エネルギー大国ロシアの凋落(IISSの記事)
写真出展:Alexey HulsovによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/alexey_hulsov-388655/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=7101548
英国国際戦略研究所(IISS)は2022年6月14日に、ロシアのエネルギー大国としての地位凋落に関する発表した。内容は、ウクライナ侵攻におけるNATOの及び腰な対応への批判と改善策の提言である。ロシアは世界的に見てもエネルギー大国であり、短期的にはロシア抜きでエネルギー市場は成立しないものの、EU各国を中心として脱ロシアの動きが加速していることも確かであり、現在のエネルギー市場が大きく変化する兆候も見られている。中長期的なエネルギー市場の動向を探るうえで参考になると考えられることから、本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Russia’s status as an energy superpower is waning)
https://www.iiss.org/blogs/analysis/2022/06/russias-status-as-an-energy-superpower-is-waning
1.本記事の内容について
・ロシアに対する経済制裁により、ズベルバンク、開発対外経済銀行、ガスプロムバンクといった金融機関がエネルギー産業に投資できなくなりつつある。2022年2月以降、西側諸国のエネルギーメジャー企業等はウクライナ情勢を懸念し、ロシア関連資産や事業を清算した。5月30日にEUはロシアからのエネルギー禁輸について合意し、ロシアのエネルギー企業の状況はさらに悪化することとなった。この禁輸措置は2022年末に施行されることとなっており、ロシアからの輸入の90%に相当する年間220億ドル分の契約が停止されることとなる。
・ロシアは制裁に対抗するため、アジア市場を開拓しようと尽力している。プーチン大統領は、閣僚にアジア側にパイプラインなどのインフラを整備するよう指示しており、インドがかつてないほど輸入を増加させているものの、EUへの輸出額を賄うだけの市場を確保することはできない。アジア向け輸出のためのインフラ整備には多額の予算及び期間が必要であり、中国もエネルギー輸入の分散化を図っている以上、EU向け輸出の3分の1程度しかアジア市場に振り向けることはできないだろう。
・ウクライナ侵攻に伴い、ロシアの原油生産量は大きく減少している。4月の原油生産量は前月比10%減少しており、2022年末には17%、天然ガスも5.6%減少すると見込まれている。またEUは西アフリカ、中東、ノルウェーなどからのエネルギー輸入を模索しており、ロシアのエネルギー生産はさらに減少する可能性すらある。
・ソ連時代から採掘している油田やガス田は枯渇しつつあり、技術的に困難な地域での採掘も飛鳥になってきている。また海外企業からのインフラ関係機器の輸入も途絶えていることから、今後生産を拡大することもできなくなると見込まれている。事実ロシア第二位の天然ガス生産量を誇るノヴァテクは、生産量を3分の1に減算すると発表している。
・長期的に、ロシアのエネルギー大国として地位は凋落することになる。EUは2027年までにロシアへのエネルギー依存をゼロにすることを発表しており、更にクリーンエネルギーの調達により化石燃料への依存を減少させることも模索している。ロシアのEUへのエネルギー輸出は、貿易総額にして42%を占めており、禁輸措置によりロシアの経済が大幅に悪化することが予想されている。
・ロシアは再生可能エネルギーへの移行に向けてブルー水素の輸出も模索していたが、インフラ関係機器の輸入や海外資本の撤退により、こういった潮流についていくことができなくなりつつある。このような状況下でロシアが頼れるのは中国のみであり、2014年のクリミア侵攻以来の中国依存がさらに高まることになるだろう。
2.本記事についての感想
過去にロシアのエネルギー比率やアメリカの天然ガス輸出余力に関する記事を紹介してきたが、ロシア抜きのエネルギー市場を安定させるには少なくとも5年以上かかる見込みが示されている。このため、ロシアのエネルギー大国としての地位が凋落するには今しばらく時間がかかるということには留意が必要である。ただこのことは短期的に変動しないということであり、中長期的に変化しないということではない。
特に天然ガスに関しては東地中海にガス田が発見されるなどしており、イスラエル、ギリシャ、エジプトルートのパイプラインやタンカー輸送路が整備される可能性も出てきており、ロシアの地位が安泰ではなくなる要因も出そろってきている。エネルギー事情は刻々と変化していることから、今回の記事のような情報を把握しつつ、変化に柔軟に対応できるよう準備しておくことが肝要である。
ただ岸田政権は、現在に至るまで新しいエネルギー政策を発表していない。参議院選挙を気にしてか、耳障りのいい再生可能エネルギーについての政策を曖昧にしたくないという意向が働いているのかと勘繰りたくなるが、このようなつまらない理由で送らせていいことにはならない。エネルギー企業はこういった動きをつぶさに見ており、いざ日本政府がエネルギー確保に動き出しても、対応が後回しにされる可能性がある。
今回の参議院選挙は、日本の命運を握る非常に重要な選挙になる。このような無能を晒し続ける岸田政権をなんとなく支持できるというような空気感で勝たせてはならない。
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