The Power Stationのレコードはアメリカとイギリスどっちがオリジナルなのか
レコードを買う時、洋楽の場合はできるだけ輸入盤のオリジナル盤を探すようにしている。
60~70年代のオリジナル盤はなんでそんな値段になってるんだってくらい高いのが多いので富裕層の趣味かと思いきや、70年代末~80年代、CD前夜~出始めくらいの時期のレコードで数が売れた盤(あるいはレコードに拘らないファン層のアーティストの盤)なら状態のいいものでも1000円程度から買えたりするので、そういったものをぽつぽつ買っている。
そんな中から、この記事は恐らく日本のネット上ではほぼ言及されていないThe Power Stationのイギリス盤とアメリカ盤についての話である。詳細は後述するが、どっちがオリジナル盤なのか判断が微妙で結局両方買うハメになった。
■まずオリジナル盤とは
たとえばThe Beatlesだったらほとんどロンドンのアビーロードスタジオでレコーディングして、他のスタジオを使う事があっても最終的にはミックスからカッティング(レコードの版を作る作業)をアビーロードでやっているので文句なしにイギリス盤がオリジナルなわけだ。
しかし80年代に入ってくるとアルバムを制作するのに海外へ渡ったり、海外のスタッフを使うのがごく当たり前になってくる。
邦楽であればメインとなる市場は日本なわけだから日本盤がオリジナルとなるのは当然だが、洋楽だと「イギリスのバンドだけど、アメリカ盤がオリジナル」なんてことがある。
どういう事かというと
・Average White Bandはイギリスで結成されたバンドだが、アメリカへ渡ってアトランティックと契約しているためアメリカ盤がオリジナル
・The Policeの「Synchronicity」はロンドンのAIRスタジオでレコーディングされているが、カッティングはアメリカのMASTERSOUNDでボブ・ラディックが担当
・John Lennonの「Double Fantasy」は制作時点でジョン&ヨーコがアメリカへ移住していたため、アメリカでレコーディングされてレコード会社もアメリカのゲフィンレコード
…などである。こういう場合も多いのでたいていどちらがオリジナル盤なのかの明記はせず、UKオリジ・USオリジと少々投げやりな表記をしているお店やセラーが多い。
ディスクユニオンに至っては海外発売された邦楽の海外盤を「UKオリジ・USオリジ」と表記する事がある。
■…で、Power Stationの場合
もともとDuran Duranメンバーのサイドプロジェクトで、ロバート・パーマーもイギリス人だしレコード会社もEMIのパーロフォンレーベル、が、ドラマーのトニー・トンプソンはChic出身のバリバリの黒人ファンクドラマーだし、プロデューサーも同じくChicのバーナード・エドワーズ、なによりバンド名はニューヨークの同名のスタジオから取られていると来たもので、短絡的にイギリス盤がオリジナルだと判断はできない。
…と、今ならわかるのだが、「とは言ってもDuran Duranのメンバーだし日本盤は東芝EMIから出てるから、イギリスがオリジナルやろ」と短絡的な発想でイギリス盤を買ったのだ。それでまあ、
マスタリングのクレジットと盤のマトリクスから「イギリス盤はオリジナルではなさそう」という事がわかったのだが。
スリーブにはMASTER SOUND(ボブ・ラディックが在籍していたことでおなじみのアメリカの会社だ),Howie Weinbergとクレジットされているのに対し盤には「STEVE」と刻まれていて、別人の仕事であるのは明らか。
(ていうかDiscogsに書いてあるのにね。よく見りゃいいのに)
これでなんか悔しくなった結果、イギリス盤と同様クソ安いアメリカ盤を手に入れる行動に出たわけである。
■ジャケットの微妙な違い
アメリカ盤とイギリス盤と見比べたときに真っ先に気づいたのは「裏ジャケが違う!」
イギリス盤ではメンバーの写真はカラーだが、アメリカ盤では何故かモノクロになり、それだけでなくよく見るとイギリス盤とアメリカ盤で別のカットが使われている。Discogsをざっと眺めてみると、キャピトル発売のアメリカ盤とカナダ盤は裏ジャケの写真がモノクロカットになっていた様子(日本盤はカラー)。
また曲目もよく見ると「Get it on」(T.Rexのカバー)のタイトルと副題が入れ替わっている。これはどうやらT.Rexの原曲が発表された際、アメリカではChaseの同名曲(「黒い炎」という邦題で知られている曲)との混同を避けるためタイトルが「Bang a Gong (Get It On)」に変わったらしく、そちらに準拠したがイギリス盤では副題と入れ替えて元のタイトルに戻した、という事なんじゃないかと思う。
そしてこのジャケットもちょっと特殊で、黒い部分はマットな印刷で赤や白の部分と裏ジャケのメンバーの写真は光沢のある印刷になっている。これ自体はどちらも共通の仕様だが、紙質なのか印刷の質なのか、アメリカ盤はあまり色が乗った部分の光沢感がなく、ハッキリ言ってジャケットの装丁だけで言えば(裏ジャケの写真も含めて)イギリス盤の方がオリジナルっぽい。
あとはじっこに書いてある品番やクレジット等に微妙な違いはあるものの、ここでは割愛する。
■で、肝心の音
ここまでやっておいて肝心の音がそんなに変わらないものだったら完全なピエロだが、残念ながら(?)音はまるで違う。
アメリカ盤ではパワステと言えば10人中11人が思い出すであろう、あのド派手なゲートリバーブのかかったドラムがズドンズドンと鳴り響く景気のいい音だ。
対してイギリス盤、マトリクスの「STEVE」とは後にBeatles「1」のLP盤をマスタリングしたSteve Rookeなる人物らしく、これもまあ悪い音では無い。が、アメリカ盤では「ズドン」だったドラムが「バーン」くらいにパワーダウンしていてなんかそつがない感じ。反面、ロバート・パーマーのボーカルはよく聴こえて全体的にバランスが取れている感じもするのでこちらを好む人もいると思うが、これならリマスター盤でも変わらないような気がする。
というわけで、このアルバムのオリジは多分アメリカ盤なので、レコードで探すならアメリカ盤の方が良いんじゃない、という結論です。
■おまけ
映画「コマンドー」の主題歌(一部で「I will 撤収!」って言われてる曲)ってパワステだったんだね。(アルバム未収録なうえ、ロバート・パーマーが早々に脱退した後なので別のボーカルだけど)
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