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タクシー運転手さんから「日本は落ち目って知ってますか?」と話しかけられた話。

タクシーは世相を反映すると言われます。

景気の良い時はなかなか捕まらなかったり、逆にコロナ禍ではお客さんが減ってしまいタクシー会社の廃業やリストラがニュースになったり。最近ではタクシー広告でDXや人材系のサービスのCMが多く見られたりして、そういった領域に課題を持っている会社が多いのかななんて思ったりもします。

タクシーは人の移動という経済の大きなダイナミズムを担っている産業なので、そこで交差する色々な人の人間模様や、社会の雰囲気を敏感に感じ取るのがタクシー運転手さんという仕事なのかなと思います。

私もちょくちょくタクシーを利用するので、自分からは積極的に話しかけないまでも運転手の方から話しかけられることがあります。そんなとき、いつもはあまり上手く返せず、「はい」「あ〜」「なるほど」みたいな相槌で話が流れることが多いのですが、先日乗ったタクシーでの会話は印象深く、今の日本の世相を反映して考えさせられる気がしたので、やりとりの一部を紹介したいと思います。

(ちなみに、タクシー運転手さんはすごくいい方でした)

会話の内容

タ → タクシー運転手さん
私 → 私

マスクの話題

(乗車して10分くらい経ったとき)

タ:最近若い人はマスク外してる人多いですよね。どうなんですかね。

私:あ〜そうですよね。コロナだけじゃなく花粉の季節も終わって、マスク外してる人が多くなってるかもですね。

タ:…でもまた増えてるんでしょ?

私:そうなんですか?

タ:増えてるって言ってましたよ。微増だって。

私:へ〜(私にマスクしろって言ってるのかな…?でも任意だし…←この時点では不安)

タ:コロナももう4年目ですね。

私:そうですね…(話の膨らませ方がわからない…)

日本の話

タ:…お客さん、日本は落ち目って知ってますか?

私:(いきなりだな!)そうなんですね。

タ:GDPでいうと世界で3位だけど、もうすぐ4位のドイツに抜かれるらしいですよ。

私:へ〜。

タ:この前ラジオで言ってたけど、一人当たりで見るともっと低くて、アジアで4番目らしい。1位がシンガポール、2位が香港、3位がブルネイで、4位が日本。まぁ香港とブルネイは人口が少ないから一人当たりだと高くなるんだけど、5位が台湾だから、そこにも抜かれると…。

私:

タ:なんでこんな国になっちゃったんでしょうね。OECDでも日本の賃金は30年前から伸びてないっていうんだから。こんなんで他の国にお金をあげてる余裕あるんですかね。

私:…(タクシーの中で政治の話は、なんて答えたらいいかわからないな)

タ:お客さんいくつか知らないけど、私67歳なんですが、30年以上前のバブルの時は本当に景気良くてね。日経平均とか3万8千円とかつけて、株をやらない奴はバカだみたいな感じで。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」って本があって、みんなそれを読んでたんだから。

タ:当時ハイヤーの会社に勤めてたんですが、赤坂にお客さんの呼び出しがあって、サラリーマン2人が乗ってきて。

タ:そしたら30メートルくらい先にホステスが3人いるからピックアップしてくれって言われて。いや追加で3人は乗りませんよって言ったんだけど、小柄だから大丈夫って言われてハイヤーだから仕方なく。

タ:赤坂から六本木だから少しの距離だったんだけど、話を聞いたら不動産の取引で何十億とか何百億とか儲かったとか言ってて。あの頃は1万円が千円くらいの感じでしたね。

タ:で、ホステスの胸元に万札がたくさん入ってて、お前ら1万円ずつ運転手さんにチップ上げなって話になって。3人だから3万円なんだけど、ピン札だったからお札がくっついてて4万円だった。ハハハ。本当に漫画みたいな話でしたよ。

私:それは面白い話ですね!(話に魅了されてきた)

最近のタクシー業界の話

私:タクシー業界の最近の景気はどうなんですか?(ついに自分から質問する)

タ:う〜ん、その質問は難しいね。結局コロナの前はみんな会社に通勤して、仕事の移動でも客先にタクシーで移動してたわけじゃない?夜も飲みに行ったり、終電逃してタクシー乗ったり。土日も芝居とか見に行ったりして出かけたりね。そういうのがなくなったから…。

私:タクシーの数も前より減ってますよね。

タ:そうそう、だから上手くやれば前よりも稼げたりもするよね。でも全体としては縮小してるかな。

私:最近タクシーが捕まらなかったりすることが多い気がします。

タ:流しが捕まりにくくなってるよね。アプリで迎車しに行くから。

私:アプリで呼んでも捕まらなかったり。

タ:去年の12月とかアプリが落ちてたよね。久しぶりに忘年会とかあってみんな出歩いてたから。全然捕まらないよって。ハハハ。

……

ここで残念ながら?私の目的地に着いたため、話は終わりました。お会計をした後、運転手さんは、「お客さん、話聞いてくれてありがとね!」と言って笑顔で私を送り出してくれました。

…いかがでしたでしょうか。

途中まではよくある世間話でしたが、急に「日本は落ち目って知ってますか?」とキラーワードが投げ込まれ、その後スラスラとGDPの国別順位の話が出てきたりと、これまでタクシーの中で体験したことのない新鮮な体験でした。

インターネットやSNSなどでは「日本はオワコン」みたいなことがよく言われたりしますが、それが世の中の世相を反映するといわれるタクシーの車内で、それも60代後半の運転手さんから聞こえてきたという事実に、とても考えさせられました。ネットに強くない高齢者層はまだまだ日本礼賛の感覚を持っているというイメージがありましたが、「日本は落ち目」というのは高齢者層含めた現代の日本を覆う一般的な感覚なのかもしれません(もちろん、個人的な経験なので、n=1です)

運転手さんがバブル景気を経験された30年くらい前は、ちょうど今の私と同じくらいの年代だったと思います。今から30年後の2050年代に私が現代をどのように振り返るのか、まったく想像がつきません。ただ、自分より若い人たちには、自身の生まれた国を「落ち目」だと思わせないような、未来を明るく見通せるような社会を創っていきたいと思います。

ChatGPTなどの対話型AIが話題になるこの時代に、昔ながらのタクシーの車内における運転手さんとの会話から、ChatGPTには現れない人情味と、現代日本の空気感が感じられたことも印象的でした。令和5年、この日本で自分にできることはなんだろうか?複雑な感情を抱かせる、金曜の夜の不思議な出来事でした。

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