(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。②沈みゆく夕日、愛媛・豊島、富裕層向けゲストハウスの行方


 2018年5月28日のことです。あいさわ一郎代議士(岡山1区選出、自民党)がツイッターでこんな投稿をしました。

 瀬戸内海に浮かぶ離島、豊島(愛媛県上島町)に、親しい関係にあるNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の大西健丞代表理事らと、前日の5月27日からヘリコプターでやってきたという内容です。

 豊島にはPWJの大西氏が関わっている施設が2つあります。

 ひとつはPWJがドイツ人芸術家、ゲルハルト・リヒターによるガラス作品「14枚のガラス/豊島」の展示施設です。2016年5月から期間限定で一般にも公開しています。

 3年に1度、瀬戸内国際芸術祭が開催されている島の1つ、香川県の豊島(てしま)と間違えてしまう人が多いようです。

 かつての産廃の島、豊島(てしま)をアートの力で再生させた瀬戸内国際芸術祭に触発されたのかどうか、大西氏も愛媛の豊島(とよしま)に美術館を作り、アートによる地域活性化を目指していたようです。

 「14枚のガラス/豊島」は、2018年度貸借対照表に評価額4億5千万円と記載されています。おそらくPWJにとって一番高価な財産です。

 もう一つは、豪華ゲストハウスです。

 大西健丞氏には、NPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF、神石高原町)の理事長という顔があります。定款によると、SAPFの設立日は2014年4月4日で、事業として、①美術館及び研修宿泊所の運営事業②アーティストの育成や支援事業③地域振興、観光振興への貢献事業、の3つを手がけることになっています。

 SAPFは中心的な事業として、愛媛県上島町のふるさと納税制度を使って資金を集めて、高額寄付者を招待するゲストハウスを運営しています。

 ふるさと納税サイトの「ふるさとチョイス」で調べてみると、あいさわ代議士が豊島を訪問した昨年5月、上島町はふるさと納税の返礼品として50万円以上の高額寄付者向けに<リヒター作品の魅力に浸る無人島ゲストハウス1泊2日>を用意していました。

 2018年5月から8月までの期間限定で、リヒター作品の観覧とゲストハウス1泊2日(2食付き)のサービスです。広島空港またはJR福山駅からの送迎サービス付きで、ペアでご招待という内容でした。

 「自然に溢れた豊島で、瀬戸内海の夕日と現代美術を代表する巨匠の作品をご堪能ください」
 
 当時の案内には、そう書いてありました。

 しかし、業績は振るわなかったようです。大失敗というべきかもしれません。

 SAPFが監督官庁の広島県に提出した活動計算書によると、2018年度の収入は交付金など469万円に過ぎません。

 50万円以上の寄付でペアご招待ということですから、これしか収入がないというのが事実なら招待は10組もいないくらいです。

 冒頭に紹介したように、あいさわ代議士は2018年5月にヘリコプターで豊島に行きました。彼も数少ない高額納税者として豊島に招かれたのでしょうか。

 代議士のツイッター投稿写真を見ると、リヒター作品の前で大西健丞氏のほかに女性も写っていますから、2組以上のペアでの訪問だったと推定できます。

 残念ながらSAPFの活動計算書では、ふるさと納税をしたのが誰かはわかりません。

 そこで、私はあいさわ代議士の事務所に2018年5月のヘリコプター利用による豊島1泊2日旅行の費用を負担したかどうか、そしてそれが私用か、それとも政治活動の一環なのか、問い合わせました。

 しかし、9月に質問状を送って1か月以上、催促も一度しましたが、回答はまだいただけません。

 上島町にふるさと納税したプライベートな旅についてジャーナリストの問い合わせにいちいち回答する必要はない、ということなのでしょうか。

 代議士側からの回答がないので、誰が豊島訪問費用を負担したのか、「不明である」としかお伝え出来ないのは残念です。

 PWJの毎年度の収支報告を分析すると、地域創生部門は赤字でPWJが借入金を増やし続ける原因になっていると推定できます。

 そのPWJ地方創生部門と連携する別動隊、SAPFの財政も実は危機的な状況に陥っているようです。

 2018年度(2019年1月期)末に次期繰越正味財産額がマイナス4510万円です。リスク評価法はいろいろあります。しかし、もし私が銀行マンだったらSAPFにはお金を貸しません。

 4億円以上の価値があるというリヒター作品はPWJのもので、SAPFは展示施設を管理しているだけです。のちに触れますがゲストハウスを除けば、担保になりそうな財産はほどんどないと思います。

 帳簿のデータを詳しくみると、2018年度に重大な異変が生じたことをうかがわせます。

■異変その1.ゲストハウスが資産から消えている

 2017年度の財産目録では、建物だけでも4285万円相当の資産として計上されていたゲストハウスが2018年度の財産目録や貸借対照表から消えてしまいました。付属の土地もほぼ同時に財産目録から消えた模様です。

 いったい誰の手に渡ってしまったのでしょう。上島町のふるさと納税担当者に聞いても詳しい事情を知らないようです。

 買い取った持ち主からゲストハウスを借り受けて運営することはできますが、SAPFが宿泊事業に見切りをつける日も遠くないような印象を受けます。

■異変その2.PWJからの借入金も5千万円減っている

 2017年度まであった合計9千万円の借入金(Paul Caldwell から3千万円、PWJから6千万円)が、2018年度末にはPWJからの1千万円だけに減っています。

 借入金の代わりに登場しているのは4893万円の社債です。社債引き受け先と思しき欄に「㈱ATRA」との表記があります。

 PWJは村上世彰氏やその娘の絢氏とも交流があり、旧村上ファンドの企業群に資産管理会社として株式会社ATRAという名前があるようです。

 断定するのは、SAPFからの回答が来てからにしたいと思いますが、村上親娘が経営にかかわる企業である可能性が高いと私は思います。

■異変その3.赤字なのに外部に2千万円寄付

 2018年度のSAPF活動計算書には、経費の1つとして寄付金2000万円が計上されています。最も大きな支出ですが、監督官庁の広島県に提出した事業報告書には突如として登場した寄付金の目的や寄付先などについてまったく説明がありません。ナゾです。

 この2000万円の寄付金については気づいた時点で、SAPFに電話などで問い合わせました。

 その時、PWJの国内事業部長で大西代表理事の側近である國田博史氏(元朝日新聞記者)らしき人物が応対してくれましたが、「答えられるかどうかわかりません」と言ったきり、回答はありません。

 その後は、ホームページに掲げてある問い合わせ先の携帯電話番号にかけても「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません」という自動音声の対応になってしまいました。

 ふるさと納税を利用して、社会的意義のある事業に取り組むことを目指しているNPOの対応としては、とても残念です。

 2018年度までふるさと納税制度による交付金対象団体に認定していた広島県神石高原町役場や、現在も認定団体として扱っている愛媛県上島町役場に聞いても、ふるさと納税担当者はSAPFによる外部への寄付の事実を知りませんでした。

 この年度の最も大きな支出項目なので、せめて目的や寄付した先は事業報告に記載して欲しいですね。

■異変その4.水道光熱費が消えた!
 
 2017年度のSAPF活動計算書によると、水道光熱費64万9千円が計上されていますが、2018年度の活動計算書には水道光熱費が見当たりません。

 代わりに増えたのは広告宣伝費で、2017年度に5142円だったものが、2018年度には100万円になっています。

 また、ふるさと納税お礼関連支出も13万円から87万円に激増しています。返礼品メニューの1つ、「弓削の鯛塩ラーメン」のほか、ゲストハウス宿泊サービスの実費が入るのかどうか不明ですが、水道光熱費が消えてしまった理由が全く分かりません。

 注目すべきは、支払い利息の急増でしょう。2017年度は73万9千円でしたが、2018年度は273万3千円へと4倍近くに膨らんでいるのです。

 社債と借入金を合計しても負債は減っています。にもかかわらず利払いが膨らんでいるのは、SAPFとの取引がきわめてハイリスクだと相手に判断されたか、かなり特殊な取引条件が付いているからではないでしょうか。

 寄付金の集まりが悪いとはいえ、SAPFもPWJと同様、ふるさと納税を利用してお金を集めてきています。

 資産台帳から消えてしまった豊島ゲストハウスや寄付の行方を含めて、寄付者やふるさと納税の看板を貸した神石高原町、上島町の住民や議会に、もっと詳しく事情を説明してもよいのではないかと思います。

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