『岬の兄妹』映画感想。
引くくらい生々しい描写が多いので、見る人を選ぶ映画だと思う。
けれど、込められたメッセージの見せ方は秀逸なので、免疫のある人には是非見てもらいたい一作。
足の悪い兄ヨシオと知的障害のある妹マリコの兄妹は港町の片隅で貧しいながらも取り立てた問題もなく静かに暮らしていた。
以前から失踪癖のあるマリコだったが、ある日、ヨシオは偶然手に取ったマリコの下着の痕跡から、マリコが失踪時に性行為を行っていることに気づき、激怒する。
しかし、ヨシオの失業をきっかけにどん底まで貧しくなる2人。ヨシオは生き抜くため、マリコを商品とした売春斡旋を始めるようになる。
売春の売り込み中にヤクザに目をつけられたことがきっかけで、初めて性交時のマリコを目の当たりにしたヨシオはマリコが心の底から性行為を楽しんでいることに気づいてしまう。
複雑な思いに駆られるヨシオだが、これを気にマリコに売春させている罪悪感から徐々に解放されていく。
売春の宣伝のためにヨシオが作ったフューシャピンクのカード広告を高台から町へとばら撒くマリコが美しい。
“花を売る“という売春の綺麗な表現と映像が交錯する幻想的な映像体験だった。
蝶が蜜を求め花を渡り歩くように、快楽を求め男を渡り歩くマリコだったが、妊娠と中絶、そしてヨシオの仕事復帰をきっかけに売春から身を引くこととなる。
けれども、今までと同じようには戻れない。
ヨシオの体を蝕む罪の意識。
そんなことは我知らず、以前と同じく失踪を繰り返すマリコ。
いつものようにマリコを探すヨシオは海岸の崖っぷちに佇むマリコを見つける。
ちょうどそのとき、ヨシオの携帯の着信音が鳴り響く。
着信音に反応するマリコの振り向き様の艶やかな微笑みが全てを物語っていた。
売春相手から連絡が来る時にいつも鳴っていた着信音をマリコは覚えていたのだ。
その着信が売春相手からだと思い、その後待ち受ける快楽に胸躍らせるマリコの表情とそれを目にし、全て理解したヨシオの畏怖と絶望が交錯する表情が印象的だった。
どんなに思いやっても人間同士が心の底から結ばれることはないという分かり合えない絶望と、多くの人にとっては目を背けたいと思うほど痛ましい試練続きなのに傷一つ負っていないマリコに対する畏怖。
見ててつらい、胸糞悪いというレビューが並ぶ作品だったので、見るかどうか迷ったけど、見て本当に良かった。
皆同じ世界線で生きているような幻想に囚われ生きてきたことを身に染みて感じた。
“タヨウセーなに?食べれるのー?“
マリコは問う。
“おしごとしたい、おきゃくさんぬいでー“
シャツのボタンをはずしていく。
世界の狭間で閃く現代の女神としてのマリコ。
宗教はないけれど、宗教体験ってこんな感じの驚きなんだろうな。
世界への見方を変えてくれる素晴らしい映画でした。
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