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私は「草」しか生やせない呪いを掛けられている。

バーチャルAV女優のKarinです。
始めましての方は、PANORAさんにインタビューして頂いた記事があるので、まずはそちらをご覧ください。(この記事とは一切関係ないです)

早速ですが、みなさんは、インターネットで「笑い」を表現するとき、どんな文字を使いますか?

多数派は「wwwwww」「w」、少し文化圏を離せば「笑笑」でしょうか。もしかすると、この記事の読者の多数派(インターネットのじょうずなみなさん)は「草」かもしれないですね。
きっと、みなさんはこれらを場所に合わせて、上手に使い分けながら社会に適合していることでしょう。

私は残念ながら、「草」しか使えないのです。
そういった呪いをかけられているのです。

この記事は、バーチャルAV女優ならエッセイの一つでも書いてみたらそれっぽいか、という思いつきのため、エッセイのリハビリ記事として書かれています。今まで話す機会もなかったけど、エッセイなんていうふわっとした機会じゃないと、こんなふわっとしたこと書けないんですよね。
今日はあなたがたに、インターネットの「笑い」表現についてお話します。
まずは、「笑い」を表す言葉の歴史の話から始めましょう。
ちょっと長くなりますが、この記事は過去を紐解くことから始まるのです。

そもそも、なぜ「使えない」表現が生まれたのか。

インターネットというのは不思議な文化です。日本全国、ちょっと目を凝らせば国境すら超えて、世界中の人間が同好の士を探してコミュニティを作ります。そうして出会った仲間たちは、文章同士でしか会話できないという独特の不安感(と、救い)を身にまといながら、お気に入りのサービスを居場所と決めて腰を落ち着かせるのです。

こんなにも広い場所から人が集まってくるのにコミュニティが保たれる秘密、それは文字や言動のみが担保する同質性です。どこに住んでいようと、その人が実際にはどこの誰だろうと、ディスプレイに現れた文字にさえ共感できれば、その時、その人達は仲間になることができるのです。

だからこそ、ただの文章の中に感情を込めなければいけません。このインターネットは、多くの場合「文章=話し言葉」として成り立っているのです。共感を生む話し言葉には、ポジティブな感情である「笑い」が必要でした。”なんとなく笑いながら発言していそうな雰囲気”のある文章を書くためには、文末に(笑)をつけます。これが全ての作法の始まりでした。

実は私も世代ではないので、この先の話に事実誤認があったらすみません。
(笑)というのは難儀な表現です。なぜかと言えば、日本語特有の変換の都合で、(笑い)と書いてから ”い” の一文字を消さないといけないからです。これは掲示板で朝から夜まで会話する人々にとっては耐え難い手間でした。

そこで、(笑)(藁)”藁”に進化しました。(わら)と変換すれば一回で変換できるため、あの憎たらしい ”い” を消してやる必要はないのです。なんと素晴らしい文明の発達なのでしょうか。もうお分かりのように、「文章の中の笑い」はここで完全に専門用語と化しました。どんな異国の地の人間とでも交わしあえばお互いHAPPYになれる「笑顔」という共通言語は、インターネットにおいては村専用の方言と化しました。

その後、”藁”すら打ちこむことができなくなった人々が現れました。インターネットゲーマーです。ゲーム中の激しい戦闘や目まぐるしい市場の移り変わりに対して、チャット中に笑顔を表すだけのことでローマ字で4文字も浪費する”wara”はもはや追いつくことはできませんでした。こうして生まれたのが「w」です。(草に見えるので”単芝”と呼ばれています。)

「w」はインターネットを席巻しました。何より、使いやすいからです。
さらに、数を重ねれば「wwwwwwwwww」のように爆笑を表せるという直感的な性質も持っています。

使ってみましょうか。

これ使いやすいんですよw

ちょっとそれらしく改変して、同じことを言ってみます。

これ使いやすすぎwwwwwwwwwww

もうなんだか、下は見てるだけで元気になりますね。元気にならない人もいると思います。胃がきゅっとなったりとか、若気の至りを思い出したりとか。逆に、上はちょっと「”コミュニケーション”」という感じでしょうか。
そんなことはどうでもいいんです。

「w」という、もはや由来を知らなければ何を意味するのかもわからない表現は、インターネットから一目でわかる笑顔を奪い、限られた人が笑みを感じ取れるだけの文字列になりました。人間のもっとも根源的な「笑顔」は、まさしくバベルの塔の寓話のように言葉によって分かたれたのです。「笑い」の表現は、神の怒りでなく人々の村社会によって分断されてしまいました。

しかも、分断は一度で終わりませんでした。発祥は同じコミュニティのはずなのに、「w」と「wwwwwwwww」が分派したのです。これが私に降り掛かった第一の呪いでした。

なぜ「w」に呪われてしまったのか。

ニュー速VIPという一時期2ちゃんねるにて最盛を誇った掲示板では、馴れ合いをよしとしない文化や、単芝を使うやつ=ニコ厨(ニコニコ動画出身でVIPに流れ込んできた低年齢層のこと)として、「単芝」の使用が敬遠されるようになっていきました。

さて、当時の私はまさに、「VIPに流れ込んだニコ厨」でした。
ニコニコ動画で仕込まれた「w」を使う仲間が次々に袋叩きに遭うのを横目に、ちょっと背伸びをしたいお年頃ですから、半年ROMるなどの手段を使ってVIPに溶け込もうとがんばりました。

結局のところ、当時のVIPは「w」「wwwwwwww」が入り乱れていました。だったら単芝(「w」の方)を使ってもいいとも思えるのですが、そうもいかない事情がありました。
私は「VIPで〇〇ってネトゲ遊ぼうぜ」系のスレッドに常駐していたのです。当時のVIPのネトゲスレでは、「仲間に徹底的に優しくするため排他主義を取る」ことが暗黙の了解となっていました(VIPヌクモリティの正体)。そのため、「VIP外」の一般プレイヤーを見分けて排除する必要があったのです。

お察しの通り、「単芝」は踏み絵になりました。新参者が会話中に「w」を持ち出そうものなら、潜り込んできた一般プレイヤーと認定されて一瞬で袋叩きにされました。笑うなら、「ワロタwwwwwwwww」のように表現しなければならなかったのです。VIP掲示板本体では「wwwwwwww」自体が「w」と同一視され嫌われることもありつつも、私たちはある種のIDとして「ワロタwwwwwwwww」をやめるわけにはいきませんでした。

こうして、私は「w」を使えないという文化を内面化していったのです。
もともと「w」には嘲笑のニュアンスがあると言われることがありましたから、それを排除することはある意味で理に適っていると、今でも思います。
チャットの文字だけで正確に感情を示さないといけない者たちにとって、「w」と「wwwwwww」の違いは重要な感情の機微でした。
しかし、単に ”「w」は笑いを表すスラングだ” と認識している一般の人からすれば、そんな繊細な用法は知ったことではないでしょう。だから、こういった書き方があらわれてくるのです。

これはないわw

たとえば、この例文では致命的な齟齬が発生します。書き手の想像する光景は、単に「笑顔で、冗談めいてたしなめたつもり」ではないでしょうか。
しかし、受け取り手が単芝アレルギーを発症していたら大変なことになります。ここに嘲笑・半笑いのニュアンスを加えると、鼻で笑われているような、めちゃくちゃ馬鹿にされてる感じがしますね。
何より問題だったのは、これを本当に前者の意味で使っている人も、後者の意味で使っている人もいたことです。本当に冗談のつもりなら、「これはないわwwwwwwwwwww」とより直感的に表記できるからこそ、単芝には余計な意味が付着したのです。これは今風に言えばミーム汚染のようなもので、”一度気づくと我慢できない” タイプの呪いと言えるのではないでしょうか。

そんな私の青春の始まりは、VIPからのニコニコへのアンチテーゼとして行われていた「wwwwwwwww」は、「ニコニコ内部によるニコニコへのアンチテーゼ」によって刈りつくされることになりました。

「草生やすな……草生やすなよ……」

実際には見ていないことまで、恥知らずにもつらつらと述べてきたような事情と歴史から、すでに私は「wwwwwwwww」以外の表現を使うことができない身体になっていました。一生こうやってネットで笑いながら生きていくのだと、私はそう思ってきました。

いつからだったかは定かではありませんが、なんと日本語笑顔表現の「w」という笑い方に正面からNOが突きつけられる出来事が起きます。荒らしジャンルの一つとしてひんしゅくを買いながらも、細々と名作音MADを排出し続けていた「真夏の夜の淫夢」の躍進です。元ネタ(原典)となっているゲイビデオの、どう考えても不自然なセリフや棒読みをコメントに取り込んで貪欲に定型文ネタにしていくこのジャンルは、ついに面白いコメントそのものを「語録」として取り込むことで全体主義的な面白さを熟成させました。

そういった特質から、流行っていたものを中途半端に公式化して使い潰す当時のニコニコ運営への強烈なアンチテーゼとして神格化されることになります。このジャンルは本物の市販ゲイビデオの違法アップロードが題材であるため、運営がネタにすることができないほぼ唯一の聖域なのです。

当然、旧来の「ニコニコが推奨していた」笑い方は踏み絵にされました。「運営が強制力・影響力を発揮する前の勝手に盛り上がっていたニコニコ」を復古させる運動だからこそ、今のニコニコの象徴であった「wwwwwwwwww」の濫用は許されませんでした。徐々に先鋭化したコミュニティは、新たな「笑い」を生み出します。
見た目通りの「草」「草生える」「大草原」の誕生です。

これまでの(笑)の歴史から生まれた、「w」からできる限りの連想力を保ちつつまったく新しい表現は、相対的にニコニコ文化が弱体化していくに伴って、ニコニコへのアンチテーゼの文脈を乗せながらインターネット全体に拡散していきました。

ちなみに、「草」の用法は初見では結構わかりにくいです。なんと言っても、既存の「w」とは使い方が違うからです。「本当に笑っていること」を示しているため、特に意味のない「笑顔」を表すのには使えません。具体的に面白がっている内容に繋げながら「◯◯(理由)で草」という形にしなければならないのです。

❌「こんな記事いらないwww」→「こんな記事いらない草草草」
⭕「この記事需要なさすぎて草」

ここまでの言論統制とアンチテーゼはなぜ必要なのでしょうか?それは、ニコニコ動画が本来「コメントによって完成する動画サイト」だったからです。動画に対して一体感のあるコメントをすれば、その面白さは何倍にもなります。何なら、めちゃくちゃにつまらない動画でさえ、コメントの力でめちゃくちゃに面白くすることができるのがニコニコです。

そのためには統一感のあるコメントが必要です。真夏の夜の淫夢は、そのコメントを獲得する手段に長けていました。膨大なツッコミどころと、定型文さえ知っていれば、それをもじるだけで面白くなるというコメントのハードルの低さです。
結局、ニコニコ動画の面白さにすがりつきたかった私は淫夢動画を好きになりました。そこには管理された在りし日のユートピアがあったのです。ぶっちゃけ、元ネタの好き嫌いに一切の関係はなかったのです。編集がそこまで凝っているわけではない動画でもアイデア一つでその日の人気動画になれる空間は、もうニコニコのスラム街にしか残されていなかったのです。

こうして私はインターネットの思い出を引きずったまま、「w」さえも、ある日の拠り所だった「wwwwwwww」さえも、当然先祖返りした「笑笑」なんて言うまでもなく、使えなくなってしまったのです。これが現在進行系で私を蝕んでいる、二つ目の草の呪いです。このユートピアを少しでも守るのに役立つ限り、この呪いが解けることはないでしょう。

最近「草」も一般化してきてアンチテーゼじゃなくなってきたので、そろそろ解けそう。次どうしよう。

結局このマナー講座みたいな記事は何なんだよ

自分が「草」以外の表現を使えない愚痴、なんですけれども。
リアルでいくら「w」や「笑笑」を使われようと、それをそのまま返す気にはなれません。実は私は「草」も使えないのです。(不用意なネタの持ち出しは厳禁なため)

ただ、個人的には結構切実な悩みです。不用意に「界隈の外」に対して使ってしまえば、名実ともに、黒歴史と共に私のゆりかごだったインターネットの文化に泥を塗ってしまうことが純粋につらいのです。
もしかすると、極限まで文化の壁が低くなったSNS社会では必要のない配慮なのかもしれません。それでも、最後の一人になっても、この誓いを守りたいのです。それは一生「草」を使うことを意味するのではなくて、もっと面白いアンチテーゼができたら、敬意を持った上で乗り換えたいのです。

あなたがたの周りを見回してみて下さい。考えてみると、絶対にLINEで「草を生やさない」人がいるかもしれません。聞いてみても、その理由を正面から語ることはないでしょう。語るとこの記事のように痛く、暑苦しくなるからです。(現在5208文字)

エッセイのリハビリにしては、あまりにもどうでもいい、あまりにも本題と関係ない歴史の話を繰り返す、あまりにも細かい用法にうるさい記事になってしまいました。だからこそ、こんな機会でもないと書けなかったのです。普段と書き方を全く変えてしまわないと書けなかったのです。バーチャルAV女優のイメージを犠牲にしてでも書かなければいけなかったのです。

書きたい時に、吐き出そうと思った時に吐き出せなかった思いは一生人を苦しめるし、結局苦しみながら吐き出した記事は歴史に、そしてgoogleにほんの僅かでも楔を打ち込むかもしれません。だから書けたのです。5時間ぐらいかけて書いたのです。

今からコミケの原稿をやったり、喉の調子がよくなったらバイノーラル音声を録音しなければいけません。でも、昨日眠れない時に書き出してしまったこの文章はきっと私の心の叫びなので、完成させなければいけなかったのです。昨日の私の2時間半と今朝の寝坊を無駄にするわけにはいかなかったのです。少なくとも、一年ぶりにキーボードで長文を叩く筋肉を呼び覚ますには十分でした。

ちなみに、私はテキストで人と話す時に「笑い」を表すのは諦めました。「草」が過不足なく通じる相手にのみ、多少使う程度です。代わりに、

「これめっちゃ面白いんだけど~~~~~~~!!!!!!!!!!」

みたいに、伸ばし棒とビックリマークの妖怪になっています。押し込めた感情を数で表す暑苦しい人になってしまいました。Twitterでこうなってるのを見かけたら味わい深く笑ってあげてください。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
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(謝辞)この文章の勢いはこの「真性引き篭もりhankakueisuu(別名17uu)」さんの文章にちょっと影響されています。ありがとうございました。


バーチャルAV女優のKarinです。 「性別に囚われず好きな仕事のできる世界」を目指して、男性向けセックスワークをやっています。