ピースワンコ「全頭引き取り」の公約放棄か? 1年前から「適正範囲に制限」と広島県回答

 広島県健康福祉局からピースワンコの現状についての驚くような回答が寄せられました。

 きっかけは東京新聞がNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の保護犬(ピースワンコ)事業を持ち上げた記事の間違いについて、広島県食品生活衛生課にも確認を求めたことでした。

 結果は東京新聞が8日付夕刊で訂正した内容と同じですが、関連して以下のような質問もぶつけていました。

 殺処分対象の犬を全頭引き取ることを2016年4月に宣言したPWJ/ピースワンコは、いまもその通りに行動しているのですか?

 すると、県から返ってきたのは、PWJが2019年1月以降、保護犬(ピースワンコ)事業において、引き取る犬の数を「適正管理できる範囲」に制限しているという説明だったのです。

「殺処分対象をピースワンコが全頭引き取るとは限らない」というわけです。ふるさと納税の寄付を募るにあたっての公約を放棄した可能性があるのです。

■「ふるさと納税」で5億円調達

 これが事実ならPWJ/ピースワンコの重大な方針転換です。 

 PWJによる全頭引き取り宣言から始まった広島県の「殺処分ゼロ」を維持、継続させる役割を自ら放棄したとも受け取れます。

 PWJには、支援者や動物愛護関係者らが納得するような説明が求められそうです

 PWJ/ピースワンコは、2019年度も神石高原町の「ふるさと納税」の指定団体として5億3千万円以上の寄付を集めました。

 寄付をした支援者たちは、PWJ/ピースワンコの方針転換を知っていたのでしょうか?

 また、PWJの側も、捨て犬保護に関する考え方について、支援者らにわかりやすく、正確に伝えようと努力したのでしょうか? 

■「訴求力」重視、誇大宣伝も

 ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」のサイトをみると、ピースワンコのうたい文句は、殺処分対象の犬の「全頭引き取り」と「殺処分ゼロの継続」のままです。

 2019年1月の方針変更後も、従来の延長線上にある表現を使い続けています。PWJの役割を過大に錯覚させかねない内容のままになっているという印象を私は受けました。

 犬の命を救おうという訴えには、他の事業と比べものにならないほどの魔力があるようです。 PWJの事業報告を読むと、「殺処分ゼロ」の取り組みを2016年度に「訴求力」の高いコンテンツと位置付けたことがわかります。

 これまで支援者、寄付金の拡大に利用し、成果を上げていた経緯もあるためか、「全頭引き取り」や「殺処分ゼロ」という看板は手放したくないのかも知れません。

 しかし、広く一般から浄財を集めるなら事実を正確に公表する責任があるはずです。

 もし、食品生活衛生課の説明通りであるなら、広島県のNPO所管課である県民活動課は情報開示を適切に行うようPWJを指導すべきではないかと私は思います。

■殺処分ゼロ、県に責任転嫁

 いままでのところ、幸いなことに殺処分対象になるはずだった犬は、結果的に全頭がPWJに引き取られているようです。

 しかし、もはや殺処分対象の全頭引き取りが履行される保証はないと広島県は受け止めているようです。

 広島県は他の動物愛護団体への譲渡を増やしていますが、それでも三原市にある県動物愛護センターの収容施設に残される犬の数は徐々に増えているようです。

 均衡が崩れるのは時間の問題かも知れません。引き取り手のない犬が残った場合、ガス室での殺処分が再開される可能性を排除できなくなっているのです。

 私は、PWJ/ピースワンコが広島県動物愛護センターや他の動物愛護団体に殺処分ゼロを継続する責任を転嫁しようとしているのではないかと疑っています。

 このnoteでも紹介しましたが、PWJ/ピースワンコは最低でも4100頭以上を収容できるシェルター(犬舎)を広島県神石高原町と岡山県高梁市にすでに完成させています。

 ピースワンコ部門の収支も毎年度黒字になっていて余剰金が預金として積み上がっているはずです。

 一方、「ふるさとチョイス」サイトの情報では、PWJの保護犬収容頭数は2800頭程度で推移しているそうです。

 施設も預金も十分に備えていながら、どうして引き取りを制限しているのでしょう?

 2018 年にPWJが狂犬病予防法違反で書類送検され、広島県が他の動物愛護団体への犬の譲渡を増やす方針を決めたことも一因になっていると私は思います。

 そしてそれ以上にPWJの財務内容悪化も大きな要因になったと推測します。ピースワンコ事業は黒字でも、医療や農業など地域創生事業が赤字を垂れ流していてPWJ全体として資金繰りが苦しくなっているようなのです。

■野良犬収容、削減のメド立たず

 広島県は野良犬を減らさなければ殺処分ゼロを継続することは難しいという立場です。

 野良犬の数が減らせないまま「出口」の殺処分をゼロにしようとすると、収容頭数が増え続けるシェルター運営のコストが膨れ上がりだけで、いつまでも問題は解決しないと考えているのです。

 2016年度以降、「殺処分ゼロ」の状態は続いているものの、殺処分を生む原因である野良犬の収容頭数は大きく減っていません。

 野良犬が県内にどのくらい生息しているかもつかめていない状態です。犬を殺処分しなくて済む環境がいつ整うか、いまだメドが立たない状態が続いているのです。

 県が危惧したことがいま起きているのかも知れません。しかし、わかっていながらピースワンコ頼みを続けてきた県の責任も重大です。PWJ/ピースワンコとともに早急に実情を公表してほしいと思います。

 もし、広島県がPWJ/ピースワンコに見切りをつけて「殺処分ゼロ」の旗振り役になるなら、早急に県自ら財源を確保するため寄付の受け皿を作る必要があるでしょう。

 あるいは、PWJが預金として積み上げているとみられるピースワンコ余剰資金の提供を受けて、県や他の団体がシェルターの運営に乗り出すことも考えておかなければならないかも知れません。

 県は動物愛護センターの新設移転を計画中ですが、その完成を待ってからの対処では手遅れになってしまう恐れがあると思います。


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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