![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142204642/rectangle_large_type_2_ff48d0cbf22515ad99c85a8beac668b0.png?width=800)
【小説】神社の娘(第37話 アニメも社会も裏を読め)
ついに、プラモデルを、作る。
桜はニコニコ顔で午前中から寛平の家にやってきた。桜は寛平のしっかりした指導の下、クラシカ・ハルモニの主人公機体を組み立てていく。
橘平は横でずっと見ている。
のもヒマなので、久しぶりに絵を描き始めた。組み立てに夢中の祖父と桜をモデルに、鉛筆でさらさら、すらすらと。
少し前まで、この家で女の子の孫たちと暮らしていた祖父はきっと、桜をその子たちと重ねているだろう。橘平が子供の頃よく見ていた表情をしていた。
静かに流れる時間、パーツを切り離す音、組み立てる音、寛平の説明。どれもが桜にとっては新鮮で楽しかった。
もちろん、初心者の桜が午前中だけで組み立て終わるはずもなく、昼休憩となった。
祖母は友人らとおしゃべり会らしく、三人での穏やかな昼食だ。
橘平の祖母が用意してくれたご飯、味噌汁、肉野菜炒め。
そして手作りたくあん。
大根そのままの白と、クチナシ色の2種類だ。橘平は祖母のたくあんだけで何杯でもご飯が食べられるほどで、今日も肉野菜よりもたくあんをポリポリしている。
「桜ちゃんさ、ここまで、すごーく丁寧でいいよ。完成が楽しみだ」
「お褒めに預かり光栄です。おじいさまのご指導が素晴らしいからです。ありがとうございます」
いやあ良いお嬢さんだ、と寛平は桜のことがかなり気に入ったようだ。
そういえばさあ、と橘平はアニメを見直して、二人のおかげで見方が変わったことを話した。
「お話だけじゃない、社会で起こっていることも、表面だけの情報じゃなくて、裏も読めってな。橘平はこれをアニメで学べた。いい勉強になった。桜ちゃんのおかげだねえ」
こうした出来事を桜にリンクさせるほど、寛平はもう桜にベタぼれだ。
「そうだ、じいちゃん。仏間にあった神社のミニチュア。あれ出してよ」
「どうした?」
「午後はあれの絵でも描こうかなって」
ああ、はいよ、と、寛平は食後にミニチュアを持ってきた。
とても精巧なお伝え様。
橘平は模写をしながら、ヒントはないかと探してみるつもりだった。
ついにクラシカ・ハルモニ主人公機が完成し、今日の目標は達成した。
初めてなりにはうまくできたわ、と桜は上機嫌だ。寛平も素晴らしいと持ち上げ、また一緒に作ろうね、などデレデレだ。
完成してしまったが、まだ帰るには早い気がした桜は、橘平に「もうちょっとお喋りしていい?」と聞く。「もちろん」と橘平は答えた。
二人は庭へ出た。桜が若い男といるところを見られないよう、かつて捜索した蔵がある家の裏あたりをぶらぶらしながら話す。
「野宿っていつするの?」
「え、桜さん本気?」
「本気と書いてマジだよ。お泊り会ってやつみたいで楽しそう」
「お泊り会は家でしなよ…まあ来週を予定してるけど、俺の友達来るんだよ?いいの?」
そう、ついにスケジュールが決定したのだ。場所は八神家の裏山。山の中でも寝やすそうなポイントは事前にチェックしてある。
また幸次に事情を話したところ、親戚からテントと寝袋を借りてくれることになった。もう野宿というかキャンプだ。そう、ただの春キャンプ。夕飯はBBQ、とはいかないが焼肉でもしようかと思っているくらいだ。
「別にいいよ。『なゐ』も大事。でも今しかできないことも大事。ヘンかな?」
「変じゃないけど、お家への言い訳は?」
「ひま姉さんの所に泊まる、のつもり。おじい様とプラモ合宿でもいいけど」
「プラモ合宿?いやあ、どうだろう…それってお家の人許すのかな…」
「おじいさんだから大丈夫よ。あ、そうだほら、神社見つけたことも話さなきゃいけないし、また4人で集まれないかな。日曜とか…橘平さん今度の日曜大丈夫?」
「OK」
「ありがとう。二人にも聞いてみるね」
あ、そうそう、と橘平はこの間の試合動画を桜に見せた。桜は葵に変化を感じる、と話す。
「変化?」
「うまく言えないけど、うーん、やっと本気出したって感じ。できるのにできない、自信が無かった。よくわかんないけど」
橘平はもっと分からないが、最近の葵は出会った頃より表情が豊かになったな、とは感じている。
そういえば、葵さんに書いたお守りは効いたかなあ。
橘平はもやもやと、昨夜の惨事を思い出す。また酔っぱらった向日葵から電話があったことだ。
あれは誰のせいの電話なんだ?
聞きたくなかった…。隣に誰かいたような気がするけど…葵さんかなあ。葵さんも聞きたくなかっ…いや、あれってもしかして…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?