ファクト・チェック②大西健丞さん、その話、本当ですか?

 前回、書き忘れていました。このNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)の大西健丞代表理事のインタビューが掲載されたのは「リディラバ」という社会問題専門の有料購読ウェブメディアです。

 運営会社はスタディツアーの企画なども行っているようです。ご興味のある方は、サイトを訪問してみて下さい。

 今回もこのインタビュー記事の中の大西健丞氏の発言を紹介します。

■投資家・村上世彰氏への依存

▶株式会社をやろうとした理由のひとつが、当時、「金持ちが正しい」みたいな風潮が世の中にあったから。(世の中が)そんなにいうんだったら自分で会社を作って、食べていける分は稼いで『豊かな生活』というのをやってみようじゃないか」と考えて、株式会社としての事業をメインにやっていた

 クルーザーやヘリコプターに乗るのが好きな大西氏は、やはり、セレブ生活にあこがれを抱いているようです。大西兄妹の「風の音舎」による離島のリゾート開発は失敗に終わりましたが、慈善活動に熱心な富豪たちが社会的事業にお金を投じる姿に、自分を重ねてみたかったのでしょうか?

 投資家・村上世彰氏との付き合いも10年あまり前から始まっていて、大西氏は村上氏の娘の絢氏が代表理事を務める一般財団法人村上財団の理事に就任しています。PWJの財務内容が悪化している最近は、村上氏からの資金援助がなければ活動に支障が生じるのではないかと思われるほど、金銭的にも依存を高めています。

 しかし、発足当初、PWJの活動資金を支えたのは大阪の会社、エルセラーン化粧品の創業者とその販売員たちでした。

 創業者・石橋勝氏(現・会長)は大西氏の大学時代の後輩女性、桂さん(元PWJ理事、故人)の父親です。そして2006 年までPWJの代表理事も務めていました。お金のない大西氏が石橋氏のエルセラーン化粧品グループにスポンサーになってもらったのです。

 石橋氏はボランティア活動のために化粧品会社を創業した人物で、海外での緊急人道援助や国内の災害復興支援に取り組んでいました。大西氏が風の音舎を作った翌年、石橋氏はPWJから去っていってしまいましたが、草創期から10年、PWJを物心両面で支えた人物です。

 大西氏は自分もお金を稼ごうとして風の音舎を設立したものの、「ヴィラ風の音」の経営に失敗し、風の音舎から去らざるを得なくなりました。

 そして、セレブになり損ねた大西氏は、それまで以上に寄付集めに奔走することになるのです。

▶おかげさまでピースワンコ・ジャパンにも多くの寄付をいただいていますが、寄付が集まれば集まるほど、「たくさん(給料を)もらっているんだろう」とやっかまれて、うがった見方をされてしまうこともあります。いろいろな領域に手を出している分、むしろ給料は前よりも下がったし、目の前の問題を解決するために必死でやっているだけなんだけど

 給料が下がった、とご本人が明かしてくれました。

 確認のため、広島県に情報公開請求して入手したPWJの「認定特定非営利活動法人等の役員報酬規程等提出書」を見てみましょう。

 2018年度(2018年2月から2019年1月まで)は、報酬を受け取っているの役員(理事)は2人で、年額はそれぞれ1440万円、854万円となっています。

 2017年度(2017年2月から2018年1月まで)はそれが1680万円、984万円でしたので、確かに2018年度は14%程度カットされています。

■地域創生事業が大赤字

 インタビューでの「いろいろな領域に手を出している分、むしろ給料は前よりも下がった」という大西氏の発言を聞いて、「いろんな事業を手がけたいので、給料を削ってでも投資に回しているくらいだ」という印象を受ける人もいるかもしれません。

 しかし、そう受け取るのは間違いです。

 「いろんな事業に手を出したが、赤字がかさんで経営が苦しくなったので、給料をカットせざるを得なくなった」

 こちらが真相でしょう。

 大西氏の話や文章には、大事なことについて錯覚させたり、誤解させたりするところがあるようです。ファクト・チェックが欠かせない理由です。

 PWJは2017年度末に4991万円の債務超過に陥っています。

 産業育成と医療・福祉体制の改善などを通じて地域を活性化する事業(地域創生)部門が2億4千万円もの赤字でした。

 ふるさと納税をたくさん集めた「殺処分ゼロ」の保護犬事業による黒字もむなしく、全体でも1億4千万円弱の経常赤字となりました。

 2017年度に経営体としては崖っぷちに陥ったのです。その責任を、2018年度の役員の給料カットという形で明確にしたとみておいた方がよさそうです。

**■増え続ける預金  **

 2017年度末の財産目録をみると、未収入金の欄に「(株)高橋ヘリコプターサービス(回転翼機売却収入)1億3千万円」という記述もあります。

 大赤字の地域創生事業をリストラしないことには、PWJ本来の事業である国際人道援助活動や保護犬事業の展開に支障をきたしかねない状態になっているのだと思われます。

 PWJの収入のほとんどは、使途が限定され、他の目的に転用できない助成金や寄付金です。十分な収入もないのに、支出がかさむ赤字部門を放置しておくと、返せるあてのない借入金が増えて、PWJは経営破綻してしまいます。

 破綻回避のためには、黒字の部門でお金をためておく必要が生じます。

 「殺処分ゼロ」をうたって集めたふるさと納税の寄付は、他の赤字事業に流用されてはいないはずですが、2017年度のような債務超過に再び陥ることがないよう資産として銀行の預金に残さざるを得なくなっているのではないでしょうか?

 ちなみに2018年度末の国内の現金・預金残高8億1318万円のうち最も残高が多かったのは神石高原町にある広島銀行油木支店の口座で5億2807万円残っていました。


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