ペットの安楽死を考える~飼い主の責任


 昭和の時代、歌手として大活躍された佐良直美さんは、動物と話が通じる不思議な能力の持ち主で、家庭犬のしつけのインストラクターとしても有名です。

 私が飼っているボーダーコリー(たろう、12歳)も彼女の協会に所属するインストラクターの指導を受けてしつけたので、おっちょこちょいでも悪さをしない気立てのいいヤツに育ってくれました。

 その佐良さんは著書「動物の神様に生かされて」の中で、ペットの安楽死についても書いています。重い病気を患って苦しんでいる犬を安楽死させたことを淡々とつづっているのです。

 つらいことですが、飼い主の責任でもあります。飼い主は決断できないことが多いので、もう助からないとわかったときは「獣医さんのさじ加減で飼い主に何も言わずに眠らせてあげたほうがいいのかもしれません」という率直な気持ちも書かれています。

 まったく同感です。私は、7年前にボーダーコリー「あいこ」(当時10歳)がガンで死んだとき、2度も手術をして、少しでも長く生きてくれればいいと思っていました。しかし、いまも元気な「たろう」がてんかん発作で倒れるようになってからは、その苦しむ様子を見ていて、治療がうまくいかない場合は安楽死という選択も考えなければならないと思いました。

 幸い、かかりつけの獣医さんが熱心に治療薬を調べて根気よく処方を考えてくれました。家で一日中たろうと一緒にいる妻もたろうの健康状態を細かく観察し、複数使う治療薬の配合の仕方に関しては獣医さんよりも詳しくなりました。

 投薬には副作用もあり、ふらふらして立っていられなくなるような時期もありました。試行錯誤を繰り返して、発作がピタリと止まったのが2年半ほど前のことです。

 病との共存、QOL(生活の質)を優先する治療に決めた今は、走ったり、ジャンプしたりすることはできないものの、部屋の中を歩いたり、寝転がったり、ときどき外に散歩に出かけたり、のんびり、穏やかに過ごしています。

 佐良さんは安楽死を選ぶのは「動けず、食べられない、といった時」と書いています。

 幸いなことにたろうは食欲いたって旺盛、獣医さんも驚くくらい胃腸は丈夫です。寝言をいうくらい睡眠もよくとります。このままの調子で、安楽死という選択を忘れさせてくれるのが一番です。

 獣医大学で遺伝性疾患の研究をしていた先生にてんかん治療の話をしたら、開口一番「それは費用も大変でしょう」といわれたくらい経済的な負担も大きいです。そしてまた、動物のてんかん発作をみるのは、ひとの発作をみるのと変わらずつらく、なによりもまた、ペットも心身共に蝕まれて不安におののいている様子が伝わってくるのがつらいです。

 病気だけではありません。

 佐良さんによると、いくら訓練しても直せない咬みつき癖、凶暴性のある犬はいるようです。遺伝的な疾患があるとわかっていてもブリーダーが無理な交配をして、問題のある犬がまき散らされるという現実もあります。

 私も愛犬をペットショップで見つけて飼い始めたくちですから、偉そうなことは言えないのですが、自分で飼えなくなったからとか、病気で苦しんでいるのを見ていられなくなったからという理由で動物愛護センターに引き取ってもらおうと考える前に、飼い主としてできることは何かとふだんから考えておくようにしたいと思っています。

 万が一のとき、自分の飼っているペットを安楽死できるか、自問自答してみることは、とても大切なことだと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?