私小説 わたしの体験 6
剥き出しの人間関係。結局そういうことだ。福祉の世界にあるのは、それ以外には何もない。わたしの偽らざる感想。
いつも誰かが誰かを嫌っている。誰かが誰かの悪口を言って、誰かが誰かの陰口を言う。上司は嫌いな部下をなんとか追い出そうと考え、部下は部下で平気で仕事の手を抜く。さらに、現場で働く職員は、利用者の好き嫌いを隠そうともしない。皆で、足の引っ張り合いをしている。それが、わたしの知っている福祉の世界。
非常に極端な言い方をすればそういうことである。
もちろん、これは小説だから、わたしは極端な物言いをする。福祉の現場で当たり前にあることを、ありえない形で表現することもある。小説だから許されるだろう。とはいえ、本質の部分で、わたしには福祉の職場に対する不信感がある。その不信感が、露悪的なほどの福祉職場に対する悪口となってここに現れている。自分でもそれがわかる。
でも、わたしは福祉の現場で、まだ働いている。確かに障害福祉の現場からは逃げ出したけれど。福祉の世界からはまだ逃げていない。
かつて、わたしは一般企業で働いていた。身の程をわきまえずに言ってしまうと、わたしはけっこう優秀だったと思う。でも、だめだった。
もう、何もかも正直に話してしまうが、わたしは仕事では失敗をしなかった。失敗したのは、異性関係だ。妻子のある人と、不倫関係になり、相手の家族にばれて、結局、職場にいられなくなった。でも、あの人は職場に残った、異動にはなったけれど。わたしだけが貧乏くじを引かされたような気がした。今もしている。
優秀だったはずのわたしは、あれ以来何をやってもうまく行かなかった。
そして、紆余曲折があり、福祉の世界に流れ着いた。流れ着いたという言い方は、この世界でずっと頑張ってきた人にはものすごく失礼なことだと思う。でも、わたしからすれば、とうとうここまで来たという印象は否めない。自分も行くところまで行ったと、そんな気がした。それを思ったのは、思えばくだらないプライドだ。まったく、ロクナモンジャネェ。
いずれにしても、わたしは夢や希望をもってこの仕事を始めたわけではなかった。わたしは、成り行きに任せてこの仕事をはじめた。明日、辞めてもいいと思いつつも、日々仕事を続け、いまだに辞めずに続けている。福祉の世界の、憎悪にみちた、少なくともわたしにはそのように見える、根性の悪さを剥き出しにしたような人間関係。わたし自身そこに染まりながらも生きている。
この業界を離れないのは、生活があるから? それはもちろんある。しかし、それだけではない何かがあるのも事実だった。それ以外の何かは、もしかすると感覚的な問題かもしれないと思う。つまり、そこだ。
福祉の仕事は、言ってみれば正解のない仕事だった。絶対のダメはある。だが、百パーセント正しい答えはない。たとえば一般企業なら、数字によってあらわされる業績が、福祉の世界にはないのだ。だから、あの人のやり方はだめで、わたしのやり方が正しいが起きる。あんなやり方は福祉の恥で、わたしのやり方こそが、真実の福祉だ、が起きるのである。
わたしは、異性関係でしくじってから世の中を斜に眺めるようになった。わたしだけが引かされた貧乏くじ。その思いが、わたしの中にひねくれた心を育んだ。
そのひねくれた心根をもったわたしの目から見れば、この仕事、福祉の仕事に正しいも間違いもない。そう思っている。
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