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VTuberの縦型配信はなぜ伸びるのか? 新規リスナー獲得への期待と24h配信から見えること(コラム)


VTuber縦型配信ブームの初動

1.「縦型」LIVE配信数の増加

 2023年も師走に入り世間が慌ただしくなる中、VTuber界隈に変化が生じている。話題の中心は11月頃よりYoutubeのShort動画にも流れてくる「縦型」のLIVE配信だ。

 従来、VTuberがYoutube上においてLIVE配信を行うのはPC画面やスマホ横画面での視聴に適したアスペクト比16:9の配信が中心であり、記事投稿時点においても比率としてはこの設定における配信が多数を占めている。
 一方、12月から急激に「縦型」によるLIVE配信も増加してきている。今まではShort動画でしか見る機会の少なかったVTuberの縦型動画は、LIVE配信という形で今注目を集めている。

 2023年12月9日1時30分にYoutube上において「VTuber」という単語でLIVE配信検索を行ったところ以下の結果となった。

縦型LIVE配信傾向(筆者調べ)

 VTuberにおけるLIVE配信総数は99に対し、縦型での配信数は29と全体の約3割。配信数の多い上位3ジャンルにおける縦型配信の内訳を見ると、歌枠および雑談による縦型配信割合5割~7割を占めている一方、ゲーム縦型配信割合約6%程度に留まっている。

 日にちや時間帯によって割合は変化するだろうが、歌枠や雑談といったジャンルを中心に縦型LIVE配信が増加傾向にあることが読み取れる。

2.VTuberにおけるShort動画ブーム

 TikTokやInstagramに倣い、Youtubeに縦型のShort機能が導入されたのは2021年7月。タイムパフォーマンス、略して「タイパ」というワードが2022年の新語大賞となったように、短時間で手軽に視聴できるShort動画は若者世代を中心に人気となった。

 視聴者側から見たShort動画は短時間で面白い動画が視聴できるという理由に加え、縦型画面をスワイプするだけで次の動画に遷移できる手軽さが最大のメリットだ。
 一方、配信者側の視点から見るとShort動画制作には一定の時間的コストや金銭的コストが発生するが、Short動画導入当初は収益化ができず、また2023年2月に収益化が可能となってからも1再生数あたりの収益単価は安く、直接の収益に繋がり辛いという声がある。配信者の限られた可処分時間において、Short動画市場へ注力する配信者は極一部であった。

 そんな配信者とShort動画市場との関係性にメスを入れた存在がVTuberグループ「あおぎり高校」だ。"おもしろければ、何でもあり!"をモットーに活動する彼女たちのグループは、公式チャンネルを中心にVTuberの赤裸々な活動の様子をShort動画として投稿し、VTuberにおけるShort動画ブームの火付け役となり注目を浴びた。

 今では多くのVTuberが投稿しているShort動画。直接的な利益は上がりづらいが、従来の配信では獲得できなかったリスナー層へのアプローチが間接的に可能となり、結果して新規リスナーの獲得に寄与したというものがある。
 また後の調査によると短尺動画が視聴者の購買意欲に関連しているというデータ(日経XTREND)もあることから、Short動画によるマーケティングの重要性がいかに高いものか判断ができる。

3.縦型LIVE配信の潜在性

 視聴者のタイムパフォーマンスに優れ、手軽に視聴できるShort動画であるが、なぜタイムパフォーマンスとは相反する縦型LIVE配信にブームの兆しが訪れているのか。そこには同じ縦型であってもShort動画とは異なる潜在性が秘められていた。

 通常、VTuberのLIVE配信にはYoutubeのトップ画面に表示されたものか、検索機能を用いて目的の配信画面を選択し視聴する方法が一般的である。すなわち、YoutubeでShort動画をスワイプし視聴する視聴者層へLIVE配信が直接届くことはない。

 しかし、縦型のLIVE配信であればShort動画をスワイプすることでLIVE配信が直接表示されることがある。ここに従来とは異なる視聴者層へのアプローチを仕掛けることが出来ているということなのだ。
 実際、縦型LIVE配信をしたことによりチャンネル登録者数が大幅に増加したという実例がある。

 また、Youtube視聴デバイスのうち約7割がスマートフォンという調査結果がある。20代以下~50代までがスマートフォンによる視聴が最多であり、年代が下がるにつれスマートフォンの割合が高まることから、特に若い世代へ人気のあるVTuberの配信は縦型配信にうってつけのスタイルと言える。

29歳以下の利用頻度はテレビ以上 YouTube利用実態調査[前編]

 もう1点注目すべきは縦型配信を実施したことにより海外からの視聴者が増加したという声が挙がっていることだ。
 真偽は不確かであるが、Short動画は言語設定に左右されないため、海外ユーザーのフィードに載りやすいという情報がSNS上に寄せられている。
 特に海外ユーザーは日本人ユーザーに比べ、チャンネル登録のハードルが低く、登録をしてくれやすいという傾向にあるらしい。

 Youtube側の仕様を利用し、海外ユーザーに配信を届けることが出来れば一気にチャンネル登録者数が増加させる可能性も秘めているのだ。

4.縦型LIVE配信の留意点

 様々なメリットを挙げてきた縦型配信であるが、幾つかの留意点も確認されている。主に配信者側に留意が必要になるものであるが、1つは先ほど挙げた海外ユーザーが配信へ訪れる機会が増加する傾向にあるだろうということ。
 海外ユーザーはチャンネル登録へのフットワークが軽い分、コメントを送ることへのハードルも低い傾向にあるとのことだ。もちろん各人の性格や配信の雰囲気もあるだろうが、当然海外ユーザーが日本語でコメントをするというのは極めて稀であり、基本的には英語である可能性が高いため継続して海外ユーザーを取り込むには一定の英会話による対応が必要となるかもしれない。

英検4級ですがなにか

 また先述の縦型LIVE配信傾向にある通り、雑談や歌枠は縦型に適していると言える一方、ゲーム配信は不向きであると言える。これは中心となる被写体がVTuber本人であるか、またはゲーム画面であるかの違いであることによるものである。
 主にパソコンや置き型ハードのゲームソフト等による作品は無理に縦型としても単純に見辛いだけとなる可能性があり、配信内容に応じた選択が重要となる。

 更にもう1点挙げるとしたら、一部の既存リスナーにとって縦型LIVE配信はデメリットになり得るかもしれないという点だ。
 スマートフォンにおける視聴では縦型LIVE配信はメリットになり得る一方、パソコンやタブレット、テレビなどのデバイスでYoutube配信を視聴するリスナーにとって縦型のメリットをどこまで享受できるかは不透明である。
 筆者の場合はパソコンでの視聴が主であるが、基本的にはながら視聴が多いため縦でも横でも斜めでもあまり気にならない。しかし画面を一定時間見続ける視聴者に対してはある種の負担感を生じさせることにも繋がりかねず、日によって縦型と横型の配信を交互とするなど配信者のバランス感が必要となる場面があるかもしれない。

 ここまで配信者側の留意点を挙げてきたが、1点だけ視聴者側も留意しなければならないことがある。
 どの立場から物申しているんだというものであり恐縮だが、配信はあくまで配信者側が主体であり、自らも含めリスナーは配信者の配信を見に来ている。新たなリスナー層の流入により視聴者層に変化が生じ、また奇抜なコメントを残す人物が現れ快く思わない視聴者もいるかもしれないが、それを戒めるか判断するのは配信者側が主であることが大半である。
 そういったコメントに反応することで自らが他のリスナーへ不快感を与え、また配信者へ負担を強いることに繋がり得る。

 匿名という立場に驕らず、配信のみならず発言する際は他者に与える影響を鑑みることが重要である。
 当人は単純な疑問や正義感からつい発言をしてしまう機会があるかもしれないが、少なくとも筆者は周囲を含め常に楽しいと感じられる配信となるようサポートし、応援する立場であり続けたい。意見は重要であるが、時には意図せず批判や誹謗中傷に変化する可能性を孕んでいると認識することが大切である。


縦型LIVE配信24時間チャレンジ

1.2種の"縦型"パイオニア

 VTuber界隈ではどこからともなく流行が始まることが常である。以前からYoutubeには縦型LIVE配信機能があったとはいえ、今回のように縦型の優位性が注目されたことはなかった。二次元カルチャーの最先端であるVTuber業界は変化の波が一気に押し寄せる。
 縦型LIVE配信の検証が数多のVTuberによって行われ、その中の意見を参考に取り纏めさせていただいている本記事であるが、1つだけ筆者発信の新情報をお伝えしたい。

 以前のコラム記事に取り上げさせていただいた「あおぎり高校/千代浦蝶美」さんが、12月9日17時50分から縦型LIVE配信24時間チャレンジを実施する。


 横型による24時間LIVE配信は2023年7月に「ホロライブ/兎田ぺこら」さんが行っていたが、VTuberの縦型による24時間LIVE配信はおそらく日本初。

 まだ未知なる可能性が大きく残る縦型LIVE配信。特に海外の視聴者層の取り込みに関しては、従来から時差によるLIVE配信ならではの課題が挙げられていた。今回は24時間配信のため時差の壁は無く、Short主体の新たな視聴者層がどのように訪れるか配信が通じて傾向を掴むことができるかもしれない。

 VTuberにおける「縦型Short動画」ブーム火付け役の先駆者ともいえるあおぎり高校から、今度は「縦型LIVE配信」の開拓者が誕生することに期待したい。

2.縦型LIVE配信24時間チャレンジから見えてくるもの

 先ほど述べたように、VTuberと時差の課題は以前から挙げられていた。例えば日本時間土曜8時の配信であれば、アメリカでは金曜15時~18時であるため多くの人は仕事か学校で外出をしている。ヨーロッパでは金曜23時~24時となり、眠りに就いている人も多いだろう。
 また日本時間土曜21時の配信であればアメリカでは土曜4時~7時となり大半の人は眠りに就いている。ヨーロッパこそ土曜12時~13時であるが、平日の配信であれば外出をしている人が大半となる。

 アーカイブでも視聴が可能なVTuberの配信だが、同じ時間に同じ場所で一緒の空間に居るという疑似体験がリスナーに好評であることなどの理由から、多くのVTuberはLIVE配信中心の活動になっている。
 今回の24時間チャレンジは、時差に捉われず幅広い地域からの視聴者が訪れる可能性が十分あるだろう。

 関連し、VTuber業界は海外リスナー獲得に苦戦しているのではないか、という考察がある。
 にじさんじを展開するANYCOLOR株式会社が9月14日に発表した2024/1Q決算資料では、国内の収益は順調に拡大成長を遂げているものの、海外における売上高は前年同期比で-16.3%と陰りが見える。

ANYCOLOR株式会社 2024/1Q決算説明資料P6

 一方、ホロライブを展開するカバー株式会社の2024/2Q決算においては詳細な海外動向は非開示なものの、コマース事業であるマーチャンダイジング分野の売上高が前年同期比で104.7%増収となり、機関投資家向け説明会において外貨売上は約3割程度から変化なしという回答があることから一定程度堅調に推移しているものと受け取れる。

 今後の各社における海外展開について、新たな海外視聴者層の取り込みが期待できる縦型LIVE配信は成長の新たな起爆剤となるかもしれない。このことからも、24時間配信における検証は有用なものになるだろう。

最後に

 目まぐるしく変化するVTuber業界に突如現れた一つの配信スタイルは、今後の展望を見据えるうえで重要なターニングポイントになる可能性を秘める一方、その有用性はまだ未知なる部分が大きい。
 その未知なる部分の解明に、本日夕方からスタートする千代浦蝶美さんの24時間配信が大きく寄与する可能性がある。

 これまで、「REALITY」や「IRIAM」などのスマートフォン向けアプリでは縦型による配信が主流であった。
 縦型LIVE配信が一過性のブームで終息してしまうのか、はたまた配信スタイルによって棲み分けられ継続して残り続けるのか。
 変遷の激しいVTuber業界において、Youtubeにおける縦型LIVE配信の方向感はすぐに示されるのかもしれない。

追記

 千代浦蝶美さんの24時間検証配信が12月9日~12月10日に実施されました。縦型配信の有用性を示す内容となっておりますのでご興味のある方はぜひお読み取り下さい。(2023.12.11)


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