はらだ3

定まらないまま、書く。|はらだ有彩×ひらりさ対談③

 『日本のヤバい女の子』の著者、はらだ有彩さんと、ライターのかたわら劇団雌猫メンバーとしても活動するひらりささん。お二人とも、書籍や連載を通じて、これまで多くの女性について書いてきました。トークイベントなどでも何度か共演しているものの、なかなかじっくり話す機会がなかったという二人が、今回は「時間を気にせず、お互いが気になっていることをおしゃべりしてみよう」と対談しました。
 最終回の第三回は、ロールモデル的な生き方を選ばずに、一貫性のなさを提示していくことについて。(第一回第二回へ)

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一貫性がないという強さ

はらだ 最近「ロールモデルアカウントは炎上するリスクが高い」という仮説を勝手に立てているんです。

ひらりさ どういうことですか?

はらだ これも肌感覚なんですけど…肌感覚ばっかりですね(笑)。素敵なものやことを、組織ではなく個人でおすすめしてくれるアカウントに、過度に期待してしまうのではないかと思うことがあります。最初は役に立つとか、憧れるとか、楽しい気持ちで見ているんだけど、だんだんおすすめされた情報を知らない自分とか、知らないということ自体を馬鹿にされているとか、期待通りの情報じゃないという方向にシフトしてしまう危険も感じます。

ひらりさ あーー。わかりました。それ、ロールモデルには一貫性が求められるからですよね。ちょっとでも言っていることの一貫性が崩れると炎上してしまうんじゃないかと思いました。ロールモデルにしていた人がそれまでのイメージと違うことを言ったり、してほしくない失敗をすると、その人をこういう人だと思って応援して信用していた自分まで傷ついちゃうような感じになってしまう。

はらだ 「みんなの憧れの人」とされている人一人に大勢の期待がのしかかりすぎると大変なことになってしまう。応援することによって追いつめてしまう。組織がバックでサポートしてくれる場合はいいけど、リスクヘッジや気持ちの担保も本人がやらなければならないと、負担が大きい気がします。

ひらりさ ロールモデル、作るのもなるのも修羅の道。でも、すごい多いですよね。

はらだ 実際にまずいことをして炎上しているのか、まずいことをしたことにさせられているのか、検証しようがないので分からないですけどね。真実が分からないから。

ひらりさ ちなみにはらださんに憧れている人も多いと私は思っていますけど、はらださんは憧れきらせない感じありますよね?

はらだ 笑笑笑。すみません、憧れって私のセルフイメージからあまりにも遠くて笑ってしまいました(笑)。私は「帰りに牛乳買ってきて」(リノスタ)というルームシェアコラムを描いているんですけれど、いかに雑な暮らしをしているかということを描くことがすごくしっくりきていて。

ひらりさ 生活を出さないという手も使えたわけですよね。丁寧じゃない暮らしも丁寧な暮らしも描かないという。

はらだ 素敵な暮らしをしている方の暮らしコラムを読むのも大好きなんですけど、自分には暮らし力(りょく)がないので、「ない」ことを描きたいんです。読んだ人に「コイツがこんなに雑な暮らしをしながらそこそこ楽しくやってるなら、私もまあいいか」と思ってもらいたい。でも自虐にしないように気を付けています。「ない」ことを下げて笑いを取るんじゃなくて、「ない」ことそのものを悲しく思わない。

――憧れは、「ぶれ」を許さない傾向にありますよね。

ひらりさ 私は一貫性のない人ですよということはちゃんと言っておきたいと思う。Twitterで昨日言った自分の発言に責任を持ちたくない、というとすごい信用できない人間のようで憚られるんですけど(笑)、商業的に出したものとかトークイベントで言ったこととかには責任を持つけれど。毎日ひらりさという名前でツイートするだけで一貫性のある人だと思われると不安ですね。だから、毎日名前を変えたいくらい。

はらだ ひらりささん、Twitterアカウント名よく変えますもんね(笑)。

ひらりさ とはいえ私という人間はずっと連続して存在していて、私の倫理観自体はそんなに大きく変わらないから自分の倫理に反することは言ったりしないと思う。けれどたとえば世間でもまだ定まっていないこととか、自分のなかでかたまりきってないことは、私も間違ったことを言う可能性がある。もちろん間違ったことを言ったら謝るけど、発信したことがちょっと間違っているとめちゃくちゃ叩かれるみたいな世の中の状況を見ていると、基本的には間違える生き物なんだよということを言っておこうという感じになりますね。

バチバチに抵抗しつづけていきたい

はらだ 私もまだ考えが定まっていないテーマ、これからも流動的に変わっていくであろうテーマについて書くことにすごく迷いがあります。今、「はらだ有彩の東京23話」(東京新聞ほっとWeb)という連載をさせてもらっていますが、これは毎月、東京都の23区の中から1区を取り上げて、その土地にまつわる古典をリブートするという企画です。先日、豊島区を取り上げるときに女性の同性カップルの話を書いたんです。女性カップルが、異性同士のカップルと同じように添い遂げられない状況がまだ今の世の中にはあるから、それを書き留めたいと思って取り組みました。でもそれとは別に、男性カップルと女性カップルを比べると、職業や収入など、社会のあり方が原因で女性カップルのほうが悲劇になりやすいというセオリーがある。その現状を踏襲し、再生産してしまうのはどうなんだろう?という気持ちもありました。

ひらりさ 結局、どうしたんですか?

はらだ 悲しい結末になるものを書いたのですが、その際に、「この作品の中には同性カップルであるという理由で悲しい結末になる要素が含まれます」と注意書きして、「もしなにか思うこところがあれば言ってもらえたらありがたい」と書きました。注意書きはするべきだったと思う部分と、それは読んでくれる方への甘えだと思う部分が今もあります。今現実に起こっていることは意義深いけど、オンタイムすぎて書いているうちに自分の考えや、世の中のあり方が変わるかもしれない。でもそれを否定したら、オンタイムのテーマについて書くタイミングっていつなんだろう。まだ定まっていない今について書くことがもっと自然にできたらなと思います。

ひらりさ 私達は最初から決まっている役割のキャラクターではないから、社会を生きる人間としても、ものを書く書き手としても、完全なる一貫性なんてものはないはずなんですよね。そんな一貫性が規定できるなら、それこそ代替可能だし。個別的な存在だからこそ揺らぐんだと思うし、瞬間瞬間での揺らぎを「書いておく」ことにも意義があって。これは自分自身の変化だけじゃなくて、社会の変化にも言えるなって思ってます。

はらだ 生きていると、それだけで毎日色々ある。日々、自分が変わっていって、昨日より確固たるものになったと思えるときもあれば、反対に昨日まで信じていたものが揺らぐこともある。その都度できるだけしっくりくるザルで漉しつづけていきたい。そして、そのザルを吟味することを邪魔しようとするものにはバチバチに抵抗しつづけていきたいです。(了)

(構成・楠田ひかり)

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はらだ有彩
関西出身。テキスト、テキスタイル、イラストレーションを手掛けるテキストレーター。2014年、デモニッシュな女の子のためのファッションブランド《mon.you.moyo》を開始。代表を務める。
2018年に刊行した『日本のヤバイ女の子』(柏書房)が話題に。2019年8月に続編にあたる『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』を刊行。「リノスタ」に「帰りに牛乳買ってきて」、「Wezzy」にて「百女百様」、大和書房WEBに「女ともだち」を連載。
Twitter:@hurry1116 
HP:https://arisaharada.com/
ひらりさ
1989年東京生まれ。ライター・編集者。平成元年生まれの女性4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。劇団雌猫の編著に、『浪費図鑑 悪友たちのないしょ話』(小学館)、『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)、『本業はオタクです。 シュミも楽しむあの人の仕事術』(中央公論新社)など。最新著『誰に何と言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)は11月6日発売予定。
ひらりさ名義として「FRaU」にて「平成女子の「お金の話」」、「マイナビウーマン」にて「#コスメ垢の履歴書」を連載。
Twitter:@sarirahira