見出し画像

気仙沼でクロマグロ不正漁獲~大目流し網漁船が混獲物を加工業者に販売か

 「第二の大間になるのではないか」――気仙沼の漁業関係者が憂鬱そうに打ち明ける。漁獲上限が決められている太平洋クロマグロの不正漁獲がもうじき明るみに出るというのです。

 資源が急回復している太平洋クロマグロの不正漁獲、不正出荷はいま、日本各地に蔓延しています。

違法漁獲、増枠交渉に悪影響も


 不正があまりに多いので、漁業を所管する水産庁や都道府県の水産部門は、裏付けとなる証拠が持ち込まれない限り、かたちばかりの聞き取りをして事実上放置してきたといってもいいくらい、調査に及び腰でした。

 いちいち調査して過剰漁獲の実態が明るみに出れば、日本政府が目指す太平洋クロマグロ漁獲枠の拡大が国際交渉で通りにくくなるからです。

 しかし、クロマグロ密漁を監視しているのは水産庁だけではありません。

 2023年2月、青森県大間町のクロマグロ不正出荷を漁業法違反として摘発したのは青森県警でした。漁獲報告義務を怠った疑いで現地の出荷業者2人を逮捕し、漁業者20人以上も取り調べ、書類送検しました。

青森県警が違法漁獲解明法を指南

 静岡市中央卸売市場に「ブリ」として出荷したのが市場関係者の通報でクロマグロだとばれてしまい、大間から出荷を受け付けた卸売会社は全データを水産庁に提供しました。

 ところが水産庁は対応を青森県に丸投げし、青森県は漁協の自主的な調査に委ねました。

 業を煮やした青森県警が漁獲報告義務に関して流通業者の責任も問えるという法解釈を導き出し、ヤミマグロを集荷した仲買人の帳簿類から不正漁獲を解明し、立件しました。

 捜査終了後、同県警は水産庁や青森県の幹部を県警本部に呼び、不正漁獲の調査、確認手法を指導しました。臭いものにフタをしようとする水産庁や県は、県警から本当はバカにされていたのかもしれないのです。

気仙沼では海上保安署が捜査

 そしていま、宮城県気仙沼市でクロマグロの不正漁獲捜査に動いているのは海上保安庁の気仙沼海上保安署だといわれています。

 クロマグロ密漁の疑いで、かなり長い間、漁業者らの内偵を続けて証拠を固め、最近、関係者の家宅捜索を行った――そんな情報が漁業関係者の間を駆け巡っています。

 海上保安庁は密漁捜査のノウハウを警察以上に蓄積していますが、気仙沼海上保安署管内でクロマグロの違法漁獲を摘発した前例はありません。

気仙沼魚市場は関与を否定

 筆者にもたらされた情報によると、太平洋クロマグロを無報告で漁獲し、出荷したのは地元の大目流し網漁船です。

 そのマグロを気仙沼市内の水産流通・加工会社が買い取り、出荷したということです。少なくとも生鮮クロマグロ100本単位、大型トラックで輸送する様子も確認されたという情報も聞こえてきました。

 しかし、それほど大量の取引が魚市場の関与なしに出来るものなのでしょうか?気仙沼魚市場を運営する気仙沼漁業協同組合は海上保安庁からクロマグロ取引の一般的な流れについて説明を求められたようです。 

 筆者が気仙沼漁協に質問を送ると、「噂としては聞くが、詳細は承知していない」「当組合は関与していない」(臼井靖参事)という回答がありました。魚市場を介さない直接取引だったのでしょう。

 警察や海上保安署などの監視の目を避けるように、漁船は魚市場から遠い唐桑半島の小さな漁港を使ってクロマグロを水揚げしていたようです。

大目流しの不正、3年前に地元紙が報道

 実は、大目流し網漁船による無報告の太平洋クロマグロ漁獲は気仙沼の漁業関係者の間では周知のことでした。冒頭の写真にあるように、3年前に気仙沼の地元紙「三陸新報」(2021年6月19日付)が詳しく報道したこともあります。

 記事によると、主にカジキやサメ類を狙う大目流し網漁船はクロマグロを混獲することも多いが、割り当てられた漁獲枠がほとんどないため、超過分を船員たちが海に還元したり、自家消費したりしていたといいます。

 漁船や船主も実名で紹介され、5日間の操業でクロマグロが一千本ほど獲れたが水揚げできないため、知人らに配ったほか、ほとんどを海に「還元」したことや、「インドネシア人船員から『(海に)投げるの疲れたよ』と話された」という船主のコメントも掲載されていました。

混獲対策を講じぬまま水産庁が放置


 死亡個体を海に捨てたり、漁獲報告しないで食べたりすると、法令違反になります。混獲が多い大目流し網にクロマグロ漁獲枠を増やすなり対策を講じてもよいはずです。

 三陸新報の記事にも「(大目流し網漁船は)混獲を回避する有効な手段がとれていない」とする水産庁のコメントが紹介されています。しかし、水産庁は漁獲枠が上限に達しても網にかかるようなら漁場を移動するように各漁船を指導しただけだったということです。

 漁獲枠を追加配分して救済もしないかわり、違反を調べて摘発することもしないという形で、水産庁が問題を放置している間に不正に漁獲されたクロマグロの数量は一体どのくらいあったことでしょう。

 青森県大間町などの漁師による不正漁獲をしのぐ規模の無報告漁獲が行われていたとしても不思議ではないと私は推測します。

「みんなやっていること」

 効率よく目的となる魚を獲れる「まき網漁業」と違って、大目流し網や定置網では混獲が避けられず、クロマグロを獲ろうと思っていなくても網に入ってしまうことが頻繁にあります。

 生きたままマグロを放流するのは非常に困難で、技術が進んでいるという定置網でもまだ試行錯誤の域を出ていません。死んだマグロをゴミとして捨てることもできず、魚市場に出荷することもできないので、自家消費に回したり、ばれないよう加工業者に買い取ってもらうという漁業者は大目流し網に限らずかなりいます。

 「みんなやっていることではないか」――大目流し網漁船の船主に実態を尋ねたところ、そんな言葉が返ってきました。先にふれたように意図せざる「混獲」をほとんど考慮しない水産庁のクロマグロ管理政策にも問題があります。

船主が持ち帰るマグロはどこへ?

 ところで気仙沼漁協ではクロマグロを市場に持ち込んで計量した後、漁獲枠超過が明らかになって船主が販売を取りやめ船に持ち帰る慣行がありました。

 持ち帰ったクロマグロがどこでどのように扱われるのか、漁協は把握できません。こういった慣行もまた不正流通の温床になるのです。

 気仙沼市内にはヤミ市場に出回るクロマグロを仕入れて安価にマグロ丼などを提供する飲食店もあるといわれ、漁業者と販売業者、飲食店が互いに持ちつ持たれつの関係が長く続いていた可能性があります。

 過去にさかのぼって調査をすれば、相当な規模の不正漁獲がわかるはずです。漁業法を所管する水産庁は、法令に基づいて漁獲上限を決め、漁獲実績の報告を義務付けている太平洋クロマグロの密漁取り締まりを海上保安庁任せにせず、不正漁獲、不正流通の全容解明に協力すべきです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?