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【小説】神社の娘(第37話 アニメも社会も裏を読め)

 ついに、プラモデルを、作る。
 
 桜はニコニコ顔で午前中から寛平の家にやってきた。桜は寛平のしっかりした指導の下、クラシカ・ハルモニの主人公機体を組み立てていく。

 橘平は横でずっと見ている。

 のもヒマなので、久しぶりに絵を描き始めた。組み立てに夢中の祖父と桜をモデルに、鉛筆でさらさら、すらすらと。

 少し前まで、この家で女の子の孫たちと暮らしていた祖父はきっと、桜をその子たちと重ねているだろう。橘平が子供の頃よく見ていた表情をしていた。

 静かに流れる時間、パーツを切り離す音、組み立てる音、寛平の説明。どれもが桜にとっては新鮮で楽しかった。

 もちろん、初心者の桜が午前中だけで組み立て終わるはずもなく、昼休憩となった。
 祖母は友人らとおしゃべり会らしく、三人での穏やかな昼食だ。

 橘平の祖母が用意してくれたご飯、味噌汁、肉野菜炒め。

 そして手作りたくあん。
 大根そのままの白と、クチナシ色の2種類だ。橘平は祖母のたくあんだけで何杯でもご飯が食べられるほどで、今日も肉野菜よりもたくあんをポリポリしている。

「桜ちゃんさ、ここまで、すごーく丁寧でいいよ。完成が楽しみだ」
「お褒めに預かり光栄です。おじいさまのご指導が素晴らしいからです。ありがとうございます」

 いやあ良いお嬢さんだ、と寛平は桜のことがかなり気に入ったようだ。

 そういえばさあ、と橘平はアニメを見直して、二人のおかげで見方が変わったことを話した。

「お話だけじゃない、社会で起こっていることも、表面だけの情報じゃなくて、裏も読めってな。橘平はこれをアニメで学べた。いい勉強になった。桜ちゃんのおかげだねえ」

 こうした出来事を桜にリンクさせるほど、寛平はもう桜にベタぼれだ。

「そうだ、じいちゃん。仏間にあった神社のミニチュア。あれ出してよ」
「どうした?」
「午後はあれの絵でも描こうかなって」

 ああ、はいよ、と、寛平は食後にミニチュアを持ってきた。

 とても精巧なお伝え様。
 橘平は模写をしながら、ヒントはないかと探してみるつもりだった。

 ついにクラシカ・ハルモニ主人公機が完成し、今日の目標は達成した。

 初めてなりにはうまくできたわ、と桜は上機嫌だ。寛平も素晴らしいと持ち上げ、また一緒に作ろうね、などデレデレだ。

 完成してしまったが、まだ帰るには早い気がした桜は、橘平に「もうちょっとお喋りしていい?」と聞く。「もちろん」と橘平は答えた。

 二人は庭へ出た。桜が若い男といるところを見られないよう、かつて捜索した蔵がある家の裏あたりをぶらぶらしながら話す。

「野宿っていつするの?」
「え、桜さん本気?」
「本気と書いてマジだよ。お泊り会ってやつみたいで楽しそう」
「お泊り会は家でしなよ…まあ来週を予定してるけど、俺の友達来るんだよ?いいの?」

 そう、ついにスケジュールが決定したのだ。場所は八神家の裏山。山の中でも寝やすそうなポイントは事前にチェックしてある。

 また幸次に事情を話したところ、親戚からテントと寝袋を借りてくれることになった。もう野宿というかキャンプだ。そう、ただの春キャンプ。夕飯はBBQ、とはいかないが焼肉でもしようかと思っているくらいだ。

「別にいいよ。『なゐ』も大事。でも今しかできないことも大事。ヘンかな?」
「変じゃないけど、お家への言い訳は?」
「ひま姉さんの所に泊まる、のつもり。おじい様とプラモ合宿でもいいけど」

「プラモ合宿?いやあ、どうだろう…それってお家の人許すのかな…」
「おじいさんだから大丈夫よ。あ、そうだほら、神社見つけたことも話さなきゃいけないし、また4人で集まれないかな。日曜とか…橘平さん今度の日曜大丈夫?」
「OK」
「ありがとう。二人にも聞いてみるね」

 あ、そうそう、と橘平はこの間の試合動画を桜に見せた。桜は葵に変化を感じる、と話す。

「変化?」
「うまく言えないけど、うーん、やっと本気出したって感じ。できるのにできない、自信が無かった。よくわかんないけど」

 橘平はもっと分からないが、最近の葵は出会った頃より表情が豊かになったな、とは感じている。

 そういえば、葵さんに書いたお守りは効いたかなあ。

 橘平はもやもやと、昨夜の惨事を思い出す。また酔っぱらった向日葵から電話があったことだ。

 あれは誰のせいの電話なんだ?

 聞きたくなかった…。隣に誰かいたような気がするけど…葵さんかなあ。葵さんも聞きたくなかっ…いや、あれってもしかして…。

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