AIを超える記憶系統の人々
世の中には、恐ろしく記憶力のいい人々がいる。
彼らは、他人の顔と名前を一致させるのは
ほんの朝飯前。
それだけでなく、
相手との経験や、その時あった出来事を結びつけた記憶系統を持つ。
私は生きていて3人の超人に出会った。
最初に出会ったのが、クリーニング屋の店主。
そのクリーニング屋は、私の実家から徒歩3分の位置にある。
いわゆるチェーン店の一つなのだが、
店名が店主のニックネームになっている。
仮に、店主を真理子さんとすれば、
「マリー店」だ。
つまり、彼女の店。店員もマリーさんだけ。
気さくな彼女は地域住民から愛されていて、
私が知っているだけでも30年は経営している。
マリーさんは、
出したクリーニングの内容だけでなく、
店を利用している地域住民の顔とその家族を覚えている。
母が出したクリーニングを私が取りに行くと、
ちらと顔を見せただけで
『こんにちは。◯◯さんね。確か制服とYシャツだっけ。』
といそいそ奥に取りに行くのだ。
私は4人きょうだいだが、それぞれの進路も大体把握していた。
だから大学生になって実家を離れると、帰省の度に顔を見せに行くような具合だった。
『あら、◯◯さんところの2番目さん?いつ帰ってきたの。』
どこまでわかってくれるか試したくて、服装やメイクをやや奇抜にしたこともある。
母曰く、最近長期間休んでいたらしいが、また復活したとのこと。
やはり、地域住民は彼女を気にしているようだ。
今回の一時帰国でも、なんとなく会えたらいいなと思っていた。
自分の赤ちゃんを連れて行って、マリーさんの家系図に一人増やしてやろう、って気持ちで。
「受け取りに行くクリーニングない?」と母に聞くと、
『げっ、昨日取りに行ってしまったわー!ごめんごめん。』
密かな期待は散ってしまった。すん。
二人目は、アルバイトをしていた和食料理屋の店長さん。
私は大学時代に和食料理屋でアルバイトをしていた。
その店は敷居が低いながら、本格的な日本食をだしている店だ。
私はそこのアルバイトでお抹茶の点てかたを学んだ。
店長さんは30〜40代の男性で、日本の美味しい文化を愛している。
彼は記憶力が凄まじく、一度店に来たお客さんをいともたやすく覚えている。
私が友人と一緒に来店した時に、友人が以前違うグループで来たことを覚えていたくらいだ。
ある時、私は弟のコンサートを観るためにその街を訪れていた。
アルバイトをしていたのは10年前で、卒業して街を離れてからは2回程度店に行っている。
両親も来ていたから、私のアルバイト先で夕食を共にしようと画策した。
食べログから電話番号を探し、予約の連絡をいれる。
『こんにちは。店長さんですか?あの、予約を取りたいんですけどいいですか?』
『あ、みかさちゃーん?元気にしてた?』
声だけで気づく記憶力。
名前を言ってないのですが。
彼にとって、顔と名前は序の口、
声まで記憶の対象のようだ。
三人目は、親戚のおばさん。
彼女は夫のお母さんの姉だ。
一度か二度しか会ってないのに、
私の名前はさることながら、出身地も簡単に覚えている。
夫側の親戚は大所帯で、関係者だけで20人は超える。
それぞれの配偶者のことまで覚えているとはすごい記憶力だ。
普段から人に接する仕事をしているせい、と親戚筋は特別驚いていない。
しかし同じく人と接する仕事をしていた私から言わせてみれば、彼女の才能は特別だと思う。
『アメリカでの生活なんて想像できないわぁ。みかささん、すごい。』
と言ってくれるけど、彼女の素質があれば世界中どこでも暮らせそう。
この3人の記憶系統がどうなっているかわからない。
いつも彼らには驚かされるし、尊敬するし、憧れる。
AIが台頭する世の中になっても彼らがいるかぎり人間は安泰だと思ってしまう。
何に対しての安泰かは不明だが…。
ちなみに私は、顔は覚えられるが名前は覚えられないタイプです。(知らんがな)
ではでは、良い一日を!
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