていきたいと思っています。そんな意気を込め、新年一発目から百合漫画の感想です。

今回は藤松 盟先生の漫画、『姉の親友、私の恋人。』の感想記事になります。この漫画、私が今一番続きが気になってる百合作品なんです。記事のタイトルの「誠実でズルくて応援したくなる大人、馬宮菊さん」とは、この漫画に登場するヒロインのことです。私、この菊さんのことが本当に好きなんですよね……。本当に優しくて誠実な人なんですが、その優しさがどこかズルい大人にも見えてしまう絶妙なキャラ付けはなかなか類を見ない人物像だと思っています。なので今回は馬宮菊さんの良さを中心に、『姉の親友、私の恋人。』について語っていきたいと思います。

『姉の親友、私の恋人。』あらすじ

まずは『姉の親友、私の恋人。』のあらすじからお話しします。

小説家である聖奈は、実の姉である優奈に恋愛感情のようなものを抱えていた。

姉が離れて「喪失感」に耐え切れなくなったことにより、小説が書けなくなった。
姉からのメッセージすら応えられずにいた。
まともな生活すらままならない聖奈を、姉の親友である菊がしつこく世話を焼きに訪ねてくる。
聖奈は、菊のことを苦手だと思いながらも、つい流されてしまう。

そんな菊にも、抱える感情があった――。

二人の成人女性が抱える恋のお話。

本作の主人公は小説家の咲河聖奈さんです。聖奈さんは、幼い頃からずっと姉の優奈さんに対して恋愛感情に近い愛情を抱いていました。そんな聖奈さんの想いを自覚させたのが、優奈さんが高校生の頃に恋人を作ったこと。姉に親しい人が出来たことで「喪失感」を味わった聖奈さんは、初めて自分の恋心を自覚します。そしてその姉の恋人こそ、馬宮菊さんその人でした。

結局菊さんと優奈さんは別れてしまいますが、聖奈さんは姉に対する執着を打ち明けることもできず、鬱屈したまま抱え込んでしまいます。そんな中、優奈さんが仕事で海外に出ることになり、また「姉を失った」聖奈さんは小説も書けなくなるほどに落ち込んでしまいます。

そんな聖奈さんの生活の世話を焼いているのが、今は優奈さんと「親友」に落ち着いている菊さんでした。姉以外の人間との関わりを疎んでいる聖奈さんに対し、嫌がられながらも日頃からちゃんと生きているか様子を見て食事を与え、身の回りの世話を焼いている菊さん。彼女が聖奈さんを気にかけているのは、姉である優奈さんから面倒を見るよう頼まれたから、だけではありません。

菊さんは、聖奈さんに恋してるんです。

作中、菊さんは自分の気持ちを聖奈さんに打ち明け、聖奈さんは姉への気持ちを心の内に秘めたまま菊さんと触れ合っていき、勢いのままに菊さんと「恋人」となります。タイトルの「姉の親友、私の恋人」というのもまさしく菊さんのことを指してるわけですね。今作はそんな二人の恋心を描いたお話になります。

馬宮菊さん、本当に誠実でいい人

さて馬宮菊さんなんですが、マジでいい人なんです。本当にこんないい人なかなかいなくない?ってレベルの優しさでビビる。こういう主人公の女の子が年上のお姉さんから好かれる百合って、割と年上のお姉さんがダメな人だったり悪い人だったりすることが多い気がしてる(当社比)ので、馬宮菊さんの誠実さは読んでてマジで新鮮でした。

まずもって聖奈さんへの世話の焼き方もめちゃくちゃ甲斐甲斐しいですし、結構ストレートに聖奈さんに恋してるので、行動もかなり実直です。聖奈さんから「もう会いたくない」と拒絶された時は初めて余裕のない表情を見せるくらいに落ち込み、「姉の親友で同性から告白されれば拒絶されるかもしれない」と思いながらも「私は君と恋人になりたい」とどストレートな告白をします。そして自分の気持ちを信じられないと答える聖奈に対し、「行動で好意をわかってもらえるように示すから」と言い、聖奈に世話を焼き続けたり、デートに連れていったり、自分の恋を理解してもらえるようにと行動し続けます。そんな誠実な菊さんの姿に読んでてめちゃくちゃ応援したくなっちゃうんですよね……。

しかも菊さんはちょくちょく惚気を挟んできます。デートに来た聖奈さんをみて「今日の服装似合ってるね」を恥ずかしがって言えなかったり、1巻の描き下ろし漫画では聖奈さんが自分の家に泊まって、寝ている姿を見て「好きな子が家にいるっていいな」と頬を赤らめておやすみと声をかけて一緒の布団で寝たり、それ以外にも勝手に聖奈さんの布団に入り込んだりと割と可愛らしいいちゃつきを見せていきます。マジで菊さんの姿が見てて微笑ましい。

そして何よりも馬宮菊さんの誠実な部分は、聖奈さんの姉への恋心に気づき、それを受け止めているところです。菊さんは聖奈さんが姉へ屈折した想いを抱いていること、そしてそれを口に出せずに鬱屈としていることを理解しています。聖奈さんにとっては菊さんの解釈は「優しすぎる」そうですが、それでも聖奈さんの恋心をしっかりと理解して受け止めているといっても過言ではありません。その状態で、菊さんは聖奈さんに「ゆっくりでいいから優奈とちゃんと話し合ってほしい」と願います。聖奈さんの気持ちを全て打ち明ける必要はないし、聖奈さんが優奈さんの全てを肯定する必要もない。それでも二人がちゃんと話し合って、聖奈さんが自分の気持ちに整理をつけることを、菊さんは望み、背中を押そうとしているんです。

ここで菊さんがすごいところは、その二人の話し合いの結果、聖奈さんが恋心を正面から姉へぶつけ、自分とは恋人で居られなくなるかもしれないとちゃんと理解していることです。それでも菊さんは「待ってどうなるかはわからない。私は…今は二人を見守るだけだ でもこの先少しでも可能性があるなら…私は聖奈ちゃんを待ちたい」という想いを胸に、聖奈さんを支えその背中を押そうとするんです。

いや馬宮菊さん誠実すぎるでしょ。自分が好きな人が自分の下を離れるかもしれないことを覚悟の上で、気持ちに整理をつけることをちゃんと望んで、その結果を受け入れる姿勢を持っているのも、その結果がわかるまでは恋人として振る舞おうと思っている健気さも、マジで魅力的な人だと思います。

でも誠実な人ってズルくもある

さて、そんな誠実な菊さんに対する聖奈さんはどうなるのかと言えば……まあ普通に絆されちゃうんですよね。そりゃこんなに真っ直ぐ優しくされたらそうなるわな。

もともと、聖奈さんが菊さんを苦手に思っていたのは、もちろん菊さんが優奈さんと恋人だったからです。自分の世界から姉を奪った相手、自分に姉への屈折した恋心を自覚させた相手であり、今でも姉から頼られ、常に余裕のある大人である菊さんは聖奈さんにとって疎ましい存在でした。そんな菊さんから優しく接されるごとに、だんだん聖奈さんは菊さんが優しい人であるとわかってしまうことを恐れ、そんな人相手に拒絶的な態度をとる自分の惨めさを苦しく思うようになっていきます。その後、菊さんに恋心を打ち明けられ、恋人となった後も、姉への気持ちに理解を示して受け入れてくれる菊さんの優しさに、聖奈さんは段々と縋って逃げ場所にしたくなってしまうんですよね。

こうして聖奈さんの視点で菊さんの優しさを見てると、優しくて誠実な人ってずるくもあるよな〜〜〜〜って思っちゃいますね。だって自分の中に抱えてる気持ちを受け入れてもらえて、ゆっくりでいいからできるだけ気持ちを吐き出そうと言われ、それまでは恋人だからと優しく世話を焼かれたりデートに連れて行かれたりしたら大体の人は絆されちゃうに決まってるじゃないですか。菊さんが優しくて誠実であることに間違いはないんですけど、優しさって傷ついた心に忍び込む武器でもあるんですよね……。いや菊さんは別にそういう打算的に優しさを使っている人では断じてないんですが、やっぱり優しい人はズルく見えてしまうな……と思わざるを得ませんでした。でも私は優しくてズルい大人大好きです。

あと、菊さんが姉の優奈さんに向かって「聖奈ちゃんを私にくれないかな」と堂々宣言するところはちょっと怖かったですね。正々堂々すぎるというか流石にどう思ってその発言してるの!?ってビビっちゃった。でも本人の心情を見る限りなんらかの牽制とかではなくストレートな思いの暴露っぽい。菊さんの恋心のあり方は少々ストレートにすぎるような気もして、その姿が聖奈さんをどこに導くのか今後も楽しみです。

姉の優奈さんも不穏

さて、今回は『姉の親友、私の恋人。』について、馬宮菊さんの魅力を中心に感想を話していきました。これから聖奈さんの恋心がどこへ向かうのか、菊さんの恋は成就するのか、菊さんはもっと聖奈さんに惚気てくれるのか等々色々な面で先行きが気になる作品です。

そして何より気になるのが姉の優奈さんの動向なんですよね。今のところ作中ではちょっとしか登場してないのですが、登場カットでの描かれ方が全部なんか意味深で怖いんですよね。扉絵にもちょくちょく登場してるのですが一話の扉絵は「向かい合う聖奈さんと菊さんに対し、それぞれ優奈さんぽい人影が聖奈さんは守るように抱きしめ、菊さんには縋り付くように背中に抱きついている」という構図だったり、今後も作品の中で何かをやらかしてくれそうな空気がぷんぷんしてます。1巻の引きも「今度一度帰国するから聖奈と菊と私の3人で話そう」と優奈さんが提案してどうなるか……というところで終わっています。この続きがどうなるかマジで気になるんですよね……。

総じて今後の展開がめちゃくちゃ気になる作品です。とにかく菊さんの恋路を応援したい。菊さん、報われてくれ!!この記事を読んで気になった方は是非『姉の親友、私の恋人。』読んでみてください。それでは!

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