見出し画像

あなたは、20年前に戻ることができます。

「あなたは、20年前に戻ることができます。」

スーパーの帰りに、いつの間にか
狭い路地に迷い込んでいた。
暗いどんよりとした日。
雨が強くなってきた。
傘からはみ出るスカートの裾を気にしていた。

「あなたは、20年前に戻ることができます。」

再び聞こえた、低い声に、私は、
ゆっくり、顔を上げた。

頭からマントを被った老人が目の前にいた。

私の驚きと喜びの入り混じった顔を見ずに、立て続けにこう言った。

「ただし、その20年は、同じ出来事になります。同じ行動を
しなくてはなりません。そして、その速度は2倍になります。
つまり、10年後に、今のあなたに戻ることになります。」

私は、想像してみた。
楽しいことも、苦しかったことも倍の速さで再び経験して、
さらに疲れきった自分が10年後、この場所に立っていることを。

買い物袋に、ずっしりとした重さを感じたため、握り直した。

そして、その重さをなんとなく思い出した。

ああ、この老人に会うのは2度目だ。

私は、黙って首を振った。

「良い人生を」

老人は目を伏せたまま、そう言って、暗闇の雨の中に消えていった。

10年前、私は何を思い、過去をもう一度経験したのだろうか。

私は、雨の向こうの未来を感じながら、歩き始めた。




#眠れない夜に   #小説   #日記

この記事が参加している募集

読んでいただきありがとうございます^_^ さらにサポートなんてしていだだけたら想像するだけでもありがたく嬉しいです。よろしくお願いします☆彡