投資家・村上世彰さんに尋ねてみた!「どうしてあなたはピースウィンズ・ジャパン大西健丞氏を応援するのですか?」

1、財務は自転車操業

 ふるさと納税など寄付金をおもな財源とする保護犬活動「ピースワンコ」の運営団体、NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の会計は、毎年度の寄付金や助成金に依存する脆弱な財務体質です。あてにしていた額が集まらないとたちまち赤字に転落、資金繰りに追われます。

 その結果、借入金残高は過去数年のうちに急増し、2019年度(2020年1月期)末は15億円になりました。2017年度には一時債務超過に転落し、法人として存亡の危機に直面しました。

 銀行は融資に慎重で、大西氏と親しい投資家・村上世彰氏の関係企業などからの借り入れでやり繰りしています。

 また、筆者の調査では、公益社団法人Civic Force(東京都渋谷区、大西健丞代表理事)のなけなしの財産を、Civic Force側の財務諸表からは貸出事実がわからないようPWJが2018 年度から借用を繰り返していることも明らかになっています。

 代表者はいずれも大西健丞氏です。利益相反になりかねない危険な取引で、本来なら慎むべきですし、行ったのなら目的や詳しい経緯を説明すべきです。両団体の代表理事である大西氏や、Civic Force事務局長の根木佳織氏は度重なる筆者の申し入れにもかからわず、この数か月間、回答を避け続けています。

2、赤字部門リストラ進まず

 赤字の原因は、事業計画も財源もあやふやなまま広げた地域創生や緊急支援事業にあるようです。リストラもそこそこに、寄付を当て込んだ新しい事業計画が次々に登場しています。

 愛媛県上島町では離島の豊島でコミュニティセンターの用地も買い取り、昨年無償で町から譲り受けた旧コミュニティセンターを2億円程度かけて改修し、美術ライブラリーなどを整備すると町役場や議会に約束しています。

 また、災害緊急医療と過疎地医療を担う事業(ARROWS)も2020年度の予算規模を1億9千万円弱と前の年度より一気に10倍近く増やしています。自己負担金ゼロで寄付金をあてにしています。

 大丈夫なのでしょうか?

 そのしわ寄せは、毎年度収支が黒字のピースワンコ部門が受けている可能性があります。将来の養育費などとして余裕資金を十分に蓄えておくべきピースワンコ事業なのに、残念ながら、決算書をみる限りは使途を「保護犬」に限定したかたちの財産は残していないのです。そう、ワンコひも付きの財源はすっからかん、帳簿上ゼロです。

 PWJは再び債務超過寸前まで正味財産が減っていますから、いま法人を清算すると、犬の養育費や犬舎借地料を払うことさえ難しいかも知れません。「3000頭近い収容犬が路頭に迷う」という地元町民らの心配は決して杞憂とはいえないのです。

 PWJは法人の運営経費として、寄付金から15%以内で「一般管理費」を徴収していますが、使途制限のない一般管理費に回す前に犬の当座の養育費を別建ての会計で保全しておく必要もあるはずです。

3、大西氏は村上財団理事

 投資家・村上世彰氏は、かなりの実務権限を引き継いでいるとみられる娘の村上絢氏(一般社団法人村上財団代表理事)とともに、大西健丞氏率いるPWJとその関係団体を資金的に支え、かつ村上財団の理事として迎え入れています。(写真参照)

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 村上ファンド初期の投資対象だった「関東天然瓦斯開発」は、私が新聞記者として千葉に勤務しているころの取材先でもありましたし、彼が長く住んだシンガポールで活躍する投資銀行家や富豪たちとは私もシンガポール在勤中に付き合いがありました。投資家村上世彰氏の考え方はある程度理解できるつもりです。

 しかし、コーポレートガバナンス(企業統治)にうるさい村上氏がどうして、ガバナンス不全、締まりがなさそうにもみえるPWJや大西健丞氏にそこまで肩入れするのでしょう?そんな質問を同氏が創設した村上財団に送ったところ、村上世彰氏と娘の絢氏の連名による回答が届きました。

4、PWJのガバナンス

 私の質問(8月2日付)は、以下の2点です。

1、コーポレートガバナンスの重要性を説かれているお立場からみて、関係グループ団体間で分かりにくい資金取引が多いPWJの組織としてのガバナンスをどのように評価しているのでしょうか?(特に公益社団法人Civic Forceからの短期資金借り入れ、NPO法人瀬戸内アートプラットフォームによる「ヴィラ風の音」の買い取りと処分等)

2、大西健丞代表理事を村上財団の理事として迎えている理由(どのような知見、助言を期待しているのでしょうか)

 末尾に「回答は決して急ぎませんが、最近も愛媛県上島町へのPWJによるアート事業向け投資計画にも大西氏は企業からの寄付『2億円』を予定していると町役場に説明していたりするので、もしこれにも村上様関係企業による寄付等が予定されているのであれば、コメントをいただければ幸いです」と付記しました。

5、共通の危機感抱く

 そして村上財団から届いた回答(8月5日付)は以下の通りです。上島町で大西氏が計画するアート事業への寄付の意思の有無を含めれば私からの質問は3点となりますが、回答は個々に対応するというより村上世彰、絢両氏の大西氏との関係を説明する内容です。
 

 村上財団にお問い合わせをいただきましてありがとうございます。
 2007年に、「必要なところに必要な資金が届く仕組みを創りたい」という想いからNPO法人チャリティ・プラットフォームを設立しました。その際に、実際に非営利団体がどのような資金的な問題に直面しているのか、何を改善すれば必要な資金が届くようになるのかを知るため、そして一定の基準を満たした寄付先を検索できるデータベースを創るために、全国を回り、500ほどの団体の代表や事務局の皆様にお話を伺いました。
 多くの素晴らしい想いをもって活動するリーダーにお目に掛かることができましたが、その中でも、私と共通の危機感を持ち、どんどん実行をしていく優れたリーダーだと感じたのが、大西氏でした。
 それ以降、非営利セクターの視点から意見をいただくために理事に就任いただいたり、東日本大震災で翌日から現地に入り緊急支援を行ったCivicForceの立ち上げを協働して行ったりして参りました。
 私は常々、「寄付させてくれてありがとう」と言える団体に寄付をしたいと言っていますが、特に緊急支援の現場において私の想いを最も結果につなげてくれたのもピースウィンズ・ジャパンだと思っています。
 芸術関連の部分などについては私共はよくわかりませんので、申し訳ありませんが、回答申し上げることができません。
 村上財団では、今後とも、必要なところに必要な支援が届くように、社会貢献活動に精進してまいります。
 
村上財団創設者 村上世彰、代表理事 村上絢

 村上財団はいまも東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授らと新型コロナ抗体大量測定プロジェクトに取り組んで、村上世彰氏も記者会見に同席しています。多忙な中、あまり時間をおかず質問に回答をいただけたことをありがたく思います。

 500団体も面談する徹底したリサーチは、まさに投資家村上世彰の面目躍如といったところだと思います。大西氏に共通の危機感、実行する力を感じたというのもよくわかりました。

 村上氏が特に評価しているのはPWJの緊急支援活動で、大西氏が最近愛媛県上島町でぶち上げている美術ライブラリー開設構想には興味がないということもわかりました。

6、非営利団体のガバナンス

 ただ、大西氏を代表者とするPWJやCivic Forceなど関係団体のガバナンスをどのようにみているのか、知ることができないのは残念です。掲げる理念や行動力がいくら立派でも、ガバナンスがしっかりしていなければ、事業は間違った方向に進んでしまうことがあると思うからです。

 質問にあたって、ガバナンス上も疑問に思うPWJ関連の出来事の例として、私がこれまでにnoteに掲載した記事のいくつかをお知らせしておきました。

1、Civic Forceからの資金借り入れについて

2、借入金の個人連帯保証の消滅について

3、スラップ訴訟(?)について

4、「ヴィラ風の音」について

 投資対象の株式会社であれ、寄付で応援する公益法人やNPOであれ、共通して守るべきルールや倫理があるはずです。

 公益社団法人の財産は公共目的の事業に使うことになっていますが、赤字で資金繰りが厳しいPWJに貸し付けることがその目的にかなうのでしょうか?

 なぜ、その取引を一般に知られないようにしているのでしょう?

 中小企業の社長さんたちが苦しんでいるように、ふつう、代表者の連帯保証を解除するのは難しいのに、どのようにして大西健丞氏はそれを解除できたのでしょう?

 大西健丞氏がいくつもの法人の代表者を兼務することによって、利益相反が起きてしまいかねない、あるいは起こしているかもしれないリスクを、コーポレート・ガバナンスの専門家である村上世彰氏はどのように判断しているのでしょうか?

 もし村上氏に、成果をあげれば、プロセスに少々問題があっても大目にみればいい、調べないし、問題にもしない、というお気持ちがあるとすれば、それはよくないことだと私は思います。

 非営利団体のガバナンスはどうあるべきなのか、これからも機会あるごとに私は大西氏や村上氏に尋ねてみたいと思います。

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