ある常連さんの話
スーパーで働いていると、「常連客」がわかってくる。話しかけてもらったり、飴をくれたり、挨拶を交わしたり、そういうちょっとした交流が行われることもある。
長い間、常連さんのひとりである、足の悪い小柄なおばあちゃんが顔を出さなかった。
わたしともうひとり(その方を知っている同僚)とで、「最近見ないよね」「元気にしてはるといいけど」「息子さんがいてるから大丈夫とは思うよ」
と、話題にのぼるくらい。
週に2度ほどいらっしゃっていた方だけど、ここ半年くらいふたりとも見なくなっていたのだ。
皇后さまと同じ年齢だということで、決して若くはないお年。よくひとりでいらっしゃってはいたが、姿を見ないと寂しくもあり、心配でもあった。
そんなとき。
つい先日、ようやくお会いできた。
しかし以前のようにしゃきしゃきした様子はなく、暗い表情をしながら、例の息子さんと思われる方といらっしゃっていた。
久しぶりに見たその姿に声をかけるか迷ったが、目が合ったので、「お久しぶりです」と言った。
すると一瞬笑顔を見せてくれた。
すかさず息子さんは、「施設に入ってるんですよ。今日は買い出しに来ました」とおっしゃった。
あぁそうか。だからか。と、思った。
その後再びすれ違ったので笑顔でぺこりと頭を下げたとき、あのおばあちゃんも笑ってくれた。その時ばかりは、とても良い表情をしていた。
施設に入った、という言葉と、あのおばあちゃんの陰鬱とした雰囲気が結びつき、何だか寂しく思った。そして、少しかなしくなってしまった。
たかが常連さん。
されど常連さん。
なるべくお元気でいてくれたらいいな。
そしてまた、顔を見せに来てくれたらいいな。
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