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【海のナンジャラホイ-6】3つの生態系で活きる

3つの生態系で活きる 

動物の死は、わかりやすい。動かなくなって腐り始めたら、まあ、大体死んでいるはずです。心臓のある動物なら、なおさらわかりやすい。
植物はどうでしょう? 陸上の植物でも、枯死したものは、元気で青々しながら成長しているものとは、容易に区別ができます。土から引っこ抜いた陸上植物は、たいてい死んでしまうでしょう。

では、海藻の場合を考えてみましょう。海藻の仮根(かこん*)は藻体を岩に繋(つな)ぎとめておくためだけのものなので、波にさらわれたり動物にかじられたりして、仮根から剥(は)がされたり途中から破れたり切れたりして海底から放たれた藻体は、海底を漂い始めます。ゆらゆらと流れの赴(おもむ)くままに移動してゆくのです。この段階で、海藻はひきつづき生きていますよね。あれれ、では、海藻はいつ死ぬのでしょう? この件について、ホンダワラ類の海藻について、ちょっと考えてみましょう。

ホンダワラ類の海藻を知っていますか? 日本の沿岸で「ガラモ場」と呼ばれる、高さがふつうに4~5メートルくらいになる大きな藻場を作る褐藻(かっそう)類です。

ホンダワラ類のつくる「ガラモ場」

最近健康食品として有名になっている「アカモク」もこの仲間です。細かな枝葉のあるホンダワラ類の体はふにゃふにゃで柔らかいのですが、それが海中で立っていられるのは、身体中に小さな浮き玉(気胞)をたくさん付けているからです。春から初夏あたりに繁殖を終えた多くのホンダワラ類の体は、少々もろく切れやすくなります。大きな波が来ると仮根から抜けたり、体の途中から切れたりして、海底から離れます。

すると、どうでしょう! 気泡があるために、藻体は海面に浮くのです。海表面の流れに乗って旅する、浮かんだホンダワラ類は「流れ藻」と呼ばれます。流れ藻は生きています。元気な流れ藻は流されながら成長することさえあります。でも、2ヶ月も流されると、さすがに藻体もボロボロになり始めます。枝葉が落ちて気泡の数が減って、やがて海底に沈みます。
今度は寄り藻になって、海底を漂いながら、深海底にたどり着くものだってあるのです。この時点では、もう光も当たりません。だから成長はできません。でも、深海は温度が低くて栄養も多くある場合が多いのです。だから、深海底にたどり着いた「流れ藻だった寄り藻」は死んでいないはずです。深海底でゆっくり崩れながら、やがて体の最後の細胞の一つが死んだ時に本当の死を迎え、分解されて有機物になって、海に帰ってゆくのでしょう。

ホンダワラ類の旅路

ガラモ場にも、流れ藻にも,深海底にも,独特の生物たちが集まって形作る生態系があります。ホンダワラ類の海藻たちは、3つの生態系を通り抜けながら、いろいろな生き物たちと関わり、役立ちながら「活きて」、そして、潰(つい)えてゆくのです。

もちろん、全ての流れ藻がこんな旅をするわけではありません。流れている途中で海岸に打ち上げられて干からびてしまうものだってあります。海底に沈んでも植食動物に食べられて深海まで行かないものも多いはずです。でも、ホンダワラ類の海藻が、はじめは海底のガラモ場で、次は海表面の流れ藻で、最後に深海の淵の寄り藻になってゆく・・・そんな旅路を想像するのは、なんだか楽しいですよね。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部 海洋生物科学コース


*仮根(かこん)
海藻はほとんどが岩の上に生えています。そのため、根っこは岩の上に張り付いています。硬い岩の中まで根を延ばすことはできません。海藻の根っこは、見た目は陸上植物の根っこに似ているけれど、栄養などを吸収することはなく、ただ岩などに張り付くためのものです。
だから〈真の根〉とは言えず、〈仮の根っこ〉ということで、「仮根(かこん)」とよばれているのです。
詳しくは,「海のナンジャラホイ2 仮根」をご覧ください。
https://note.com/kasetusya/n/n85ad6588482e


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