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【海のナンジャラホイ-45】モバイルな動物たち

モバイルな動物たち

モバイルって?

携帯電話のことを英語では「Cell Phone」とか「Mobile Phone」と言いますね。このうちどちらかというとアメリカ英語の前者は「個々が使う電話」という意味のようですが、おもにイギリス英語の後者の呼び方は、固定電話に対して「移動できる」電話ということですね。このMobile という語はアメリカ英語では「モービル」、イギリス英語では「モバイル」と発音します。海洋生物学の世界では「移動性動物」のことを「Mobile animal」と称します。自発的に移動することができる動物ということです。
海洋生物を仲間分けするのには、いろいろな方法があります。節足動物・軟体動物・棘皮動物といった系統分類群で分けるのが最も普通です。一方、生活様式の違いで分けるのが、プランクトン・ネクトン・ベントスという類別であることは第5回で述べました。そして、移動できるか否かを基準にした場合、移動可能な動物が「移動性動物 Mobile animal」なのです。では、移動できない動物をなんと呼ぶのでしょう?

セサイルも居るよ

生息場所の基盤に貼り付いて動かない動物のことを「固着性動物 Sessile animal」と呼びます。アメリカ英語だと「セッシル」、イギリス英語だと「セサイル」です。その仲間にはフジツボ・カキ・オオヘビガイ・ホヤなどが含まれることは第4回でお話ししました。動物では他に、海綿動物・苔虫動物などが固着性ですし、ヒドロ虫類やゴカイ類にも固着性のものがあります。移動性か固着性かという類別に従えば、海藻は基本的に「固着性生物 Sessile organism」ということになりますね。

セサイルに見えて実はモバイル

移動性か固着性かという類別は成体の生活型に基づくものです。固着性動物も幼生の時は移動性で、泳いで適当な場所にやってきて、固着生活に移行して親になるのですから。セサイルに見えて、生活史全体で見ればモバイルの時期もあるということですね。一方、固着性の成体でも時々移動性になるものがあります。第15回で登場した十文字クラゲの仲間は、ふだんは固着生活を行なっていますが、吸盤を離して他の場所に自発的に移動することができます。二枚貝の仲間のムラサキイガイなどのイガイ類(ムール貝の仲間)は、足糸というのを射出してすみ場所の基盤に固着して暮らしていますが、すみ場所が気に入らなくなると、足糸を切り離して他の場所に転がり、新たに足糸を射出して新しいすみ場所に体を固定することができます。これらは、ふつうはセサイルだけれども時々モバイルにもなるわけですね。大型褐藻類のホンダワラ類のお話はこのブログでしばしば出てきていますが(第6回第30回第44回など)、ふだんはセサイルなホンダワラ類が流れ藻になって移動してゆくのも、見方によってはモバイルへの移行ですね。不可逆的な移行ではありますが。
ところで、「モバイル・アニマル」と発音すると、なんだか「藻場に居る動物」みたいで、シャレていて面白いですが、藻場に居る動物の全てが移動性というわけではないので、念のため。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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