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一人で映画を作る悲喜こもごも【僕が映画を作ろうと思ってから Vol.3】

カルフの歴史の3回目。


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たった一人で、しかも一人暮らしの部屋の中だけで、
僕は映画を作り続けていました。

それを映画と呼ぶのなら、ですが。


作りながら、今度は、

どぉーーーーーしても

誰かに見てもらいたくなりました。


当時大学生だった僕には一応、
少ないながらも定期的に会って話をする友人たちがいました。

彼ら3人を部屋に呼んだのです。

「映画を作ったから見に来ないか」
確か、そんなストレートな誘い方をしたと思います。

友人たちも、一体何を見せられるのかもイメージできないまま、やって来たのだと思います。


僕の処女作『復讐』は、実写とコマ撮りの組み合わせで、
なんと10分間もありました。

前回も書きましたが、当時の僕のカメラでは、数秒間撮って・止めて・・を繰り返すしかなく、コマ撮りと言っても、スムーズなものではなくカックカックカック・・という恐ろしくもっさりした動きでした。


友人たちがテレビの前に思い思いに座ったのを確認すると、
僕は部屋の電気を消し、ビデオテープ(!)を入れました。

僕は彼らの一番背後から、再生ボタンを押します。

そして、『復讐』が始まりました。

友人たちは固唾を飲んで作品を眺め、
10分後、みんな口々に
「すごい!」「面白かった!」
を連発して笑顔を僕に向け、


・・・という状況を想像していました。


ところが現実は恐ろしく違いました。


始まるやいなや、一人が口を開きます。
「そういや、明日の●●の授業、なんか持ってくるものあったっけ?」

(おいおい、今話すことじゃないだろう!!)

一人は始まってすぐ立ち上がるとトイレに行き、
その後盛大に水を流す音が聞こえてきました。

(なぜ、今なんだ!!)

一人はテレビ画面ではなく空を見つめてボーッとしています。

(おい、見ろ!テレビを見ろ!)


上映が終わり、僕は部屋の電気をつけました。

友人Aが口を開きます。

「明日の●●の授業さあ・・」

(そっちかーー!!!)


・・・結局、誰一人、僕の映画について一言も触れませんでした。


今思うに、
自主映画というものを見て、どう反応すべきなのか、
誰も想像できなかったのでしょう。


 * * * *


僕は、完全に火がついていました。


しかしたった一人だったので、できることは限られます。

コマ撮り、というものに僕は魅せられました。
たった一人でも何かしら作れるからです。


当時住んでいたアパートの隣が、
解体工場で、日中はずっと
ガガガ・・ゴゴゴ・・・と騒音に満ち溢れていました。

なので、僕が映画を撮り始めるのは決まって夜中でした。

日中、「あんなの作りたい、こんなの作りたい」とアイデアを膨らませ、
人形を作り(コマ撮りのため)、撮影は真夜中。

処女作『復讐』は音のないサイレントムービーでしたが
(当時はそんな言葉も知りませんでしたが)
その後、セリフを入れ始めます。


ちなみにその頃の僕はアイデアをゼロから生み出すというより、
レンタルビデオとか深夜の映画とかを片っ端から見て、
いいなと思ったシーン、面白かったシーンを真似ていました。

確か『トワイライトゾーン』だったと思いますが、映画の冒頭で老人のようなキャラクターが作品について解説するカットがありました。

あれをやりたい、と思い、黒づくめの魔法使いのような人形を作成。
口をパクパク動かせるような仕組みです。

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人形を撮りながら、僕はアテレコ(当時はそんな言葉知りませんよ)をします。

「ウヒヒヒヒ・・今日の話は、実験に失敗して自分の家を燃やしてしまうバカな男の話じゃ。ヒッヒッヒ・・」

夜中の1時頃ですよ。


さて、
真夜中に一人で映画を作っていると、
近所の深夜の人間模様にも触れることになります。


当時、僕の隣りの部屋に、意味ありげなおやじが一人で住んでいました。
歳の頃は50くらいか。単身赴任だったのかもしれません。

その夜、僕は「哀れよのう、哀れよのう・・・」というセリフを録音していました。
撮影の設定上、暗い部屋の中が必要で、部屋の電気は消して、机の蛍光灯だけがついている状態。

「哀れよのう・・」と僕が口にしたとき、玄関の外から女の怒鳴り声が聞こえて来ました。

「ねえ、高橋さアん!出てきなさいよオー!」

僕は思わず声を止め、聞き耳を立てます。

隣のおやじの、慌てた、でも抑えた声が対応しているのが聞こえます。

「帰れよ!」

女も負けてはいません。

「何よオー!入れてよー!」
「静かにしろよ!周りに聞こえるじゃないか!」
「入れてよー!入れてくれないと大声出すよー!」
「こら!静かに!」
「高橋さアん!!寝てあげたじゃない!出てきなさいよー!!」

僕はなんだか、聞いてはいけない大人の世界に触れている気がして息を潜めていました。

ガチャ、とドアが開く音がしました。

おやじが出てきた。足音。うちの前で音が止む。

僕は息を止めました。
おやじのひそひそ声が聞こえました。

「ほら、こいつ起きてるじゃないか!!」

僕は慌てて首をすくめました。


その夜はあと、「お前はほんとに哀れよのう・・」という一言だけ収録すれば終わりだったのだけど、隣の高橋さんに申し訳ない気がして、そのまま電気を消して就寝したのでした。


 * * * *


自分が出て、人形のコマ撮りと組み合わせる。
これがその頃の僕の作品の全てでした。

でもね、流石に飽きます。


そこで思いついたのが、ハムスターです。
一匹1000円で売られていて、「これだ!」と。

このハムスターを主人公にした作品を作ることにしました。
タイトルは『大脱走』。

飼い主の僕が目を離した隙に、ハムスターが脱走し、部屋の中を逃げ回る。
それを追いかける僕・・というドタバタ映画です。

しかし、撮影しながらふと、ハムスターの姿が見当たらないことに気づきます。
部屋の中を探し回っても見つからない。

その夜は、とにかく蒸し暑かった。
うっかりベランダ側のドアを10センチほど開けっ放しだったことを知るのです。

『大脱走』という作品は、ハムスターに本当に逃げられ、未完成となりました。


僕は、一人の限界にたどり着きます。
そして、

どうしても、どうしても、人間を撮りたくなりました。


(つづく)



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