(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。⑩かなり緩い「ふるさと納税」交付要件、上島町「条例」逸脱の疑い

 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)の本部は繰り返し紹介しているように広島県神石高原町にあります。

 定款には「この法人は主たる事務所を広島県神石高原町に置く」と書いてあります。大西氏が理事長を務めるNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF)も、主な活動場所は愛媛県上島町の豊島(とよしま)ですが、本部はPWJと同じ神石高原町です。

 この2つのNPOは本部のある広島県神石高原町とは別に愛媛県上島町からも「ふるさと納税」の交付金を受けています。上島町へのPWJグローバルシチズン・スクールの開校準備や無人島の豊島(とよしま)での観光事業・アート支援のための資金調達(ガバメント・クラウドファンディング)も実施しました。

 本部所在地と異なる市町村、県外の自治体でふるさと納税を募集することはできるのでしょうか?

 ふるさと納税制度を所管する総務省に問い合わせたところ、以下の通り、一般論としてはOKです。

 「一般論ですが、一事業者が、複数の地方団体においてそれぞれ事業を行う場合において、自団体の区域内で行われる事業に対する補助金(歳出予算)の原資とするため、それぞれの地方団体において、ふるさと納税を募集することは可能です」(総務省市町村税課)

 ふるさと納税制度上、重視されるのは特産品が作られたり、サービスが行われたりする場所であって、本社や本部がある場所は考慮されないのです。

 では、一般論としてではなく、各論としてPWJ/SAPF集団が関係する自治体の条件を見ていくとどうでしょうか?

 上島町ふるさと応援条例(2017年4月1日施行)は、第2条で寄付の使いみちとして以下の6項目を掲げています。
 (1) 「子供が元気なまちづくり」に関する事業
 (2) 「人が元気なまちづくり」に関する事業
 (3) 「生業が元気なまちづくり」に関する事業
 (4) 町内自治会への支援
 (5) 町内に主たる事務所を置く特定非営利活動法人の支援
 (6) その他町長が必要と認める事業

 このうち(5)の「上島町内に主たる事務所を置く特定非営利活動法人(NPO)の支援に活用」するとして町がリストアップしたのが、「弓削の荘」「頼れるふるさとネット」「GGライフスタイル研究所」「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」「瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF)」「上島ポッポコーンの会」の6団体です。町のふるさと納税サイトでも紹介しています。

 ちなみに2018年度のふるさと納税による上島町への寄付は300件848万9千円でした。NPO向けはそのうち87件338万7千円(団体別は未公表)でした。NPO向けは、5%を町が事務手数料として徴収しますが、95%は交付金としてNPOに渡されたということです。

 その金額は比較的ささやかなもので、過熱した返礼品競争とは距離をおいている様子がうかがえます。

 ただ、問題は広島県に本部(主たる事務所)があるPWJ、SAPFがどうしてこの対象になっているか、という点です。

 PWJ、SAPFを除く他の4団体は正真正銘、上島町内に主たる事務所を置くNPOです。総務省市町村税課にその点を尋ねたところ、回答を避けられてしまいました。

 「補助金(歳出予算)の運用は当該地方団体の議会による議決を経て行われるものであり、一義的な説明責任は当該地方団体が有するものです」

 「ご指摘は、上島町の条例に基づいて行なわれたNPO法人に対する補助金(歳出予算)の運用が適正か否かという点であり、当課としてはお答えする立場にありません」

 実は、私は今年7月以来、上島町総務課に何度となくこの扱いについて問い合わせをしています。

 町の説明は「PWJの事務所が本町に所在しており、それをもってふるさと納税寄付認定団体として認定しております」(7月16日付、総務課回答)です。

 SAPFについても「上島町ふるさと応援条例第2条(5)に該当する法人として寄付の対象としております。履歴事項全部証明書では法人の本町の事務所は従たる事務所となっていますが、ご存じのとおり、瀬戸内アートプラットフォームの活動の中心は本町豊島にあり主たる事務所を置くものに準じるものとして解釈し、運用しております」(7月29日付、総務課回答)と説明を受けました。

 その説明通りとするなら議会が「条例」で決めた認定要件を役場の「解釈」で除外してしまっているわけです。

 9月下旬にも再度、そのような運用で大丈夫なのか、「従たる事務所」しか置いていないNPOを認定対象にした法的、手続き的な根拠となる文書があれば示してほしい、と求めました。

 上島町の回答は同じでした。11月1日になって届いた総務課の回答は「根拠については従前にご説明した通りです」という内容です。

 私は上島町監査委員の事務局にも指摘しましたが、これも11月1日に総務課から一括して連絡があり、「当町に住所のない方からのご質問に対し、監査委員及び監査事務局として見解を示すことは差し控えさせていただきます」というつれない回答でした。

 では、別の自治体はどう扱っているのでしょうか?

 PWJがふるさと納税でお金を調達している佐賀県県民協働課に問い合わせたところ、「県外に本拠を置いている市民社会組織(CSO)についても、県内に在住し、活動するものが1名以上いること等の条件を満たしていれば支援の対象となります」という回答がありました。

 佐賀県では、ふるさと寄付金基金条例に基づいてふるさと納税を活用していますが、特にNPO等を指定した支援を目的にした寄付には交付要綱を定めていて、県外本拠のNPOも要綱で示した条件をすべて満たせば、認定対象になることを明記しています。

https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00331962/3_31962_112213_up_cr6545b8.pdf

 認定するからには、県もそのNPO等による寄付金の使い方にも目を光らせ、必要な場合には資金の使途について詳しい報告を求めたり、実地調査したりする権限も要綱に盛り込んでいます。

 これなら多くの人も納得するでしょう。

 上島町の場合も条例を改正して、「主たる事務所」に限定した規定を削除するなり、改正するなり、そしてさらに細かい運営要項を制定するなりの対応を迫られていると思います。

PWJやSAPFを認めるのが「その他町長が必要と認める事業」であるならまだ条例との関係では説得力を持つでしょう。町議会は条例との関係からふるさと納税をチェックしているのでしょうか、心配です。

 一般会計の歳出・歳入予算に計上される公金でありながら、ふるさと納税で集まるお金の扱い方はかなりルーズだと感じました。


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