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【最近読んだ漫画】宇宙開発、ダークファンタジー、漫画と青春

先々週『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』という海外のアニメ映画を観に行ってきた。アメコミ風のタッチにストリートアートっぽいやんちゃさを加え、絵画ともCGともつかない絶妙な手触りにした絵柄と、楽しそうに動き回る亀たちが小気味よく、バックに流れる90年代のヒップホップも相まってとってもクール。おいおいアイス・キューブかよ、マジでイルでドープだな!最高~、となりながら気持ちよく鑑賞しておりました。かつて日本でタートルズが流行っていた頃はもっとダークヒーロー感があったはずなんですが、2023年にリブートするにあたって彼らを「移民」というポジションに置き、「ティーン」という部分を強調してるあたりが現代っぽいなあと思ったり。4人の中で私の推しはラファエロですね。ジャイアンみがあって大変よろしい。昔のはあんまりよく知らないんですが、今回のはそれぞれのキャラクターや役割の違いが体格やファッションで明確にされてて見やすーい、わかりやすーい、亀兄弟かわいー、と思った次第です。要は何が言いたいかと言うと「キャラクター」って大事だよねってことでして、特にアニメや漫画みたいなデフォルメされた人物が描かれているメディアにおいてはなおのこと重要になってくるものです。だってその作品の「顔」ですもんね。

というわけで枕はこのくらいにして最近読んだ漫画の紹介に入ります。以前ほど漫画を読まなくなったので、結構メジャーな作品ばかりになってしまったけど、まあいいか。とにかく今回は『ベルセルク』の新刊が出て嬉しいんじゃあ、という気持ちを書きたかったのだからこれでいいのだ。

『宇宙兄弟』43巻

2007年から連載が始まった漫画で、映画化やアニメ化もされてる有名作品。兄・南波六太とその弟・日々人を中心に、彼らと関わる様々な人々の、宇宙を目指し奮闘する姿が描かれる。
宇宙開発・宇宙探査の漫画と言えば『プラテネス』『度胸星』『ふたつのスピカ』などがありますが、おそらく最も認知度が高い作品といえばこれでしょう。出てくるキャラクターはそれぞれ個性が強く、宇宙での医療研究を進めることを夢見るせりか、先輩の宇宙飛行士・吾妻、JAXSAの職員やNASAの関係者など、各所で働く人たちが登場する群像劇となっています。

現在物語はクライマックスを迎えており、兄弟ふたりは揃って月からの帰還を目指している真っ最中。たぶんあと2巻くらいで完結だろうなあ。作中では2029年7月という設定で、水資源調査タスクなど現実の宇宙開発と接続させた展開になってるのも宇宙好きには嬉しいポイント。『宇宙兄弟』定番の”ミッショントラブル”は最新刊でも健在で、月からの帰還時に宇宙船内の酸素残量が足りなくなったため、兄弟二人がソユーズに乗り移ろうとしています。宇宙飛行士だけでなく、ミッションコントロールセンターや研究員などNASAで働く人々、JAXAの職員、その他兄弟と関わってきた様々な登場人物が再登場して困難を乗り越えようとしているので、ベタだけど熱い。正直一巻ごと、あるいは一話ごとだと展開がゆっくりしてヤキモキするすることもあるけど、その分一気読みするとめっちゃ楽しいですよ。


『ベルセルク』42巻

胸が熱くなる。十代の頃あれほど夢中になり、作者が道半ばで夭逝してしまった漫画なのだから当然だ。一読、確かに三浦建太郎の美麗で奥行きのある絵を表現できている。というか、ほとんど違和感が無いのでそれだけですごい。絵柄的には作者が最後に手掛けた「41巻」を”最新の三浦絵”としており、その上で、ばっちり決まった構図、表情、服の質感、アクション、コマ割りなどを過去の巻から丁寧に参照、作品に溶け込ませている。物語はある程度予想通りで、キャスカがグリフィスに連れてかれちゃいます(マジでグリフィスは"ガッツ"に対して執着心すごいよなあ、ガッツが嫌がることばっかしてくるんだもん)。世界中にファンがいる作品なのだから、作品を引き継いだ森恒二先生にかかる重圧は相当なものだろうし、どれだけ素晴らしい出来になったとしても、心ない人からは「紛い物」だと言われるだろう。そしてそう言いたい人たちの気持ちもよくわかる。でも、読んでみればわかるけど、本当に一コマ一コマ大事に仕上げたのが伝わってくるし、そこには原作へのリスペクトや理解が深く深く感じられる。あの道半ばで潰えてしまった夢の続きが見れる。それだけで感謝してもしきれないよ。

最後に、蛇足と分かっていてもどうしても言いたいのが、台詞の分量についてで、全体的にかなり少なく感じてしまった。三浦建太郎は「絵」の人であり、「言葉」の人でもあったと私は思っていて、彼の漫画キャラはそのコマごとに絵の魅力を何割増しかにするような印象的でかっこいい、人間味のある台詞を発していた。たぶん後継者の方々はそのこともよくわかっていて、絵よりも言葉を寄せることの難しさを理解しているのだろう。でもだからこそ、そこに踏み込んでいってほしい気もしてしまう。ハードルが高い要求だという事はわかっているけれど、ここまで作品への愛を感じる42巻を読んだ後だと、私としてはもっと自由に描いてもいいじゃないかと思うし、そういう願いを込めてこの文章を書いている。


『これ描いて死ね。』4巻

エモ~。毎巻泣ける話が多いけど、この巻もすごいです。漫画との出会い、漫画を好きだという気持ち、描く側が読者を救い、読者が描く側を救っている。そんな美しい情景をつつましく、コミカルな筆致で、エモーショナルに漫画にしています。泣いちゃう、泣いちゃうってこれわ……。心ちゃんと相ちゃんとの共同作業もええし、マンガ大賞のひとネタはギャグっぽく描かれてるけど作者の心境がそのまま出てて涙腺に来る。よ、よがっだね~。そして毎度おなじみ過去編の「ロストワールド」は今回、七さんのお話。「描く」ことのしんどさと多幸感をめいっぱい感じるお話で最後のコマが秀逸。「永遠に続け。」は美しすぎるって……。

印象的なのは手島先生と安海の飛行機での会話で、
手島先生からの「安海さんプロになりたいんですか?」という質問に対して安海は
「自分の好きなものを描きたい。それが出来るんだったら…どっちでもいいです。」と答える。
それはただ純粋に「好き」という気持ちを維持し続けながら活動をして行くということを意味していて、先生が言うようにそれが一番しんどいんだろうなと感じる。反面、安海が「どっちでもいいです」というコマはキラキラとした輝きに満ちていて、作者からの「願い」みたいなものが見えてすごく素敵だった。

てなわけで3作品紹介。上でも書いたけど『ベルセルク』については、もう続きが読めるというだけでありがたすぎるので森恒二先生はじめスタッフの方々、心から応援しております。そして今回の『宇宙兄弟』の記事で私のUSBに眠っていた「むかし書いたけど出す機会が無かった文章」は全部出し終わりました。2ヶ月ちょいかかったけど、無事にみんな居場所を作れて良かったよかった。まあ、後半はほとんど頭から手直ししてたので、元の文章は名残くらいしか残ってませんでしたが、それも含めて楽しかったし、満足感。

「この世界に居場所はそうそうのうなりゃせんよ」


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