黒字ため込むピースワンコ、ふるさと納税からの交付金、監視強化を

 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)には、隠された部分、わからないところが多く残されています。

 私のつたないPWJ/ピースワンコのシリーズ、始めたころは9月中に終えられるだろうと思っていたのですが、もうすぐ11月です。思ったよりも手間取りました。

 書きながら寄り道をたくさんしました。また、書いているうちに疑問点が次から次へと浮かんできて、その確認や整理にも時間がかかりました。

 読者の皆様から提供していただいた情報に助けられたことが何度もあります。しかし、それでも解明できない部分があります。

 PWJは私が送った質問には無回答のままです。

 神石高原町も回答を拒んでいますが、こちらは条例で情報公開が義務付けられているので、申請をすれば関連文書が開示され、それについての説明を受けることができます。

 かなりの文書を情報公開制度で入手しましたが、手続きにはそれなりの時間がかかります。PWJが芸術による地域振興に取り組んでいるという愛媛県上島町は開示請求できる人を原則として住民に限っていて、少し驚きました。

 これまでの記事も脇道にそれたり、順不同だったりしますので、広島県など関係する地方自治体の対応を含めて、整理しなおします。投稿再開を機会に、少々まどろっこしくなりますが、過去の記事と多少重複してもひとつひとつ改めて分析してみたいと思います。

 そもそも広島県の野良犬事情はどうなっているのか、県動物愛護センターはどんな仕事をしてきたのか、ということも詳しくは紹介していませんでした。新しい動物愛護センターを建設する準備も進んでいるようなので、その歴史も振り返ってみたいと思います。

 PWJについては、本業ともいうべき国際援助分野でもいろいろな問題が報道されています。月刊誌「FACTA」でも幾度か取り上げられていました。

 援助をめぐる問題自体、もっと広く知られていいはずの話題なのですが、さらに調べるには外務省への情報公開請求など周辺調査を含めて多少時間を要します。

 そこで、私がPWJへの疑問、問題点を整理するにあたって、今回は(現時点では)ピースワンコ事業とのかかわりに限定しておこうと思います。

 一番大きな問題は、監督者である広島県や神石高原町がPWJの実態をつかみ切れていないところだと思います。

 捨て犬などを保護する施設(シェルター)の収容能力が4100頭規模になっていることはすでにお伝えした通りです。本部のある神石高原町のほか、2017年には岡山県高梁市(旧備中町西山地区)にもできていて、広島県単独ではもはや監視不能です。

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 PWJのPRビデオで施設の様子やごく一部の犬の様子を見ることはできます。しかし、数百頭、数千頭という犬が実際にどのように暮らしているのでしょう。

 すべてを掌握している人は、PWJにもいないのではないでしょうか。

 狂犬病予防法で義務付けられた登録や予防注射すらままならない時期もあっただけに、犬たちは十分に食事や散歩が出来ているのか、それも心配です。広島から県境を超えて保護犬のシェルターがやってきたことに岡山県関係者も当惑を隠せないようです。

 PWJは「殺処分ゼロ」が自分たちの活動の成果であるかのように宣伝しています。しかし、現実は違います。

 殺処分対象の犬の全頭引き取りは2016年4月の開始から1年余りで、現場では処理しきれないくらいの重荷となり、狂犬病予防法に基づく登録や予防注射もままならない状態になりました。そして広島県警の捜査を受け、書類送検されました。

 十分な寄付金は集まっているのに、犬の数にふさわしい施設を整え、獣医師を含め専門的なスタッフを十分に確保できないまま収容頭数を増やし続けてきたのです。

 広島県は県警捜査、書類送検を機にPWJへの引き渡し頭数を制限する方針に転換し、他の団体に引き取りを増やすよう要請しています。

 いま、曲りなりにも県動物愛護センターなどが収容している犬の「殺処分ゼロ」が継続できているのは、背伸びして失敗したPWJの代わりに、県から要請を受けた他団体が支えているからです。

 PWJの指導者たちは「殺処分ゼロ」という「正義」の実現に邁進しているという高揚感を覚えていたかもしれません。「正義」のためだから多少の法令違反は大目に見てもらえるだろうと甘えていなかったでしょうか?

 大西健丞代表理事は昨年夏、湯崎英彦広島県知事に詫び状を書き、再発防止を約束しています。その後の履行状況をぜひ自発的に公表して欲しいと思います。

 全国から集まる寄付金の使われ方にも厳しい監視や監査が必要でしょう。

 ふるさと納税で集めた寄付金をPWJに交付している神石高原町は「NPOへの支援は性善説に基づいて行なっている」として、資金の使途を厳しくチェックしたり、問いただしたりしないようです。

 PWJには赤字事業と黒字事業が混在しています。

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 収入のほとんどを占める寄付金や助成金は使途をあらかじめ決められている場合が多く、違う部門に使うことが出来ません。

 黒字部門では余剰金が溜まる半面、赤字の穴は借入金で埋めるという姿になっているのではないでしょうか。 決算資料で、現金・預金の残高、そして借入金の残高がともに増え続けていることを確認できます。

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 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/npo/npo00485.html (広島県NPO情報サイト)

 PWJの収支報告を見る限り、保護犬(ピースワンコ)事業は毎年度「黒字」です。

 2018年度まで過去3年分だけをみても、ピースワンコ部門は計6億6千万円強の黒字をPWJにもたらしています。

 神石高原町や高梁市でのシェルターや都市部の譲渡センターを増設してもまだお釣りが来るくらい、十分な収入を得ていたのではないでしょうか?

 2018年度末の現金預金(国内)は8億1千万円強あります。前年度末(4億2千万円強)から倍近く増えています。ピースワンコ部門の黒字がそこに溜まっていると私は推測します。

 犬の収容頭数が激増しているので、犬舎や譲渡センターの建設に追われ、PWJは資金不足なのかと思いがちです。2017年度にPWJの正味財産がマイナスに転落した時、私はシェルター建設などへの投資がかさんで、PWJの財務内容が悪化したのだと思っていました。PWJもそのように説明しています。

 ふるさと納税の寄付金から5%を事務経費として受け取っていた神石高原町が2018年12月から取り分を2%の減らしたのも、PWJのフトコロ事情を考慮したからでした。

 しかし、実態は逆ではないのでしょうか。

  収支報告の内容がもう少し詳しく、一般の寄付者にも分かりやすく書かれているといいのですが、現時点では情報が限られています。あくまで推定に過ぎませんが、現金・預金の動きをみていると、使いきれないお金が手元に溜まっているような気がするのです。

 町役場はむしろ取り分を増やして、PWJがなかなか投資しようとしない犬用し尿処理施設整備など環境対策や、獣医師など役場専属の専門家雇用に充当したほうがいいのかもしれません。

 借入金残高は2018年度末(2019年1月期末)現在、短期・長期合わせて11億7千万円です。こちらも急増しています。2年間で3倍に膨らみました。

 これだけ預金があるのに借入金を増やさざるを得ないのは、先にも言及したように寄付金や助成金を目的外には使えないためです。部門別の赤字が続く限り、借入金もまた増えていく仕組みなのだと考えると、すんなりと理解できます。

 赤字部門の代表は地域創生事業です。

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 本部のある神石高原町のほか、佐賀県や愛媛県上島町などでも農業・観光・医療・福祉への支援を行っていますが、ピースワンコのようには寄付金が集まっていないようです。機関誌・書籍の発行なども赤字です。

 上島町では、NPO瀬戸内アートプラットフォーム(神石高原町、大西健丞理事長)と連携して大西氏の親族がかつて経営していた高級宿泊施設も利用しつつ、芸術による地域活性化に取り組んでいるようですが、同プラットフォームも赤字を抱え込んでいます。

 増え続けるこの借入金、PWJは「ソーシャルビジネスの総合商社」だということです。しかし、収入は寄付金・助成金ばかりの非営利団体です。赤字の穴埋め目的ではなかなか寄付も集まらないでしょう。

 いったい、どうやって返済していくつもりなのでしょう?

 間違ってもピースワンコのお金が、赤字事業の穴埋めに使われないように、PWJの会計監査人や神石高原町議会はしっかり目を凝らしていただきたいと思います。


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