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『中国・アメリカ 謎SF』読書感想。

題名も装画もガチで好みな短篇集。

読まないでスルーできる訳がない。

以下それぞれの短編についての感想。


『マーおばさん』
マーとは蟻のこと。
蟻を人間の脳のニューロンとして機能させ、
その複合体として一つの人格が成り立つ。

それがマーおばさん。
いわゆるAI。

主人公の世の中を見る視点が、鳥の目虫の目魚の目というようにぐるぐる変化して、社会というものが人間を細胞とした一つの精神であることに考えが至る。

“宇宙の中のちっぽけな自分“という、誰しも一度は聞いたことがあるような話なのだけれど、その一言では納得しきれなかった所まで浄化してくれる、そんな短篇だった。



『曖昧機械ー試験問題』
曖昧機械が作り出す時空の歪みによって引き起こされた3例についての試験問題。
千夜一夜物語のような味わいの幻想的な3つの物語が試験問題というのが秀逸。



『焼肉プラネット』
笑いと暴力。
海外ドラマだと『プリーチャー』とか『アメリカンゴッズ』とか好きな人におすすめ。



『深海巨大症』
昼の来ない深海での生活。
疑心暗鬼や哲学的内省に囚われ出す乗船者たち。
ココデハナイドコカに飛びたくなる衝動。

生きている意味、何かの役に立ちたいという本能が深海生物の生命の源になりたいという歪んだ欲望を産み出したとき、奇跡が目の前に現れる。

深海という舞台、好奇心と自殺の不健全な関係性。

全てが好み。

作者がこの一作しか書いていないことが残念。



『改良人類』
“人を変える“ことによって“社会を変える“。

遺伝子操作により誕生した改良人類たち。
多様性の欠乏が命取りとなった脆弱な社会。

ヒトがクロマニョン人を同類と思わないように、改良人類も旧世代の人間を同類とは思わない。

改良しても根強く残るカースト意識に人間が本能的に持つ闇を感じる。

『降下物』
放射能に侵されたディストピア。
腐りかけた肉をつないだパッチワーク人形のような未来人はあたかもフランケンシュタインのよう。

高濃度放射線が生み出すプリズムはグリーン、ライラック、様々な色で荒廃した世界を彩っている。

そこにタイムスリップしてきたのは学者のセアラ。

恋人の死により、自暴自棄になり訪れた未来で本当の絶望を目にする。

救いのない世界でも希望をなくさない未来人たちと関わり合うことで、セアラの中で何かが変わっていく。

ディストピアの鮮やかな情景描写、そしてその世界を悲しげに彷徨い歩く朽ちかけた未来人たち。
手書きの美しいイラストでアニメ映画として見てみたい一作。もちろん無声で。


『猫が夜中に集まる理由』
何かの役に立つ訳でもない、愛想もない猫が飼われる理由とは?

宇宙のエントロピー増大を食い止める生け贄としての猫の役割。

ちょっと違うけど、まどマギのキュウベエを思い出した。

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