【うぐいす餅】
1
母の好きだった和菓子。
姉から聞いた。
母がうぐいす餅が好きだったなんて知らなかった。
たまたまコンビニのレジ横に置いてあったうぐいす餅をただ美味しそうだなって買っただけだった。
それが姉との電話で母の好きだった和菓子だと知った。
母とはしばらく疎遠だったから好みなんて知らなかった。別に仲が悪かったというわけではない。むしろ大好きだった。素直になれなかっただけだ。
でも考えてみれば母の好みはおろか、母がどういう人で、どんな性格だったかも言葉として言えなかった。
母の葬儀のとき聞かれて答えられなかった。
姉は的確に答えていた。やはり姉はすごいと思う。
電話の最中、お母さんって性格どんなだったっけと聞いてみた。すると姉は男女別け隔てなく誰とでも仲良くなった人かな、仕事しながらもしっかり育児に家事にテキパキこなせてた人だったよ、って返ってきた。
やはりというか私とは真逆な人だったのだ。
最後に姉は良く働いた素敵な女性だったよ、と言った。
ひとしきり電話で話したあと、早く食べないとうぐいす餅いたむわよ、と笑いながら姉に言われた。
2
今朝、そういえばと思いうぐいす餅をしげしげとながめた。パックのうぐいす餅の裏には消費期限が印刷されている。期限は明日の10日だった。
あの日は地元のタクシーでさえも運転を拒んだほどの大雪だった。雪煙とともに母は天に登った日。
そして今日9日は母の命日。
ここ小樽では一昨日からまとまった雪が降り続いた。
私は、ちょっと降らせすぎじゃない、と天の母にうそぶきながら、うぐいす餅をほおばった。
母との楽しいときが思い出されて、何も出来ない、何も出来なかった私は母に謝った。死を実感した。
午後になり雪が雨まじりの雪にかわった。
落雪の音が母の叱咤激励に聞こえた。
今も大きな落雪の音がした。
...っていうお話。
撮影場所:小樽市緑
Photo by かしるい
20240109
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