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結局、豆腐が好きなだけなのかもしれない。 - えきめんやの豆腐一丁うどん

 午後12時、神奈川県立金沢文庫(博物館)からの帰り道。
 その日、「それにしても腹が、減った。」と、井之頭五郎状態となった私は、駆け足ではないが早足ぐらいで金沢文庫駅へと戻り、昼食を探し求めていた。

 しかし、博物館のある東口は小さな商店街こそあるものの、目につくお店はラーメン屋、あとはチェーン店であるす◯家と日◯屋… チェーン店は決して嫌いではないが、この日の最高気温は34℃。日陰らしい日陰のない炎天下を10〜15分ほどかけて歩き、博物館から駅へと戻って来たばかりであある。
 その時点ではっきり食べたいものがあったわけではない。しかし「涼」を求めていたのは確かで、その時は申し訳ないが、牛丼やラーメンといった気分ではなかった。

(食べたいものがないんじゃな…)

 と残念がりつつ、一度商店街を引き返す。暑さのせいか、すれ違う人の表情も曇っているような気がする。私もこんな日ぐらい、真っ黒なTシャツなんか着てくるんじゃなかったと後悔しながら、京急金沢文庫駅へと戻っていく。
 金沢文庫には博物館のある東口に行くばかりで、西口には一度も行ったことがない。ひょっとしたら何かしらお店を見つけられるかも知れないし、見つからなければ横浜駅まで戻ってなにかしら、それでも見つからない場合はコンビニ…という風になってくるかも知れない。

 そんな一抹の不安(?)を抱えつつ、駅のエレベーターを上っていく。
 ちなみに金沢文庫駅の改札前には薬局とコンビニ、そしてイートインのあるパン屋さんとケ◯タッキーフライドチキンがある。コンビニは本当に何もなかったときの最終手段、ケ◯タッキーはすでに書いたように今回は除外。パン屋もありと言えばありだが… どうにもしっくりこない。
 どうしようかな、と、ふと振り返ったとき、そこに「えきめんや」の看板があった。

 「えきめんや」は京急線にある、いわゆる「駅そば」のお店である。
 別店舗だが、過去に2回ほど食べたことがある。限定メニューがほどよく個性的なのと、あとダシも自分好みで、「こういう立ち食いそば屋が地元にもあったらなぁ」という、好印象を持っているお店だった。「金沢文庫にもあったのか」と思いつつ、私はこの店に入ることにした。何よりもここには冷たいうどんという、今の自分にとっては絶対ともいえる「正解」がある。

 券売機の前に、学生と思われる青年が立っていた。しかし、私の存在に気づくと横にずれ、順番を譲ってくれた。どうやら注文をまだ決めていなかったらしい。私は彼のご厚意をありがたく頂戴し、券売機の前に立ったのだが、なるほど、すぐには決められない。
 なんとなく「冷たいうどん」ということだけは決めていたが、ざるにするかかけにするのか(かけの場合、そもそも冷やしはあるのか)、そして天ぷらのトッピングやいなり寿司は追加すべきかどうか… 細かい部分が瞬時に決められない。
 迷いすぎるあまり、私も青年と同じく横にずれようか… と思った時、券売機の右下に、気になるメニューの名前が見つかった。

【豆腐一丁そば うどん 550円】

 その商品名を見たとき、私はありありとその姿が想像できた。 
 おそらく、冷たいうどんに冷奴が載っているイメージだろう。おでんのダシを吸わせた豆腐をご飯に載せて食べる「とうめし」という料理があるが、それの冷やしうどんバージョンという風にも見える。うどんの麺も冷奴も、普段は麺つゆで食べているものであり、よほど好みの分かれるトッピングでもしていない限り、「まずい」ということはまず無いだろう。
 私は迷うことなく1000円札を投入、商品のボタンを押した。食券と450円のお釣りを受け取り、その食券をカウンターの店員Aさんに渡し、「うどんで」と、聞き直されない程度の声量で告げる。

 別の店員Bさんがうどんを軽く湯がいている間、食券を受け取った店員Aさんが豆腐のパックを開ける。豆腐は絹ごし、サイズは少なすぎず多すぎずというところだろうか(200g程度と見たが、目測を見誤っているかもしれない)。私の後ろに別のお客さんが来たこともあり、私は彼のために横にずれる。立ち食いそば屋とは、こういう譲り合いによって成り立っていることが、こう事細かく書いてみると改めてよくわかる。

 店員Bさんが麺を引き上げると、今度は冷水でうどんを締め始める。店員Aさんが丼に入ったうどんを引き取ると、先程パックから開けた豆腐を繊細かつ大胆に盛り付ける。そしてつゆをかけ、周囲に天かす、刻み海苔、鰹節、ネギ、わさびをあしらって完成。シンプルだが、天かすと鰹節のアレンジが料理をちょっぴり華やかにしてくれている。

こっちで七味も振った。

 席についてひとすすりする。
 完璧に予想通りな味だと思った。
 そして、私はこの「完璧」な「予想通り」を求めていた。

 ぐしゃぐしゃにはかき混ぜず、麺を数回すすりつつ、時折箸で冷奴を崩しながら食べる。まずいわけがない。天かすこそあるものの、油分をほとんど感じさせないさっぱりとした味わい、それでいながらデンと置かれた豆腐が醸し出すボリューム感が素晴らしい。
 ある程度麺を食べ終えたタイミングで、箸をレンゲに持ち替え、豆腐をサクサクと削っていく。普段食べている冷奴とはまた違う、大理石のように堂々と丼の中央に佇む豆腐を「掘削」していく感覚が楽しい。絹ごしとはいえしっかりした豆腐で、一定以上の重量感もある。

 そして数分後、ダシも含めて完食。食器を返却棚に返し、そのまま店を後にする。博多華丸のようなことを言えば、自分にとってベストな昼食が食べられた日はなんだか気分が良い。ちょっとした高揚感を感じつつ、私は改札を通り、横浜へと向かう上り電車へと乗って行った。
 それと同時に、冷奴とうどんという、ありそうで無かった組み合わせに良い刺激ももらえた。決して難しい料理ではないし、今度は家でも作ってみようかと思う。

店頭より(店を出たあとで撮影)。
「一丁まるごとの 豆腐がひんやりおいしい」
おっしゃるとおりでした。


 追伸、実際に作ってみました。

写真に撮ってみると、その彩りの良さが改めてわかります。

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