見出し画像

第4回公演『君の街によなよな!』上演台本

メインビジュアル_201110_1

はじめに

かるがも団地 第4回公演『君の街によなよな!』

東京大田区。最愛の妻とは離婚、仕事も失って実家の商店にふらふらと戻ってきたテキトーな兄と、兄に愛想をつかす受験生の妹。
ひとつ屋根の下、凸凹兄妹の二人暮らしを軸に、小さな商店に流れ着いたちょっと残念な人々との交流を描いた生活譚です。

一話完結型(?)の全三話構成。深夜ドラマのようなゆるやかなコメディをこしらえてみました。
前回や前々回よりは短め&ライトな作品です。コロちゃんのおかげで気が塞いでしまって、始める前は演劇自体に少しだけ腰が重くなっていました。
だけど終わってみれば、全力でおふざけできる時間が、それを誰かと共有できる時間が、僕の人生にはやっぱり不可欠だなと、それを再確認することができました。今回の座組でこの作品をつくれてよかったです。ほんとに。

沢山のご来場本当にありがとうございました。
よろしければどこかで感想を聞かせてもらえると嬉しいです。
藤田恭輔


『君の街によなよな!』上演台本

作:藤田恭輔
記録写真:井上亮二(CHARA DE)
※記録写真はすべてのシーンを網羅してはおりません。事前にご了承ください。

【登場人物】
池上壮平(28)  …......................................................................................................…河村凌
池上詩子(18) …......................................................................................................谷川清夏
荏原大樹(28)  …......................................................................................................…稲垣隼桐谷柊斗(18)/野球部員….....................................................................................…香西守
嶽山ゲン(17)/猫/ヒカリ/神父/柊斗の元彼女...........……….................. 宮野風紗音
戸越薫乃(28)/池上母/あん/野球部員/柊斗の元友達1.........……….....古戸森陽乃
野球部の監督(上野先生)/池上父/みか/柊斗の元友達2....………………..藤田恭輔

第一話 高鳴るかちゃかちゃ!

   こんばんはとか言いながら、役者たち出てくる。
   スタンバイする。

宮野 本日はご来場ありがとうございます

   宮野、前説。諸注意とか。

宮野 それでは最後までごゆっくりお楽しみください。ここからの進行はこちらのお嬢さんにバトンタッチします
詩子 はい、がんばります
宮野 それでは私は猫になります

画像4

   宮野、猫耳カチューシャをつける。舞台中央でふんぞり返って座る。

詩子 改めましてこんばんは。詩子です。ほどほど元気な都立高校三年生。「君の街によなよな!」もうすぐはじまります。早速ですが、まずは私の家族の近況報告から

   父と母、入場。

画像5

 詩子、お父さんとお母さん行ってくるから
詩子 不動産企業に勤めるお父さんは、会社でやってはいけないことをしたらしく、ペナルティとして一年間南極の営業所に行くことになりました
 使い込みしちゃった
詩子 しかもどういう組織の陰謀なのか、これにお母さんもついていくことになりました
 ほんといい加減にしてくださいよ
 わりわり

   父と母、退場。

詩子 父も母も、事の重大さが分かっていないような気がしてなりません

   詩子、仏具の鈴(りん)を鳴らし、手を合わせる。
   舞台後方パネル裏から、おじいちゃんの遺影が飛び出す。

画像6

詩子 おじいちゃん、お父さんとお母さんは南極に行っちゃったよ。受験期の娘を一人ぼっちにするとは、なんてつれない両親なのでしょう
 (急に出てきて)大事な愛娘を一人ぼっちにはしないわ
詩子 いたんかい
 お父さんと私と入れ替わりに、壮平戻ってくるからね
詩子 ……は!?
 じいちゃんの店開けるから仕事辞めたんだって。皇帝ペンギンが○○(フリー)するところ、ウォッチングしてくるわ
詩子 ちょっと!

   母、去る。おじいちゃんの遺影も引っ込む。

詩子 店開けるって……


画像7

   同じ頃、どこかの路上。

 (ヨーデルとか歌ってる)

   壮平、歌を真似ながらでてきて、

 下手くそ
壮平 上機嫌な猫だな、ほらよ、本日の賄賂

   壮平、猫にお菓子を渡して

 お、ポッキーちゃんか、(何か一言)、頂戴いたす

   猫、懐にしまいつつ、壮平の荷物が目に入って、

 えらいでかいね
壮平 ま、お引越し的な?
 あーね、家なき子だもんね
壮平 そ、家なき子、または家なきアラサー、(余計な一言)
詩子 つまんな。これ、兄です。28歳猫好き。某IT企業の営業として働いていた兄は突然仕事を辞めて帰ってくることになりました
 お、住処がねえならちょうどいいや、このマンションどうだ、(マンションのチラシを渡しながら)大森駅西口より徒歩5分、築浅のええとこやで
壮平 お前ほんとに猫か。いやー2LDKは一人じゃ持て余すな。俺実家行くんだよ
 あーね、実家ね、みんな大好き池上商店
壮平 そう、じいちゃんが大事~にしてたお店のシャッターを、孫が再び開けるんだよ、泣ける話だろ
詩子 泣けないし。全然泣けないし。兄は誠に軽薄でテキトーな男です。一緒にいるだけでイライラします
 いい客だと思ったんだけどな。周りに入ってくれそうな奴いたら渡しといてくれ。ほんじゃ
壮平 ほいよ

   猫、去っていく。
   母、入場。

 おじいちゃんもきっと喜んでるわよ、二人で仲良くやってね
詩子 理屈でも嫌だし生理的にも嫌
 可哀想なこと言わないの、家族なんだから
詩子 え~……

   母、すぐ退場。

画像8

壮平 (大あくびして)わんばんこ、馳せ参じました
詩子 ……
壮平 ただいま。俺の部屋そのまんまだよな(行こうとする)
詩子 兄の突然のリターンに釈然としないのには他にも理由があります。ちょい
壮平 ……
詩子 急に戻ってきて店開けるとか言ってるけどさ、薫乃さんは?
壮平 ……まあまあまあまあ
詩子 薫乃さんは?……なんで一緒じゃないの
壮平 あーれ、言ってなかったっけ(笑)親父とおふくろだけだったっかな
詩子 ……
壮平 ……まぁ、その、なんだ、価値観の不一致的な?
詩子 あーあ
壮平 お互い大好きだけど私たち進みたい未来が違ったね、的な?
詩子 いや……急、もうぜんぶ急
壮平 じっくり話し合ったうえでの前向きな結論的な?
詩子 的なじゃねえよ
壮平 ……わりぃな、荷物置いてくるわ
詩子 兄は、離婚していました。私の大好きな薫乃さんと離婚していました。仕事も薫乃さんも住む場所も全部失って、ふらふらとのうのうと実家に帰ってきました
壮平 (舞台袖から)うぉっ!わたぱちあんじゃん!(など。離婚も失職もそっちのけの一言)
詩子 これは、そんな誠に軽薄な兄と、私と、この店に流れ着いたちょっと残念な人たちのひと秋の話。君の街によなよな、しぶしぶ、はじめます

   暗転。OP音楽C.I.
   タイトル「君の街によなよな!」

   OP音楽の中で、8ミリフィルムの音が聞こえてくる。
   テロップ「1979」
   商店の外観が映る。セピア色。
   詩子に照明があたる。
   
詩子 東京大田区にある私の実家では、かつておじいちゃんが小さな商店を営んでいました。酒、たばこ、お菓子、洗剤などの日用品などが並ぶこの店は、この地域の人々にとって痒い所に手が届く存在でした。気さくなおじいちゃんの人柄もあって、お店は繁盛しました

   テロップ「2019」

詩子 40年に渡って愛されたこの店も、平成の終わりにおじいちゃんが天国へ旅立つと、ひっそりとシャッターが下りました。からの兄です
壮平 (ダンスとか踊りながら)やっぱ令和の時代はさ、組織のしがらみなんかに縛られず、自由に好きなことして生きていきていく時代だからね
詩子 薄っぺらい。家業を継いだと言えば立派に聞こえますが、会社に時間と場所を拘束されるより楽だからとか、きっとその程度です。そういう奴なんです。父さんと母さんの目が無いのをいいことに、兄は日増しに堕落していくのでした

   サブタイトル「第一話 高鳴るかちゃかちゃ!」

ここから先は

29,726字 / 49画像

¥ 700

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?