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『順列都市』読書感想。


肉体を捨て、コピーとしての人生をコンピュータ内で手に入れた未来人たちにも逃れられない“宇宙消失による消滅“。

「自分は23人目のポール・ダラムだ」
と称する元精神病患者・ポールの偏執症的性質が自分自身の正気を証明するために導き出した“不滅のユートピア“プログラム・順列都市。

不老不死を可能とした順列都市がそこに住む各々の住人に哲学的な問いを投げかける。



コピー世界の最下層に住んでいるピーは、恋人・ケイトと共に不正に順列都市へ忍び込む。
正式ルートを会して都市へアクセスしていない彼らは、純粋な都市住人・エリュシオン人たちの社会生活に参加することはできず、自らの殻に閉じこもる。
暇を持て余したピーはソフトウェアに天職をランダム周期で提案、強制させるプログラムを用いて、7000年もを暇つぶしに費やすことになる。


大富豪・トマスは過去に殺めた恋人に対する懺悔のため、順列都市にコピーを送り込む。
自らが定めた終わらない地獄に自身のコピーを置き、心を蝕まれてゆく。


順列都市にいわゆる遊びの部分として作られた惑星・オートヴァースの作成を手がけたマリアは、自身の創造物である生命により皮肉な現実を突きつけられる。


順列都市創設から7000年後、オートヴァースの生命は想像を優に超えた知能を持つ生命となり、順列都市を自分たちの敵と認識し、フリーズさせてしまう。



「今の俺が何者だと思う?果てしなく連なる別人の集まりさ。その全員が、しあわせを感じる各人それぞれの理由を持っている。こいつらを時間の中で離ればなれにしておく理由がどこにある?その気まぐれな変化すべてを通してずっと変わらずにいた、ひとりの“ほんとうの“人物が存在するふりをしつづける理由なんて、どこにもないんだ」

様々な職を自らに課し、正気を保つため日常的に精神修正を重ねてきたピーは、“今現在“の自分だけが自分自身で、積み重ねてきた人生が映し出す人格は多人格の集まりに過ぎないとの結論に至る。
そして、そんな自分の人格たちと7000年もの思い人・ケイトとともに新天地でユートピアを築こうと決心する。

常にバージョンを変え、変化し続けてる中でも変わらなかった1人の女性への愛情が沁みる。

7000年生きた結果、最終的に残ったのが他者への愛だったという所が象徴的で心動かされた。


トマスの心は7000年の時に耐えられなかった。
他のエリュシオン人たちと新たな宇宙へ移行する意思を作り出す余白さえない程に。


順列都市創設者ダラムは命懸けで創り上げた世界の終わりに心が折れてしまい、都市と共に朽ちることを望み、他のエリュシオン人たちと新世界へ向かうことを拒否したが、マリアの必死の説得により、“自分の精神状態に2、3の修正を施し、自分を作り組み上げ直し“、新世界へ跳び立つことを決心した。


マリアは思う。
「ダラムが自身をつくりなおしたなら…それも、もし一からやったことなら…あたしの知っていた男はそこにどれだけ残っているの?」

ダラムは自分に移相人類的な精神の回復力を与え、どん底の絶望を癒したのだろうか?
それともダラムは、マリアの目の届かないところでひっそりと死に、かわりにマリアの連れをー父の記憶を受け継いだにすぎないソフトウェア製の子供を生み出したのだろうか。


人格というものは、日々を共にするもの、例えば本や音楽、体験を共有する他者に影響され変わっていく。

関わっていく物事を選ぶのは自分。

“精神修正“というと大袈裟で禍々しい感じがするけれど、人は皆、何かに影響され、変化しながら生き続けてゆく。


だからこそ、昔読んだ本を読み返した際、その時と同じように感動できると、そのこと自体がかけがえのない経験に思えて、心底嬉しくなるのだと思う。

変わらないでいられた感覚を意識することで、一つの精神としての鎖が断ち切れていないことを確認できて、そのことにほっとする。

“私はまだ私を管理できる、バラバラにはならない“と自分自身を励ますための材料の一つとして。


自分とは何か考えさせられる哲学的要素とエンタメとしての面白さ。

両立しているのが本当にすごい。

哲学書はハードル高いな〜って人が哲学に触れ合いたい時におすすめの一冊でした。







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