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きつねが出てくる好きな絵本10選

宮城県には「宮城蔵王キツネ村」というきつねがいっぱいいる動物園がある。園内は広大で、多くのきつねが放し飼いにされており、あっちを向けばきつね。こっちを向けばきつね。きつね。きつね。きつねだらけだ。フサフサもふもふのきつねたちが目の前を通り過ぎ、餌をあげたり、抱き上げたりするスペースも用意されているきつね好きにはたまらない場所「キツネ村」。私が以前訪れたのは夏真っ盛りの時期で、暑そうに日陰で寝転がる狐(こ)や、餌を求めて寄ってくる狐、人の方にはぜんぜん近づいて来ない狐など、いろんなきつねたちがいたのを覚えている。よく知られたキタキツネのほか、ギンギツネや十字キツネ、アオキツネなどいろんな種類のきつねがいるのも特徴で、林のような場所で鳥居をくぐり悠然とこちらに向かって歩いてくるきつねの姿に私は強く魅入られたのだった(ちなみに私がアイコンで使っている画像や、Xでトップの画像として使っている写真はそのとき撮影したものだったりする)。

きつね。ふしぎな生き物。

物語のなかにいるきつねは化けるのが得意だったり、油揚げがすきだったり、雨の日に花嫁衣裳を着たり、たぬきと化けくらべをしたり、手ぶくろを買いに行ったり、「親しみやすさ」と「不可思議さ」が同居している存在だ。
今回はそんな近くて遠い存在であるきつねが登場する絵本のなかから私が好きな作品をいくつか紹介してみようと思う。あなたにもぜひ知ってほしい。きつねという生き物の面白さを。その可笑しさとふしぎさを。

なお、ここで紹介した本の中には相互であるたけうちさんが紹介してくださった絵本や、いつも愛嬌たっぷりの絵を描いてくださるひろうすさん経由で知った絵本なども入っている。きつねの絵本を教えてくれてありがとうございます。きつねを代表してお礼申し上げます。

手ぶくろを買いに

大好きな絵本。きつねが登場する絵本のなかではいまのところ一番好きな作品ですねー。
はじめて雪にふれた小さなきつねの子はその冷たさに驚き、ひとり人間の暮らす町へ手ぶくろを買いに出かけます。筋立てはとてもシンプルで、内包されたテーマは普遍的。きつねの親子の繊細な感情表現と、自然描写の美しさ、ころころとやわらかく、それでいて美麗でもある文章。どれもこれもがすばらしい。
作者である新美南吉が生涯をかけて追求したテーマは「生存所属を異にするものの魂の流通共鳴」なんだってさ。なんだか難しい言葉がずらららっと並んでいるけど、要は「みんな仲良く」ってことだよね。そんな根底に流れる作者の"願い"は情感をともないながら、あたたかみのある絵で見事に表現されており、読む者の心にもそのぬくもりが伝わってくる。
雪の世界につつまれて、子ぎつねが世界と出会い、手ぶくろのぬくもりを通して、そのあたたかさを知る。奇跡のような瞬間は常にすぐ側にあるのだと、私たち読者は母ぎつねの視線と重なり合いながら感じ取る。光のような絵本だ。


こんとあき

子どもの頃の私には、姉と一緒によく遊んでいたぬいぐるみの友だちがいた。「ロバン」という名前を付けたロバのぬいぐるみが。背中に乗ったり、ままごとに参加させたり、すぐとなりに置いて寝たり。ロバンはいつでも一緒に遊んでくれる相棒であり、なんというか”頼りになる”存在だった。ついでに言うと大きさとかやわらかさとかフワフワとした感触も完璧だった。
きっとそんなふうに人形と遊んだ記憶のある人は私以外にもたくさんいるだろう。
この『こんとあき』を読んでいるとそんなことを思い出す。
私にとってロバンが友だちだったように、あきにとって「こん」は大切な存在であり、きっと「こん」にとってもあきは大切な存在なのだ。だからこの絵本のタイトルは『こんとあき』なのだろう。こんはあきに「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言ってくれる。あきはそんなこんを大事に思っていて、ちょっと不安な気持ちになっても一緒にいられれば平気な様子。
子どもにとっての世界の大きさ、ちょっとしたことで胸がギュッと不安になる気持ち、そういう忘れてしまった感覚を、やさしい絵柄で、カラフルな色合いで見せてくれる。良い絵本だなあと思う。お弁当をドアの近くで食べてる絵の可愛らしさが印象に残っていたのだけど、読み直してみるとまわりのおとなたちがこんとあきのことをちゃんと気にかけてくれているのがわかり、心があたたかくなった。
世界はとても広くって、色んなことが待ち受けているけれど、怖がらなくていいんだよ。そんな風にやさしく語りかけてくる絵本です。


こぎつねコンとこだぬきポン

きつねの家族とたぬきの家族が登場するお話。友達がほしいと思ってるこぎつねのコンと、こだぬきのポン。ある日、ふたりはちょっとしたきっかけで友だちとなり歌を歌たったりしながら一緒に遊ぶようになる。しかし親たちはむかしの因縁が原因で仲が悪く、金輪際となりの山のたぬきとは(きつねとは)付き合うなと子どもたちにきつく言いつけるのでした。しかしそれでもなお子どもたちは遊ぶのをやめず、心配した親たちは相手に化かされないようにするため子どもたちに化け方を教え、それが思わぬ展開へと繋がっていくのです。
きつねとたぬきの仲が悪いという、童話においてはあるあるな世界観のお話ですが、子どもたちの純粋な気持ちが大人にまで波及し、それまでの恨みつらみ、勘違いが氷解していくという展開にはただただ胸打たれます。
作品の根底には私たちが普遍的に持っている”仲良くなりたい”という純粋な感情があるのでしょう。ほっこりしつつも、こういうまっすぐな気持ちをまっすぐな物語として伝えるってとても尊いことだよな、と感じ、目頭があつくなりました。
「はしをかけましょう」って良い台詞だな。良い台詞と良い物語だった。


ごんぎつね

『手ぶくろを買いに』と並ぶ新美南吉の代表作であり、語り継がれる名作。
孤独という共通点を持ちながら、わかり合えず、傷つけあってしまうごんと兵十。ふたりの姿を通して、人が他者と心を通わせることの難しさが描かれる。ごんは兵十に償いをしたいと思い、しかし兵十にその思いは届かない。そして最後に訪れる悲しい結末。やるせない光景と宙に浮いた兵十の心。しかし最後の瞬間、そこにはわずかな希望が、ささやかな救いがあり、そのことに私は涙する。魂が共鳴するその瞬間に。

https://www.ritsumei.ac.jp/primary/db/201306181614.pdf

なお、上記の「南吉オリジナル版」では最期の場面におけるごんの心情がより明確になっています。青い鳥版の想像の余地を残す終わり方も好きだけど、オリジナル版もやはり素晴らしい。あと挿絵の絵が良いです。ふさふさでつぶらな瞳のごんが超かわいいので絵だけでも見てみんしゃい。


きつねのおきゃくさま

きつねを始め、出てくる動物たちの「顔」がいい。どこか間が抜けていて、わるい奴になろうとしても、徹しきることができないきつね。きつねのことを「おにいちゃん」と言って慕い、すぐに相手を信用してしまう、これまた間の抜けている顔のひよこ、アヒル、うさぎ。紙芝居のように一ページごと見やすく整えられた絵に加え、むかし話のような語り口は、おだやかに、かつ軽快に読者に大事なことを伝えてくれる。
この絵本を読んでいると、言葉がどれだけ相手の心を動かすものなのか、その影響力と可能性についてしみじみ考えてしまう。「やさしい」「しんせつ」「かみさま」。そういうまろやかな言葉によって心はほぐれ、その嬉しさを相手に返したくなる。きつねの中にあった最初の思惑が何であったにせよ、時間をかけて育まれ、こころの中にポッと咲いたその感情はまぎれもなく本物なのだ。
きっとこの絵本を読んだ人ならわかると思う。自分の中にある、「思いやり」とか「尽くしたい」とか「喜んでほしい」という感情がどこから来るものなのか。人は他者との関係性によって自身を育み、言葉によって心の糧を得、それがいずれ行動となる。
たぶんきつねは見つけたのだろう。自分が生きている意味を。だから最後は幸せだったのだと思う。そして、そんなきつねと一緒に暮らした、これまたどこか抜けたところのあるひよこ、アヒル、うさぎたちは、自分たちのために勇ましく戦ったきつねを見て、きっとなにかを受け取ったんじゃないかと思う。死を悼むということは、嘆き悲しむということは、涙を流すということは、その人のことが好きだったということを意味しているはずなのだから。
ふとしたきっかけで生まれた感情が本物の感情となり、やがて行動へといたる。そしてその行動はきっと残った3匹に伝わり、彼らに何かを宿らせたんじゃないだろうか。
とっぴんぱらりの ぷう。


きつねのかみさま

絵が良すぎる~。りえちゃんもその弟も可愛いのだけど、きつねが……子ぎつねたちが絶品すぎる~。酒井駒子さんの描く絵はちょっとシックな雰囲気があり、まるで名画をみているような崇高さがあるのだけど、とってもやさしく親密でもあり、見てると心が癒されます。きつねがみんなでなわとびしてる絵の安らぎ、しっぽのふんわり感、上手に飛び跳ねられるようになったときの嬉しそうな顔。いずれもすばらしい。見ながらにして何かが浄化されていくようだ。すこしふしぎな雰囲気と、ラストの夕日でうすくオレンジ色に染まった空の美しさ。ノスタルジックな気分を刺激されます。そうかあ、タイトルの「きつねのかみさま」ってそういうことだったのか。笑いをこらえるのが苦手なけんちゃんも、いっしょに笑いながら胸をきゅんとさせるりえちゃんも、嬉しそうなきつねたちもみんな可愛い。今日のことを忘れないでほしいなと、大人になったきつねは思うのでした。


五助じいさんのキツネ

本作は『11ぴきのねこ』で有名な馬場のぼるさんが描いた作品です。ひょんなことから五助じいさんと暮らすことになったきつねのコンコン。他のきつねに比べて変身するのが苦手で、役人さんに化けようとしてもしっぽの生えた湯タンポになっちゃう始末。はてさてコンコンとおじいさんの行く末は?
シンプルかつやわらかい線で描かれたきつねたちが可愛いです。語りの柔らかさも手伝い、何となく常田富士男さんの声で(日本昔ばなしのナレーションの人)で再生しながら読みました。でも最後はそっちに行くの!? コンコンも五助じいさんもそれでいいの? とは思ったな。と同時に、この絵本を読んでいてもうひとつ思い出したのが『ドラえもん のび太の恐竜』で、あの作品ものび太とピー助が仲睦まじく暮らし、共に成長する様子を描きながら、ピー助が、そしてのび太が自立するために、お互いにとってもっとも「良い場所」を探すお話だったんですよね。きっとこの作品もそのことを描こうとしたんだろうなと、そんな風に思いいたり、なんとなくあたたかい気持ちになった次第です。
一番好きなページはコンコンとおじいさんが木陰で一緒に昼寝するところ。コンコンにとって湯タンポは、誰かを癒す象徴だったんだね。


きつねのでんわボックス

子を思う母狐の視点からつづられたお話で、深い悲しみと、とめどなくあふれてくる愛を描いた物語。
親がどれだけ子のことを大事に思っているのか、どれだけもう一度抱きしめたかったか。母狐の喪失感を想像するとそれだけで胸が痛くなります。どちらかと言えば、子どもが喜ぶ絵本というよりは、子を持つ親が「自分の中にある感情」がどのようなものなのかを、絵本を通して再確認するような、そんな作品です。だからきっとこの絵本を読んだお母さん、お父さんは我が子抱きしめたくなることでしょう。
つまりこの絵本は、"私たち"がどれだけ親から「愛されていたのか」を、ファンタジーのかたちを通して知る作品でもあるのだと思います。
誰かの心に寄り添い、ささやかな魔法を見せ、想像力を広げる。絵本の役割がそのようなところにあるとするならば、この本自体が魔法なのでしょう。誰かの心にそっと火を灯すような、ささやかでやさしい魔法。


おかえし

「やられたらやり返す……倍返しだ!!」

きつねとたぬきのお母さんたちが繰り広げる仁義なき贈りもの合戦勃発です。可愛い絵柄と和気あいあいとした雰囲気に反して内容は壮絶です。あっちがいちごを差し入れてきたら、即座にたけのこをお返しします。それがこの世界のルール。ルールに反して「断る」ことは彼女たちの仁義にもとるのでしょう。贈られてきたものはありがたく頂く。すべて。それが仁義(おかえし)なのです。当然その応酬は止まりません。持ち運ぶことが困難な家具まで贈り合うことになり、然して全ての家具が入れ替わります。やばいです、イっちゃってます、このお母さん方。読者的にうすうす予想していたとんでもない「おかえし」が行われるページのナチュラルな狂気。それはいくらなんでもあかんでしょ。正気かあんたら。倫理観を度外視した行為がさも平然とした様子で描かれていて爆笑と戦慄が同時にきました。稀有な体験をありがとう。でもおかえしは致しません。
なお、読み終わった後裏表紙を見ると、子どもたちも仲良くなったようでほっこり。このまま息子同士はゲームの貸し借りとかしてくれたらいいなあと思います。「広島死闘篇」あるいは「半沢直樹2」は不要です。ここで綺麗に終わらせましょう、この壮絶でナチュラルな狂気をはらんだ「おかえし」という名の戦いを。


チロヌップのきつね

戦争への怒りを、人間のエゴによって野生動物の尊い命が失われることの悲しみを、やさしく繊細な絵に込めた作品。
まず、絵がすばらしい。私が読んだ1972年版の絵本は、親ぎつねや小ぎつね以外はモノクロで描き、彼らきつねたちの生命力を表している。ちんまりとした小ぎつねの姿、くりくりとした目をした親ぎつねのやさしそうな表情、ふさふさの毛並み、どこをとっても愛らしさにあふれている。罠にかかった小ぎつねを雪から守ろうとする親狐の包容力に涙が溢れてきました。
戦争への怒りや、エゴのために環境を破壊する人間へ警鐘をならし、同時にそれでもなお、良心を失わずにいる人間も描くことで、「共存」の可能性を提示している点がすばらしいと思います。季節が移ろい、遺されたその場所に咲いた"小さな花"は願いであり、希望です。
『チロヌップのきつね』。作者が想像で描いた物語。私たちは想像することで、他者の痛みを、動物たちの痛みを思い描くことができる。そのことを忘れずにいてほしいと、そんな願いが伝わってくる作品です。

以上、きつねによるきつねが出てくる絵本の紹介でした。
実際のきつねたちにとって4月初旬のいまの時期は出産の最盛期で、親ギツネは森の中にあるちょっとした斜面を見つけてそこに巣穴を掘り、その中で3〜5匹くらいの子どもを産み、子育てをしている真っ最中だといいます。これは最近キツネの生態を調べていたら知ったこと。
世の中は知ってるようで知らないことばかりだ。
私の世界が開かれていく。絵本を通して、きつねを通して。



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