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数年前の夢が叶っているのに、僕はどこか憂鬱でした【僕が映画を作ろうと思ってから Vol.8】

(前回のあらすじ)

カメラと三脚がある。
作りたい映画の企画がある。
手伝ってくれる仲間もいる。

もう、映画作りを止めるものは何もない。
僕はそう考え始めていた。


第一回はこちら


 * * * *

続けて次の制作に入ります。

ホラー作品。
スピルバーグの『激突!』のストーカーバージョン。

女の子が主人公。
自宅に戻る途中、背後から知らない男がずっと追ってくる・・。

ロケ地は、僕が住んでたアパートの近隣。

誰もいない時間帯に撮ったらホラーっぽいなと、
撮影の前日から僕の部屋に3人が泊まり込みました。

次の日の朝6時、僕だけパチッと目が覚め、みんなを起こし、撮影に出かけます。

そして、衝撃の展開が。

誰もいない朝だと思ったら、犬の散歩、ジョギングする人、散歩する老人たちで、むしろ昼間よりも人が多い!!

あえなく撮影を断念し、日中に出直しました。

昼間はホラーっぽくないなあと思ったけれど仕方ない。
(結果、白昼夢みたいでむしろ良かったと思う)


さて、この撮影、課題が一つありました。

主人公の女の子が自転車に乗って猛スピードで逃げる後ろを、『ターミネーター2』のT-1000ばりの速度で男が迫ってくる!というシーンを撮りたかった。

この移動撮影をどうすれば良いか。


当時は、撮影前にテストする、なんてしません。
事前に考えはするものの、撮影当日にテストも兼ねます。

・カメラを手で持って猛ダッシュする
>>ブレて使えない。
・自転車の荷台に乗って撮る
>>やっぱりブレて使えない。
・バイクを用意して荷台に乗って撮る
>>バイクが用意できなかった。
・車椅子を用意してそれに乗って撮る
>>車椅子が用意できなかった。


結局、あれもこれもダメで、自転車の子にはゆーーーっくりと走ってもらい、それを前から撮る、という「いまいち締まりのない撮影」となりました。

今の時代だったらジンバル使って走って撮れば良いでしょう。
良い時代になったなあと思います。


そしてそして、この作品には目玉シーンがありました。

それは、橋の上からストーカー男を突き落とすシーンです!

当然、本当に落としたら危ないので、ストーカー役と同じ大きさの人形を作り落とすことになりました。

マネキンもいいかなと思ったものの、手足が固まってると変だろうと。

撮影日までに、東急ハンズで買ってきた木の板と段ボール、そして針金を使い、せっせと人形の骨組みを作り上げていました。

それにストーカー役の衣服を着せて準備完了です。

・・・でもね、骨組みと言ったって、ぐねんぐねんです。
それに、人の大きさの人形って、ほんと大きい!

何しろ、実際のストーカー役は僕よりも身長が高いわけです。
自分よりも大きな人形を作った。


その撮影シーンは、一発撮り。
橋の上に人形をセットし、僕らはみんなで橋を遠くから撮れる場所に移動しました。
※遠くから撮らないと、人形ってバレちゃう!

ここでもハプニングが。

ちょうど、近くの小学校の下校時間に当たってしまい、ぞろぞろと小学生の子供たちがやってきたのです。

何やら、大きな人形を橋の上に乗せている。
おや、カメラもある。

そりゃあ、気になります。
「何やってんのー!!」と大合唱。

僕らは必死に「撮影だから静かにして」と頼み込み、いよいよ本番となりました。

「よーい、スタート!」
その声に、子供たちも一瞬で静かになります。

主人公の子が橋の上から人形を突き落とす!


・・・人形は、


ぐねんぐねんしながら落ちていきました。

(ああ、あれは人形だ)

と僕は思いました。


「カット!」

子供達は終わったことを知り、「なーんだ」「つまんねー」と大声で言いながら去っていきました。

撮影が終わり、僕は一人、編集作業に入ります。

橋から落とした人形の残骸(ぐちゃぐちゃに壊れた)は、
部屋の中に置く気にもなれず、ドアの外に置きっぱなしにしました。

時間ができたら片付けよう、と。


ある朝、ドアを開けて外に出たら、人形の残骸に何か張り紙がしてあります。
隣の部屋の番号が書かれたその紙には

「ゴミは片付けること」

と太字で書かれていました。


完成した作品はこちら。

『追われる!』

 * * * *


ずっと何年も一人きりで映画を作ってきて、一人でできることの限界を感じていました。
仲間がいたらいろんなことができるのにな、と。

そしてその後、僕には仲間ができていました。

声をかければ、すぐに数人が集まる。
大学生という気楽な立場もあり、平日に撮影もできる。


ただ、気を遣い過ぎる性格のせいか、撮影の後はいつもどっと疲れていました。

それに、一人の時とは違い、何人もの人間の予定調整や時間合わせに追われていました。

さらに、「楽しんでいるのは僕一人だけなんじゃないだろうか」という思いに、とらわれていました。

一人の時は、作ることが楽しかった。
そして完成した時点で満足していた。

今は違う。

自分が作りたいものに多くの人を巻き込んでおいて、はいありがとね、じゃ済まされない。みんなにも楽しんでほしい。みんなにも喜んでほしい。

そうは思っても、じゃあ何をすればいいのか思いつかない。


数年前の夢が叶っているのに、僕はどこか憂鬱でした。


ある日、携帯電話が鳴りました。

映画を手伝ってくれた女の子から。


「今度うちの大学で学園祭があるんだけど、私の友達が映画上映やるんだよ」

その後、耳を疑います。

「でね、そこでオリ(僕)の映画、流してもいい?」

僕は途端に興奮しました。

「いいよいいよ、もちろん。というより、よろしくお願いしたい!!」

何本でも流せる、という話でしたが、僕はとりあえず人に見せられそうな2本を選びました。
最新作『追われる!』と、「紙芝居アニメ」。


上映されるのは、当然、僕の作品だけではありませんでした。

別の女子大生監督からも1本、出品されると。


学園祭の数日前、僕は主催者に頼んで、その女子大生監督を紹介してもらいました。
自分以外で映画を作っている人間に、どうしても会ってみたかったのです。

渋谷のハチ公前で、僕はその女子大生監督と会いました。

どんな風に会話が始まったのか、覚えていません。
気付けばお互いに、作りたい映画のアイデアをしゃべりまくっていました。

「映画作ってる人に、初めて会えたよ!」
と僕は興奮気味に言いました。

「私も監督やってる人に初めて会った!」
と彼女も声を弾ませて言いました。


予定があるからごめんなさい、と慌ただしく彼女が去っていった後も、僕は渋谷のハチ公の雑踏の中で感動していました。

いるんだ。


映画を作りたい人って、いるんだ。


この世の中に、探せばいるんだ!

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(つづく)


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