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伝わらない!(女性二人用短編シナリオ)

   保護者会後の小学校の空き教室。

   PTA会長の佐藤とPTAに入会しなかった鈴木が向かい合って座っている。

佐藤「改めまして、南小学校PTA会長の佐藤です。初めまして」

鈴木「初めまして鈴木です。どのようなご用件でしょうか、仕事の時間もあるので…」

佐藤「では単刀直入に。なぜPTAに入らなかったのでしょうか?」

鈴木「…全く活動に参加できないのに、入会してもご迷惑かと思いまして」

佐藤「ご事情は把握しておりますよ。でもね、シングルマザーの方は鈴木さんだけではありません。森さん、ああ森さんは小4のお子さんがいらっしゃるんだけど、彼女もシングルマザーですけど、広報役員を2年も引き受けてくださいましたよ」

鈴木「そうですか。でも私はできませんので。それでは仕事があるので私はこれで」

佐藤「話は終わってませんよ?」

鈴木「え、いや」

佐藤「(必死に)ふつうは皆さん、お子さんのためになんらかの形で学校に貢献されています。代表的なのがPTA活動ですね。まあご事情があるのはわかりますけども」

鈴木「あの…それはつまり…入れということですか?PTAに」

佐藤「ええ、そうです。PTAに入ってください」

鈴木「私、看護師で夜勤もありまして、なかなか、みなさんと時間が合わなくて。本当に何もできません。それにPTAは強制加入ではないはずです」

佐藤「別に毎日活動があるわけじゃないし、たまにくらい」

鈴木「あの、私一人が加入しないだけで何か問題があるんですか?」

佐藤「子供たちのために、保護者全員が一丸となる必要があるんですよ。それにPTAに入っていないと、卒業記念品がもらえません」

鈴木「…それが何か?まだ一年生ですよ正人は」

佐藤「一人だけもらえないと、息子さんが嫌な思いをするかもしれませんよ」

鈴木「卒業してしまえば問題ありません」

佐藤「鈴木さん、一人だけ違うって、子供には大問題なんですよ。なんで公立なのに1年生はノートから何から指定されているかわかります?違うと問題が起こるんですよ。卒業記念品がもらえなかったら、卒業式の日が最悪の日になるかもしれませんね。私は4人育ててきてますけど、ほーんと、ちょっと違うだけで子供って泣いたりわめいたりいじめたり、大変なの。僕のお母さんだけPTA入ってないって知ったら、どうなるかしらね」

鈴木「…」

佐藤「何がいじめの原因になるかわからない世の中ですから、なるべくお子さんには安全安心に過ごしてもらえるように、一緒に頑張りませんか?」

鈴木「……佐藤さんはご主人はいらっしゃいますか」

佐藤「ええもちろん」

鈴木「住宅ローンは払ったことあります?」

佐藤「は?それは夫が」

鈴木「あたし、払ってるんですよ、住宅ローン。33年残ってるんですよ、住宅ローン!旦那死んだから!そのごジジョウはご存じでしたか!?」

佐藤「い、いえ…」

鈴木「1円でも節約したいの、PTA会費だってばかになんないんですよ!」

佐藤「は、はあ…」

鈴木「あ、佐藤さんが払ってくれますか?それなら入りますよPTA」

佐藤「何おかしなこと言ってるの!?払うわけないでしょ!」

鈴木「でしょ?じゃあ入りません。入れません!」

佐藤「でも」

鈴木「ちょっと違うと問題?いじめ?なんでちょっと違うといじめるんですかねえ人間って。多様性だとかSDGsだとか言ってんのに、違いを受け入れろって教えてるんでしょ?じゃあいろんな家庭を受け入れるように家庭で教えるよう、PTAでやってくれません?」

佐藤「ちょっと」

鈴木「私自分勝手ですよね、意味不明なこと言ってますよね、分かってますよ。PTA入らないくらいでうちの子供いじめるような奴、親もろともぶっとばしますから。PTA入らなくてもお気遣いなく!」

佐藤「落ち着いて!」

鈴木「(驚いて)」

佐藤「先ほどは言いすぎました。そうですね、PTAは強制ではありませんものね。全然、鈴木さんのことわかっていませんでした。申し訳ありませんでした」

鈴木「…」

佐藤「確かに私は専業主婦でローンは払ったことありませんよ。でもね、4人育ててきたからこそ、子供や学校について、鈴木さんよりいろんなことを知っています」

鈴木「…」

佐藤「それにねえ…さっきから仕事だローンだ言ってますけど…主婦のこと馬鹿にしてます?」

鈴木「は?そんなことは」

佐藤「してますよね。私は専業主婦ですよ、お金は稼いでいませんよ。でもね、夫の両親とその祖父母と同居して、4人の子育て、最近まで祖父母の介護よ、これから夫の両親の介護まで待ってんのよ」

鈴木「…」

佐藤「どっちもどっちじゃありませんか?大変なのは自分だけ、って思ってません?」

鈴木「…すみません」

佐藤「分かってくださったなら嬉しいわ」

鈴木「はい。では」

   鈴木、椅子から立ち上がる。 

佐藤「ちょっと、どこへ」

鈴木「仕事ですけど」

佐藤「今の話聞いてた?」

鈴木「はい。PTAは強制ではないと」

佐藤「いや、そこじゃなくて」

鈴木「遅刻しちゃうんで、さようなら」

   すたすたと教室を出ていく鈴木。

   ぽつんと残された佐藤。

   机を蹴るが、指が当たって痛い。

       終わり

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