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「MOTHER MUSIC REVISITED」発売に(勝手に)寄せて

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2021年1月26日、発売日より一足早く「MOTHER MUSIC REVISITED」がタワーレコードから届き、早速一気に聴いてしまった。
一言で言って「とんでもなく良い!」

デラックス版のDISC2には32年越しでちゃんとゲーム音源が収録されていることもあり、どちらかというとそっち目当てで購入したリスナーも多いと思われる。まあ自分もゲーム音源は聴きたいのでデラックス版を購入したのだが。
しかし実際聴いてみてぶっ飛んだ。全体的には89年版のサウンドトラックをベースにしているものの、まったくそれらを再現するつもりの感じられない別物へと作り変えられ、研ぎ澄まされている。単純なセルフカバーによるリバイバルというよりは、再構築によって曲の新たな側面を見せるということに重きを置いた内容といって間違いない。自分はゲーム音源に対してそれなりに偏愛している方だと自負しているが、こんなすごいの聞かせられたらDISC2のゲーム音源はただの「オマケ」なんじゃないだろうか、という気さえする。

全曲通してスケールが大きく、エモーショナルな89年版が「MOTHER」のあの広大な世界を表したものだとするならば、コンパクトで箱庭的な「REVISITED」はもっと内省的で、主人公「ぼく」をはじめとする登場人物たちの心情にフォーカスしたもののようにも聞こえる。鈴木慶一自らがボーカルが取っていることも理由の一つだろう。やはり89年版とは別の情景を描き出す、ということがテーマのひとつなのだと思う。

まあ別物というのも当然と言えば当然で、思いっきりわかりやすくポップで豪華なバージョンとして89年版サントラが、ゲーム音源に寄せたアレンジとして松前公高による「1+2」サントラのバージョンが既に存在しており、おまけにDISC2にはゲーム音源がそのまま入ってる訳で、いまあえて「MOTHER」のアルバムを作るにあたって、いまさら本人がそれらをなぞるようなアルバムを作る必要は無い、ということなのだろう。そういう意味ではゲーム音源を収録したのは「アレンジが気に入らなくても許してね」という茶目っ気混じりのエクスキューズなのか・・・あるいは鈴木慶一のミュージシャン生活50周年コンサートで89年版を再現する形で演奏されたのと併せ「原曲、89年版、そして『REVISITED』と様々な角度から楽しんでほしい」というメッセージにも感じる。

ゴージャスだった89年版のアレンジに対して、今作はコンパクトなアンサンブル、かつサイケな感触もあり、それでいてしっかりとポップな仕上がりで「ゲームのサントラ」というよりは鈴木慶一ソロの色が強く出ており、それによってゲーム音源ではわかりにくかった音楽的なバックボーン———The Beatles、The Beach Boys、Van Dyke ParksにXTCなどの多種多様なポピュラーミュージック、そしてもちろんムーンライダーズ———の影も色濃くなっている。89年版がゲーム音源を基に様々なフィルターに通して咀嚼された物だとしたら、今作はゲーム音源のイメージを鈴木慶一が膨らましたそのままの原液のようなもの、だろうか。つまりこれは鈴木慶一が考える「MOTHER」の世界のイメージアルバムとも言える。

考えてみると「MOTHER」シリーズ、特に「1」のシナリオには行間と言うにはやや広い空白部分が(主に「ファミコンの表現の限界」と「容量不足」という事情から)存在し、そこをプレイヤーに想像させて補完するのが前提のようなフシがあり、実際に久美沙織が独自の解釈を加えて執筆した小説版も存在しているわけで、今作はその音楽版と言えるかもしれない。

まあ、少ない語彙の中からいくら御託を並べてもあまり意味はないだろう。いずれにせよ、このような完成度の高いアルバムが世に出て、届けられたことをいちファンとして嬉しく思う。「MOTHER MUSIC REVISITED」は89年版とともに愛聴盤の仲間入りを果たしそうだ。


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