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あの夏の日を 忘れない

夏祭りの日に 出会った仔猫は 長男と次男のかけがえのない友として
18年を生きました これは 本当にあった 出来事です 猫の視点で描きました

 その日は とても暑かった ママは いつものように しゃべりながら動いている
「ミニカー ミニカー ここにもミニカー 遊んだ後は 箱にまとめときって いつも言ってるのに モー」「絵本の下にタオル タオルの下に新聞 新聞の下にチラシ・・・フム
牛乳160円 卵1パック100円か よし買いに行こ ン? なんやこれ 昨日のチラシやんかモー」

 ママは タオルを首にかけて モー モー言っている 「モー」ってなんだろう
「モー一回」とか 「モー少し」じゃなくて 「モー」で終わる 「モー」の後ろに 何かママの気持ちが くっついているみたい でもすごく怒っている様子でもない
牛のまね? でもないし・・・そうか 独り言に あいづちを打ってるんだ!
誰かに向かって話すだけじゃなく 自分に向けて 話してるんだ 
 人間って言葉が有る分 ややこしいな

 ボクは ママが 三角形の積み木を挟んで 中途半端に開けた 玄関ドアのところから
外を見ていた
 少し 風が吹き込んでくる
 青紫蘇の香りがする
 お宮の方から 笛や太鼓の音が聞こえてくる
 お囃子の練習してるんだな もうすぐ夏祭りなんだ 懐かしいな 初めて たっくんと
ママに出会った お祭りの・・ハッ⁉︎
 プランターのふちに スズメが止まった‼︎
 ボクの全身の毛が ビリビリと逆立つ! ヒゲも! しっぽも!
足の爪が ギュン!と突き出て ジャンプ‼︎
 次の瞬間 ボクは トクトクと脈うつ 柔らかくて モシャモシャするモノを咥えていた
 時々噛んでみる たっくんの指や ママの髪の毛でもない 生まれて初めての感触
ボクは スズメを咥えたまま 急いで家の中に 駆け込んだ 

 ママが 「ワッ! チッ! チビッ ナニ⁉︎ スッ スズメ? ドッどうしてっ⁉︎」と
叫んでいる
 ボクにも解らない どうしてスズメを捕まえてしまったのか
ママは近くにいるはずなのに その声が 遠く 遠くなる
 代わりに ボクの心臓の音が ドクン ドクンと聞こえる
 バシッ バサっと スズメの羽根が ボクの目や鼻に当たる

 ボクは スズメを口から放した
舌に羽毛が 絡みついている ボクは ソレを手で拭った

スズメは キッチンの床に 羽根を 変な形に広げて ころがった 
そして ・・・ボクを・・見つめた
 ボクは スズメに 触ってみた 
     スズメは そのままの恰好で 床を すべった 
          その時 羽根が1本 抜けた
 ボクが 何度か触ると スズメは 固まったように 動かなくなった

「ア〜 ア〜 ごめんね ごめんね 」 急にママの声がした
スズメは 目を固く閉じて お腹を上にしている そこから 細い枯れ枝のような足が2本
何かを掴もうとしていたかのように 突き出ている

ママは「どうしょう どうしょう」 と言いながら そのスズメを ティッシュペーパーで
包んだ  そして ソレを ゴミ箱に捨てようとしたけれど
  「やっぱり 土に 返してやろう」と 言って 外に出て行った
 ママは 空っぽの植木鉢に突っ込んであったスコップを 左手に持つと 
   プランターの隅に その 白い包みを そおっと 置いた
 と  その時 白い包みの中から スズメが パッと 飛び立った
  斜めになりながらも 羽根をいっぱいに広げ ベランダの手すりをかすめ
    今は鯉のぼりの付いていない 高いポールの向こうの 青い 青い空へ
     吸い込まれるように 見えなくなった
   ボクとママは しばらく 空を 見上げていた
  ママは ハア〜と ため息をつくと スコップを 元に戻し
      首にかけたタオルで 目を 拭った
      それから いきなり ボクを抱き上げて
      「チビ おまえはえらいっ! えらい! えらいネコや」と言って
      何度も 頬ずりをした

 ボクは時々 あの日の事を 思い出す
   スズメ君 ごめんね そして ありがと ほんとは 君と遊びたかった
       死んだふりするなんて ほんとにびっくりした 
    だって 傷つけないように ちょっかいしてたんだもの

 この家の人たちのこと 大好きだけど いつも人間と一緒に居ると
    自分が 猫だって事を 忘れそうになる

 あの時 ボクは 猫だって事を取り戻して とても興奮した

 あれから 何度も 夏が巡って来た
   スズメが近くに 来る事も有るけれど
     もう 捕まえない
 今はもう 押入れの中の 布団の山に ジャンプして よじ登れなくなった

お祭りの夜 たっくんとママに 出会ってから 18年
 もし 生まれ変われるなら スズメに なりたいな
   スズメになって 自由に空を飛ぶんだ
           イチョウの葉っぱと 鬼ごっこしたり
          桜の花に もぐって みたり
         虹をめざして ぐんぐん飛んでゆく
       青紫蘇の葉につく 青虫を食べに ひらりと舞い降りる
  そして やっぱり
      ボクみたいな猫に カプッと くわえられる
                          ウフフフフッ  

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