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【豊田市美術館企画展】未完の始まり:未来のヴンダーカンマー展レポート
豊田市美術館で行われている企画展、
未完の始まり:未来のヴンダーカンマー展に行ってきた。
映像展示も多く全てフルで映像を見ようとするだけで4時間以上かかるので、初回は45分の映像を一つだけ見て帰った。
もう一度回ってみようと足を運んだところ、
「14時からギャラリーウォークを始めます。」とのアナウンス。
時計を見ると14時3分前、そのままギャラリーウォークに参加することにした。
現代アートは、色々と意味が込められていて、それを理解するととても面白いのだが、導入がないと糸口が掴めない場合もある。
今回の展示もそれにあたるだろう。
そもそもヴンダーカンマーという言葉の意味がわからない。
ドイツ語で”驚異の部屋”という意味だ。
大航海時代に貴族たちが自分の城の一室に所狭しと世界から集めた珍しいものを飾った部屋をヴンダーカンマーと呼び、今の博物館の起源となった。
豊田市では4/26に新設の博物館が美術館の隣にオープンする。
オープン前に美術館が考える博物館をテーマにした企画展示が「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」だ。
訪れて展示物を見るだけでは正直伝わりにくい。
たしかに言われてみると、博物館の趣向が散りばめられながら、全体の方向づけをしてくれたのは、ガブリエル・リコの作品たちだ。
ガブリエル・リコ
メキシコの原住民との交流がバックグラウンドにある作品群。
博物館を想起させるような動物の剥製が使われている。
動物たちは神話に由来のある動物たちだ。
動物たちがテクノロジーを感じさせるような幾何学と向き合っている。
民族の持つ叡智とテクノロジーを示す幾何学との対峙や融合を想起させる。
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うさぎがナイフを自分に突きつけるようにして持ち、光る幾何学のオブジェと向かい合っている。
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鹿も世界各地で神聖な動物として扱われる。
手塚治虫の漫画ブッダの中でも、鹿に説法しているシーンも出てくる。
奈良県にある春日大社は鹿を神の使いとしていたり、古事記でも神が鹿となって現れる例がよく見られるようだ。
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展示では、鹿が対峙している幾何学の真後ろに陰陽を思わせる作品の展示。
民族の面と幾何学が陰陽を示しているように見える。
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サボテンをモチーフにした人間型のオブジェが火を囲んでいる。
腕や足のところどころはソーセージのようだ。
頭が本や、幾何学や石やゴールドでできたサボテン人間が自然の象徴である火を囲んでいるように見える。
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先住民ウィルチョル族の手芸である刺繍を用いた作品。
タウス・マハチェヴァ
マハチェヴァの作品は想像力のリミットを外すことを促す。
旧ソビエト連邦下にあったダゲスタン共和国に自身のルーツを持ち、国民的な詩人の祖父を持つアーティストだ。
ダゲスタン共和国は、中東、ロシア、ヨーロッパの間に位置する山岳地帯の国だ。
多様な民族が混在する国は、ロシア帝国の帝国主義に統治されたことが想像される。
ヴンダーカンマー(驚異の部屋)もまさに大航海時代から始まり帝国主義へと繋がっていく中で、歴史を展示する場所、博物館の様式を確立していったのではないだろうか。
博物館には正しい歴史が展示されているというのは、真実だろうか?海外の博物館で日本の紹介が展示されているのを見たことがある人が、まったく違うことが展示されていたという話を伺った。
為政者の意図や、政情、歴史認識にもバイアスが入り込む。博物館と美術館が対比的に並ぶことで、それぞれの意義を認識することは重要な作業だ。
話を作品の話に戻そう。
山に環状道路を作るプロジェクトを示した彫刻作品はその意味を知ると興味深い。
山に環状道路を作った彫刻模型の横には、このプロジェクトを実現しようとした時の費用を算出した資料が展示してある。
そして、このプロジェクトは実現し得ないくらいの莫大な予算がかかる。
マハチェヴァはこのプロジェクトの契約者には彫刻を贈呈し、契約者が現れない場合は、彫刻を返却するよう要請している。
あり得ないことを想像して作ることができるのが芸術なのだと若い芸術家を鼓舞しているように思える。
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こちらのアクセサリーは、仮想の会議を開催したとして、制作されたものだ。実際に手に取って触れる展示物で購入できるというのも面白い。
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田村友一郎
知れば知るほど面白い展示。
液晶の破片でできたゴルフのバンカー?にチタン性のゴルフクラブと一冊の本が埋まっている。
上空でアイフォンが並んだUFOが回転している。
UFOの光でバンカーの液晶がキラキラと光っている。
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近くには四角い箱。2001年宇宙の旅のモノリスのオマージュだ。
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裏面はレントゲンの光を放ち、チタンを使ったスマホ、骨、ゴルフクラブのレントゲン写真が映し出され、寝台にはチタンでできた世界で初めて2速歩行したと言われるエチオピアで発見された猿人の骨のデータから再現されたチタン性の骨。
調査団が調査時に聴いていた曲にちなんでルーシーと名付けられたメスの猿人。
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聴いていた曲は、BeatlesのLucy in the Sky with Diamondsだ。
この空間にある映像作品は2001年宇宙の旅の宇宙船のような形の中にあるモニターから流れている。
音声はAIで再現したジョン・レノンの声で語りかける。
チタンと骨が融合してテクノロジーとの融合と時間の問題に迫る。
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そして、バンカーに埋まっていた本は、邦題「ライ麦畑でつかまえて」は、ジョン・レノンを射殺した犯人が犯行前後に読んでいた本だ。
ここまで周到に計算された世界観は一見の価値アリだ。
映像を見る前に、ふと攻殻機動隊の義体化が思い浮かんだのも納得できる映像のストーリーだった。
義体化(ぎたいか)は、『攻殻機動隊』シリーズ中で使用される、サイボーグ化を意味する造語。wiki
さらには、脳内でインターネットにも接続して会話できる世界観が攻殻機動隊だ。
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リゥ・チュアン
リチウムの湖とポリフォニーの島Ⅱ
と題する、45分の映像作品だ。
話は、2001年宇宙の旅のオマージュから始まる。一本の骨が高く投げられるシーンからだ。しかし2001年宇宙の旅で戦いに使われた骨は、ここでは楽器の笛として表現されている。
太古の昔、人類が二足歩行を始めても歌うことをやめなかった。
鳥や木の上の猿たちは歌うように鳴く。地上の動物は、歌うように鳴くことは、自分の位置を示してしまうため、生存リスクが高まり歌うことをする動物は少ない。
しかし、人類は歌うことをやめなかった。
この物語は、ボイジャーに乗せられたゴールドディスクを発見した宇宙人が地球を侵略するために送り込んだ、智子という宇宙人が主人公として話が進む。情報操作の技術で地球の技術進化を止めさせる目的でやってきた智子。
しかし、たどり着いた地球はカーボンロックインですでに停滞感が漂っていた。
石油、石炭の化石燃料を使い、集中型の大量生産でコスト削減に成功し発展してきたが、その限界に達しようとしている。CO2排出による気候変動、温暖化、環境問題は顕著になる一方だ。
世界はグローバル化し、世界工場としての機能を果たすようになる。
かつて南米の銀がアジアへ輸出されグローバリゼーションを推し進めたが、まったく同じ構図で今はリチウムイオン電池用のリチウムの航路がグローバリゼーションを推し進めている。
リチウム湖から採掘されるリチウム塩の精製過程で大量の取水が必要となり、近くの海の生態系を変化させていることを訴える。
グローバリゼーションが進むことで世界のあらゆる情報がつながり、世界工場として機能することで、未開の地が消滅していき単一化が進む。
題名のポリフォニーは、多旋律のことだ。
モノフォニー(単旋律)になっていく世界。
歌うことをやめなかった人類。ともに多様性を認め合い、それぞれの旋律で歌うことで音楽を奏でるポリフォニーを思い出す時代だと語りかけられているようだ。
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ヤン・ヴォー
木の囲いの中にギリシャ・ローマ時代を思わせる石膏像の足の部分だけが中央に配置され、木の枠には花の写真が何枚も飾られている。
ベトナム出身のヤン・ヴォーは、ベトナム戦争を逃れる船から投げ出され、オランダ船に救われてヨーロッパへ移住。デンマークで過ごしたという。
木の囲いは、ベトナム戦争の時分の国防長官マクナマラの息子がヤン・ヴォーの作品を見て連絡を取ったことから交友が始まり、マクナマラ家の胡桃の木を使ったものだとのことだ。
胡桃の木は銃の部品としても使われる木だがその木を選んで芸術作品として使用しているのにも感じるところがあり、背景ストーリーを含めて味わえる作品になっている。
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さらに、石膏の作品の題は、映画トップガンの主題歌となった”Take My Breath Away”をいう名がつけられている。
国の援助も受けながら制作されたと聞く映画トップガン。
中央の石膏像が中世のマッチョなミリタリズムを想起させながら、そこに対峙する花の写真。自然の花かと思えば値札のついた花屋の花の写真が展示されているという構成だ。
写真の配置もなんとなく意図を感じた。
対面が対称になっているように見えて一箇所は対称性が崩れた形を作っている。最小の1枚と9枚が対面している。
ガブリエル・リコさんの陰陽太極をここでも感じ、対称を崩すことで拡がっていく世界観、奇数を用いる数寄の文化、そんなことを想起させられた。
そのほかの展示
全体を通して、博物館をイメージしたガラス張りでの展示や
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陰陽をテーマにするような一貫したコンセプトを感じさせるセレクトや並べ方を感じることができた。
コレクション展では小堀四郎の陰影を感じさせる絵画
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宮脇晴と宮脇綾子夫妻の作品を対に配置した展示の構成も面白い。
新収蔵品
これまでには使用されていなかった新たな素材を用いた作品を多く目にした。
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いろんなことを想起させる展示が詰まった美術館。
その隣にできる博物館。
それらをつなぐことになるであろう民芸館。
興味を持つと楽しみが広がる。
帰宅後の楽しみ展覧会カタログ
企画展の展覧会カタログの解説には、哲学者、批評家の東浩紀氏の「博物館の力」の寄稿文が含まれ、帰宅後も楽しませてくれる内容だ。
ここまで凝った内容を作り込んだキュレーター能勢陽子さんと豊田市美術館の皆様に敬意を評したい。
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