遺伝子不一致、孫世代も52頭、なお増殖中 宮城県産の和牛、県の監督行き届かず

 

全農宮城県本部は遺伝子型の不一致が多数見つかっている石巻市在住の獣医師が授精した和牛合計258頭に対するDNA検査を終え、その結果を宮城県畜産課に報告しました。このうち30頭から授精記録上の父牛と異なる遺伝子が検出されました。父子不一致率は11.6%と高率です。

また、30頭の中には繁殖用のメス牛(繁殖牛)も16頭いて、中には12頭も子を産んだ優秀な繁殖牛もいます。その結果、孫世代の産子は52頭が現存し、さらのそのうち繁殖牛が13頭もいて、その子孫を増やし続けています。

宮城県産の和牛に対して全頭DNA検査を求める要望が出るくらい、家畜市場を利用する購買者の間でも不信感が広がっています。

地元紙などの報道によれば、村井嘉浩宮城県知事も9日の定例記者会見で「仙台牛のイメージ低下を危惧している」(河北新報)、「獣医師が恣意的なミスをしたと判断されても、やむを得ないものだ」(仙台放送)などと語りました。

宮城県産和牛の遺伝子不一致問題は、今年7月17日に筆者がこのnote上で書いた記事で初めて明るみにでた事件です。

筆者が宮城県産の子牛を家畜市場で仕入れている購買者らからの噂をもとに調べたところ、石巻市在住の獣医師が自ら授精を手がけた牛から父子矛盾(遺伝子不一致)が検出されたことを認め、それをもとに県に問い合わせたところ、県も調査を進めている事実を明らかにしたものです。

その後の調査で判明したのは、2018年10月に秋田県の生産者からの相談で、不一致の疑いが表面化し、牛が宮城県側に戻されていたにも関わらず、全農宮城県本部や同県本部に業務を委託している全国和牛登録協会宮城県支部はこの情報を関係者限りで扱い、公表を差し控えていた事実です。

宮城県は2019年5月に授精を担当した石巻市の獣医師を立ち入り調査したものの、筆者の問い合わせに対して担当の畜産課は「ミスはありうるものだ」として、この問題を単純ミスとして片付けようとする様子でした。

県や全農県本部の対応が大きく変わったのは、筆者が7月17日の投稿前に農林水産省や全国和牛登録協会本部(京都市)へ取材を始めてからです。

宮城県と全農宮城県本部は7月26日に家畜市場内で生産者向け説明会を開催し、DNA検査の実施状況を初めて公表し、その時点で調査対象149頭中17頭から遺伝子不一致が検出されていました。その時点での不一致率は11.4%でした。検査が進んでもその比率はほぼ変わらず、遺伝子不一致の頭数は増えて続けました。

 宮城県は8月20日に開いた2回目の説明会の席上、「今後は告発も視野に入れ、関係機関・部署と相談している」と説明しています。9月に入ってからの地元紙などの報道では、家畜改良増殖法違反の疑いで宮城県警に告発する準備を進めているそうです。

 孫世代52頭のうち12頭を産んだ繁殖牛(2007年生)の父親は「勝忠平」のはずでしたが、実際は「21世紀」でした。7頭を産んだ牛(2008年生)の父親は「安福久」のはずが「勝緑」でした。

人気の種牛の凍結精液を授精に使用したはずが、人気がなかったり、衰えていたりした種牛の精液と入れ替ったケースがほとんどでした。

凍結精液の値段にも大きな違いがあり、差額の受け取りを狙った意図的な行為という見方ができますが、7月半ばに筆者が取材した際、獣医師はそうした差額狙いの行為を否定し、暗い場所で凍結精液ストローを取り違えるなど、作業上のミスだったと説明していました。

いずれにしても授精に使う凍結精液のずさんな管理は、中国への和牛の人工受精卵持ち出し事件と同様、和牛遺伝資源の国外流出をもたらす恐れがあります。

宮城県では、この獣医師以外からも人工授精による遺伝子不一致が2018年度以降複数確認されています。人工授精業務を監督する県のチェック体制にも不備があるものとみられます。

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