川のそばに住んでいること

三十九まで実家に住んでいた。
色々理由はあるが、一番は経済的なもの。仕事はしていたが給料は安かった。仕事を変えた今も安い。
それはまあどうでも良くて、今は川のそばで一人暮らしをしている。
川のそばが良くてこの場所を選んだわけではないが、結果的に自分らしい選択になった。

昔から水辺に惹かれるものがあった。
実家も比較的海の近くだったが、多分、良く行っていた祖母の家が海の街にあったから、というのが一番の理由な気がしている。

小さかった頃、母と姉と、電車に揺られて祖母の家に遊びに行っていた。
海岸線というより、崖下の、海の脇をすり抜けていくような電車の窓からは、北国の海がどこまでも広がっていた。
南国の海を見たことがある今にしてみれば、北国の海は深く青く、澄んではいない。野性味があふれている。けれど、なんだかとても雄大で、吸い込まれてしまいたいという心持ちになる。

駅のホームに降りると、すっと潮の香がよぎるのが好きだった。
今も、潮の香を嗅ぐと、懐かしさとともに、わくわくと気分があがる。

何故だか急に、ドリカムの『あの夏の花火』が脳内に流れ出した。
私の記憶にあの歌詞のような思い出はないのだが、あの歌にある郷愁に相似形があるのかもしれない。

それはそれとして。

海から始まって、気付けば水辺が好きになっていた。潮の香はもちろん、水辺に近づいたときの、あの仄かな水の香に心癒される。(雨が降る直前の匂いも好きだ)

私には三つ好きなマンガがあるのだが、それらのキャラクターですら、全て水辺や海辺で暮らしている。後で気付いたときに、思わず笑った。自分はけっこう深いところで水辺、というか水が好きらしいのだと。

私は梨木香歩さんも好きなのだが、彼女の小説やエッセイには良く水辺の話があるので、読んでいてうきうきとする。

もし今後、人生で何某かのハッピーがあって全国どこでも好きなところへ住むことができるのであれば、祖母の住んでいた街か、ヨコハマの三浦半島、もしくは神戸に住みたいと思っている。ベネチア、まして火星は無理。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?