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Netflix版『三体』生存戦略しましょうか

Netflix『三体』が配信されてハッピーだ。原作を読んだ身からすると、なるほどこうきたか、という大胆な脚色が施されているため、1話目の時点から新鮮な気分で観ることに。いうなればこれは『三体:インターナショナルバージョン』といったところでしょうか。原作の物語を重視しつつ、原作を読んでいない人も容易に入っていけるように意識しながら作ったのだということがよくわかります。ハッピーだ。改変がしっかり面白さにつながっていてハッピーだ。

冒頭、文化大革命のシーンから物語は始まり、葉文潔イエ・ウェンジエの人生を背景としながら地球外文明との接触を描いていく。ここについては原作通りだし、小説を読んでいたときのイメージをそのまま映像化してくれている。そうそう、『三体』ってはじまりから壮絶だったよね。そしてそんなところに惹かれたんだよな。作者である劉慈欣の持つ文化に対する造詣の深さや科学知識がこの世界に特別なリアリティをもたらしているため、いかなる事態が起きたとしても納得させられてしまう強度はドラマ版でもしっかり残っていたし、そういったある種の外連味こそが『三体』の魅力なんだと再確認。

なので文革のシーンや、未知の文明との関係が徐々に明らかになっていくミステリー要素、科学者たちが葛藤する姿を通してファーストコンタクトSFが展開する点などは期待していいと思います。原作にあった「秦の始皇帝から三千万人の兵士を借りて、それぞれに手旗を持たせて等間隔に配置することで人力の量子コンピューターをつくる」というとんでもなく壮大なシーンはドラマ版における楽しみのひとつでもあったのだけど、頭の中でイメージしていたものがちゃんと映像化されていてうれしくなりましたし。ハッピー。

そんな具合で『三体Ⅰ』の土台となる物語はある程度守られているので、壮大なビジョンとともに核となる魅力を堪能できるのは間違いないです。でも今回のネトフリ版は必ずしもすべてが原作通りというわけではなく、ある程度脚色もされているのだ。
まず、舞台は中国からイギリスに移されている。原作における『三体Ⅰ』のあらすじは、科学者たちが謎自殺を遂げる事件が多発するというところから始まっていた。今回のNetflix版でもその流れを踏襲し、続く「カウントダウン」や「VRゲーム」や「三体文明との交信」などが描かれ、きちんとお題目に沿って進行していくのだけど、イギリスが舞台となることで登場人物は多様性のあるものに変わり、役割も変化している。
例えば『三体Ⅰ』の主人公であるナノテクノロジーの研究者「汪淼ワン・ミャオ」は白人の女性になっているし、彼女の仲間として「オックスフォード・ファイブ」というメンバーも登場。おもしろいのはこのメンバーの中には『三体Ⅱ 黒暗森林』の主人公「羅輯ルオ・ジー」にあたる人物や三作目『三体Ⅲ 死神永生』の主人公「程心チェン・シン」にあたる存在も含まれている点だろう。こうすることによって本「シーズン1」の物語は『三体Ⅰ』の物語だけでなく、『三体Ⅱ』『三体Ⅲ』の展開もすでに盛り込んでいることとなり、本来であれば出会うことのなかった人物たちが共演している姿を私たちは目撃することなる。贅沢。そして大胆な脚色だ。

とうぜん実体化した智子ソフォンも登場することとなり、「日本刀を背負って忍者みたいな恰好をした美しい女性」というビジュアルは良い感じに再現されておりました。まあ私のイメージではもっとB級感があったのですが、これはこれでそつがなくて好みです。三体人は嘘がつけないという設定もあってか、わりとはっきり人類に対して殺意を示す場面がある智子さん。「科学を殺す」「邪魔になる科学をぶち壊す」「お前らは虫けらだ」と冷静な顔しながら恐ろしいことをのたまいます。こわー。でも容赦なくてすき。

他にも智子によって科学の発展を止められ、すべてが筒抜けになった状態での対抗策「面壁者計画」や、三体文明にスパイを送り込むことで生存戦略を企てる「階梯計画」なども後半からは登場し、ちょっと詰め込みすぎなくらい原作のいいとこどりをしています。あと今回の改変によって原作よりも天明(=ウィル)と程心(=ジン)が通じ合った状態で「階梯計画」を進めるという展開になっていたのでなんだかホッとしました。天明は原作だともっと暗くて、孤独で、ひっそり死んでいこうするキャラだったもんな。程心はそういう天明のことを悪く言えば「都合よく利用した」面もあったと思うし、そういう原作で"しこり"となっていた部分に対する配慮がたくさんあった印象。ここら辺、原作を重視する方からすると賛否分かれそうな部分ではありますが私はありです。あとウェイドの頑強な雰囲気もイメージどおりだったのでハッピー。
そんなわけで個人的に「オックスフォード・ファイブ」の登場はありな改変ポイントでした。

『三体』の軸となる科学、哲学、道徳というテーマを重視しつつ、物語のダイナミズムは失われていません。ただし、テンポよく展開する反面、各キャラクターの複雑な感情や葛藤を深い部分まで描写できているかというと怪しく、すべてがすべて上手く機能しているわけではありません。全体的に淡々としてるのは否めませんし。とはいえ、どれだけ困難で絶望的な状況に追い込まれたとしても科学の力を、人類の英知を結集させることで危機を乗り越えようとする物語の魅力はしっかりドラマ版にも受け継がれています。

一般的に『三体』はファースト・コンタクトものとして語られることが多いですが、むしろ異星人と接触することで人類が未確定の未来に対してどう「価値を見出すのか」どう「前進させるのか」という社会の発展と変化にこそ『三体』の核となる面白さはあると思います。そして今回のネトフリ版でもそういった"前進しよう"とする力は健在でした。
というわけで特に新規ファンにおすすめしたくなるドラマでした(原作が好きな方の中には嫌じゃーという人もいると思う)。続きが作られるとしたら『三体Ⅱ 黒暗森林』が中心となり〈水滴〉とか「黒暗森林理論」を使ったあれとかいろいろ見れそうなので楽しみ。『三体』の、下手すればバカSFになりそうなくらい振り切った設定と、有無を言わせないほどの大ネタでねじ伏せてくるのはたまりませんね。






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